表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

652/1408

第六百五十二話

 久我光輝を含む三人との決闘の終了後、秀星た『バキャッ!』……あ、ちょっとまってくんない?「あー。すまんすまん」……秀星たちは結界の外に出た。


 光輝は思ったより沈んでいた。

 視線が時々基樹の方を向いているところを考えると、考えられるルートはいくつかある。

 いずれにせよ基樹にコテンパンのフルボッコにされたはずだ。

 おそらく『天窓学園の生徒の中で最強』が基樹だという情報が流れたのだろう。

 とはいえ、ジュピター・スクールの生徒たちの多くは『なんであんな化け物がいるところに自分から行かなくちゃいけないんだ』と否定的であった。


 そのため『ベキベキッ!』……ごめん、もうちょっと待って。「あれ、まだか」……そのため、基樹以外の最強の候補を考えると、黒瀬聡子しかいない。

 だが、聡子はある意味最強ではあるものの、『強さ』として最強なのかと言われるとそれはまた別だろう。

 彼女の場合は母性なのだ。


 聡子の場合、『出会って三秒で家族』『私はみんなのお母さん』『お母さんは子供のことが全部わかってる』というものなのだ。言いたいことは分かるな。

 ちなみに天界では『母性神』は『全知神レルクス』の傘下だが、それを考慮しないとしてもわかってもらえると大変助かる。


 聡子は確かに強いのだが、純粋な戦闘力というわけではない。皆のお母さんだから多分戦っても強いけど。

 で、最強は基樹となり、そして光輝は基樹に挑んで、負けて、今度は秀星に挑んだ。

 よくよく考えれば、『世界一位』などという称号を持つ秀星を相手に、基樹にすら勝てないのに挑んでどうにかなるわけがない。

 そして秀星にも負けたのだ。

 そりゃ悔しいに決まってる。


「というわけで秀星!オレが来たぞ!うれしいだろ!」

「別に、全く、全然」

「そんな目をそらしながら言うなよ。ちょっと悲しいじゃねえか」

「来夏に悲しいって感情あるの?」

「つらかったことならあるぞ」

「あるのか?」

「ああ。沙耶を産んだ時だな。ずっとケツ痛かったし」

「でしょうね」


 せめて『お腹を痛めた』とか『陣痛がな……』とかそういう表現をしてほしかったが、来夏にそういう空気を求めても応えてくれるわけではない。

 ただ、どれほどギャグ補正がぶっちぎっている来夏でも、陣痛はしっかり痛いのだ。

 なんとなく安心した秀星である。


「ていうか、完璧に天窓学園の敷地内なんだけど、大丈夫なのか?」

「大丈夫だ。バールで空間をぶち破った場合はセンサーが反応しねえからな」

「そういう話をしているわけじゃない……」

「ちなみにこの学校、外から中に入るときのセキュリティはそこそこすごいけど、中から外に出るときはそうでもないからな。オレも普通に出られるぜ」

「なんかちょっとヤバい領域に踏み込んでる気がしなくもないからそういうの黙っててくれない?」


 ちなみに来夏としゃべっているのは秀星だけである。

 他の面々はちょっと距離を置いておきたいのだ。

 ついでに言えば、来夏を知っているものは『まあ、ここまでメンツが揃えばそりゃ湧いてくるよなぁ』という空気になっていたのである程度受け入れている。

 反対意見ではなく棄権申請が飛び交うのが来夏という女に対する印象である。

 清き一票など意味はない。鋼のような拳が必要なのだ。原始時代に帰れ。


「……そういえば、来夏は合同演習のプログラムには組み込まれているのか?」

「組み込まれていますよ。どうせ後に回しても勝手に湧いてきますから」

「正しい判断だな」


 宗一郎と聡子のやり取りだが、何かがとても悲しい。


「ま、そういうこった!こっからはオレも混ざるから、覚悟しろよ!」


 腰に手を当てて宣言する来夏。

 正直このまま帰ってほしいくらい楽しそうな表情だが、いったい何をする気なのだろう。


「で、次のプログラムってなんだ?」

「バトルロイヤルです」

「え、いきなり?」

「はい。ただし、基樹さん、宗一郎さん、秀星さんの三人はボスキャラ扱いなので特定のエリアで待機することになりますね」


