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第六百四十六話

 魔法学校において重要な施設とは何を指すのか。

 実は、そう聞かれて答えを返せるものは少ない。


 ただ、あくまでも魔戦士が目指すのは『魔法資源の入手と換金』である。

 これを行うことで収入とするのだ。


 そのため魔戦士がしなければならないことは、『ダンジョンごとに存在するモンスターの種類と出現頻度と自分の戦闘スタイルとスタミナのデータを比較し、黒字になるようなダンジョン周回ルートを構築する』というもの。

 何度も何度も挑んでいると、『例外』すらも周回の一部になっていく。

 そして、『よほどの例外』が発生しても、マップが頭の中に入っているので逃げることはできる。


 それを前提とするならば、『自分が何をどこまでできるのか』ということを把握することが必要だ。


 そのため、『優秀な魔戦士を育成する』学校には、膨大な量の計測器が置かれている。

 この計測という概念は大切だ。

 というより、『あやふやなイメージ』を理解するためには、実際に数字にしてみるのが一番手っ取り早い。


 なお、魔戦士は高級取りと言われることがよくある。

 これは言い換えれば、『生涯賃金二億円』という言葉を分解するとして、23歳から65歳の42年間働くのを月に分解するとすれば、『生涯の平均月収』は42×12で504だ。

 二億を504で割るとほぼ四十万円である。退職金を計算に入れてないし、昇給システムはほぼ無視しているが。


 で、本当に稼いでいる魔戦士の『生涯賃金の平均月収』は四十万円では済まないので、経費も多いが入ってくる収入を考えるとおおむね高級取りと言われるのである。


 これらを前提として、天窓学園がどういう状態なのか。という話なのだが……。


(なんか。計測器の量がすごいみたいだな)


 天窓学園に向かうバスの中。

 秀星の隣で窓側の席に座る風香が寝ているが、その横では秀星がパンフレットを見ていた。


「トレーニングジムとかも多いみたいだけど、本当に計測器が多いね。なんだか研究所っぽい色合いの建物も多いし」


 後ろの席、最後列に座る雫が話しかけてきた。

 確かに、と秀星は頷く。


「まあ、天窓学園はアトムがかかわった教科書を使って授業をしてるみたいだし、具体的な測定を何度もできる環境っていうのはこれからの調整を考えるとやりやすくなるからな。そう考えると、研究所みたいな見た目になるのもまあ理解できなくはないが……」


 秀星はそう判断する。

 というより、『生徒たちがどの程度優れた魔法を使えるのか』などということが、計測器なしで判断できるわけがない。

 計測するために必要な『単位』を決めて、それを物差しにして計測しなければわからないものだ。

 学力を計るのならテストをするし、身体能力を計る場合は能力テストをする。

 測る対象が魔法であったとしても、結局は『戦闘』に使うもので、『実用的』であるかどうかしか問われないのだ。


 何となくで『優秀』は作れない。


「てことは、今回の合同演習って、秀星君が考えた教科書を使った沖野宮高校と、アトムさんが考えた教科書を使う天窓学園の戦いになるの?」

「まあなると思うぞ。だってそれ以外にすることないもん」


 実際、それ以上何をしろというのだろうか。


「強いて言えば、秀星と基樹がガチバトルをするくらいだろ」


 羽計が雫の横から話してくる。

 秀星としても頷くしかない。


「秀星君が戦ってる映像ってある程度広まってるけど、まだまだ分かってない人が多いもんね。ドカンとすごいものを見せようってことなのかな」

「まあそうなると思うが……基樹が全力を出してくるとなったら、多分クソつまらんぞ」


 秀星はそういった。

 それに対して、雫と羽計、そして雫の横に座るエイミーは驚いた。


「かなり派手なものになるのでは?」

「いやまぁ……何も考えずに見る分には派手かもしれないが、俺だって全力で戦う気はないし、基樹だってそれ相応の手段は選んでくるだろ。そう考えると、ほぼ同レベルの手段を用いた戦いになる。そうなった場合、駆け引きとかを考えるとじゃんけんにしかならないんだよなぁ……」

「じゃんけん?」

「そうだ。基本的にはお互いにグーで殴り合って、仕込んだパーを出す。あるいはそのパーをチョキでつぶす。または、実はパーがブラフで、相手が出したチョキをそのままグーで轢き殺す……みたいな、そんなやり取りになるんだ」

「でも、秀星君自身はとんでもなく強いよね」

「この駆け引きをする必要がないくらい実力があるからな。ただ、同レベルになるとそういうことができないと数秒で詰む。まあ、基本は三角関係になるような感じになるってだけで、実際は変則的なじゃんけんになるときもあるが、小細工は小細工だからな。特例は続かない」

「なるほど。駆け引きかぁ……」


 相手の呼吸を崩す。相手にバレないように置き技のタイミングを考える。いろいろ手段があり、そしてそれをするべきタイミングというものがある。

 そのため、どちらかが仕掛けるまでは、毒にも薬にもならないような斬撃勝負が続くのだ。

 これが正直とっても面倒である。


「……あと、なんていうか……やっぱり秀星君。風香ちゃんと距離が近くなってるね」


 雫がそういった。

 それを受けて、秀星はちらっと視線だけ動かす。

 その先では、秀星の肩に頭をのせて眠る風香がいる。

 確かに、距離は近くなった。


「まあ、未来から子供たちがやってきたら、そりゃ意識だってするさ。しかも、二十年後に十五歳の椿がやってきたってなると、どうしても時期が特定できちゃうし」

「正直、星乃君は秀星君と似た苦労人の雰囲気があるけど、椿ちゃんは誰の遺伝子なのかって思ったもん」

「多分父さんだな……ていうか、俺が苦労人ってどういう意味だ」

「言葉通りの意味だよ。なんていうか秀星君って、心に芯がないような気がするし」

「……」


 雫に言われたくはない。と思った秀星だが、グリモアに行って判明したことを並べていくと、どうしても秀星は『器』が抜けているようだ。

 そう考えれば、雫の指摘は間違っていない。


「……さあな。ま、風香がどう思うかだけど」


 秀星のエリクサーブラッドは、所有者が感じる『葛藤』を一時的に除外することができる。

 そのため、やろうと思えばこのバスの中で性的な意味で風香を襲ったとしても秀星は何も感じない。

 当然やらないけど。


「まあ、風香ちゃんは繊細だからね。ちゃんと見守らなきゃだめだよ」

「……」


 秀星は『ていうかなんで俺、雫に突っ込まれてるんだ?』と思わなくもないが、おそらく指摘しても解決はしないと判断した。


(こういうのって、誰に相談するべきなんだろうなぁ……)


 自分の肩に頭をのせて眠る風香と、後ろから突っ込んでくる雫を相手にしながら、秀星はそう思うのだった。

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