 好きだなバトルロイヤル。と思ったが、こういう慣れは重要だ。


「ちなみに、今までは森だったり都市だったりとバラバラですが、今回は魔戦士学校の合同演習ということで、ダンジョンの内部のようなものになっています」


 これに対してバトルロイヤルの経験者は頷く。

 聡子の説明に対して、不審な点は特に見当たらない。

 一点を除いて。

 そう、『聡子と来夏はどうすんの?』ということだ。


「ちなみに私は教会役です」

「教会?」

「はい。時間いっぱいまで皆さんには戦ってもらいます。そして、復活ポイントで私は皆さんを待っています」


 お母さんから聖母に転職するのだろうか。


「まあ、そこもいいとしよう。で、来夏は?」

「野良ボスになってもらいます」


 野良ボス。

 要するに、フィールドを自由自在に動けるボス。ということだ。

 それを聞いた『来夏の情報を持っているもの』は思う。

 『悪魔の瞳(ラプラス・アイズ)を持ってる来夏が野良ボスとか正気かよ』と。

 どこに何があるのかがわかる。という性能に特化したOESなのだから当然だ。


「ちなみに、ダンジョンの中には宝箱を置いておきます。この中には、このダンジョンでのみ使えるチートアイテムが入っている可能性もあります」

「!」


 それを聞いて多くの生徒が頭の中で考える。

 正直なところ、基樹、宗一郎、秀星の三人に関してはボーナス扱いのようなものだ。

 おそらく三人とも手加減したり、何かしらのマニュアルに従って戦うはずで、ミッションをこなせばポイントをくれるとかそういう感じになるだろう。勝てないしね。

 そして浮上した『チートアイテム』の存在。

 バトルロイヤルという以上、生き残れば何かしらの報酬があることも考えられる。

 そのうえで、チートアイテムの存在は重要だ。


 ……まあ、芋ってたらゴリラが粛清しに来ると思うけど。

 ついでに言えば、それらのチートアイテムを使っても問題ないレベルの『ボス』扱いができるのが三人ということだ。

 来夏は同じところにじっとしていてくれないので別枠。


「あ、ちなみに、オレはヨガの達人だからたまに宝箱の中に入ってるかもしれねえぜ」

「開けるの怖くなるからそういうこと言うのやめなさい」


 宝箱を開けたらとんでもなく体を曲げた大柄の女が入ってるとか地獄にもほどがある。

 一度でも遭遇すれば十年は夢に出てくるだろう。即座に精神科に放り込む必要が出てくる。


 ただ、来夏に突っ込みを入れている間も、秀星はいろいろ考えていた。


(だいぶ突っ込んだルール整備だな。単純に戦って生き残るっていうより、とにかく動き回らせることに重点を置いてるような……)


 このようなことになった理由はいくつか考えられる。

 純粋に聡子、もしくはアトム辺りの趣味が入ってきたか、それとも『天窓学園の生徒に尖った能力があるスキルを抱えているものがいるか』というもの。

 どちらもあり得る話であり、別にどちらであっても興味は出てくる話だ。


 あとは『チートアイテム』がどのようなレベルの物なのかが気になるが、言ってしまえばその程度。


(まあそもそも、残機無限の時点で今までとかなり異なるか)


 天窓学園の生徒の中にはサポートに徹した方が強いパターンの生徒もいるだろう。

 光輝の取り巻きは恐らくそれに該当すると思われる。

 そして、そういったもの達は『誰かについていかなければ狩られて終わり』になってしまう。

 誰とも遭遇せずに終わってしまうことも考えられるが、逆に一人で行動するとして、チートアイテムに出会える可能性もある。


(どんなことが起こるのか。パターンをいくつも想定することはできるが、何が起こるかは不明だな。どっちみち)


 九十六人の生徒が入り混じるダンジョンというだけでそれ相応に異質だ。

 これまでにないものが見られるだろう。


 そういう意味では、秀星としても期待する。

 秀星たちボスの役目は、『チートアイテムを手に入れたからと言って調子に乗んなよゴルア!』をすることだ。


「それでは早速準備に取り掛かりますので、皆さんも準備を始めてください」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