第六百四十五話
二つの学校の合同演習。というのはいいが、片方の学校の生徒数がよほど少ない場合を除けば、教師陣が生徒を選んで行かせるものだ。
沖野宮高校が行くのか。天窓学園が行くのか。
どちらなのかがチラシには書かれていなかったのだが、どうやら沖野宮高校側の生徒が天窓学園に行くことになるらしい。
ちなみに、施設のレベルは言うほど差がない。
開校したばかりで生徒たちも慣れないはずなのだが、『習うより慣れろ』で何かイベントをして叩き込んだ方がいい。ということなのだろうか。
詳しいことは不明だが、いずれにせよ、秀星たちが行くことになったのは間違いない。
「秀星君。私、天窓学園の合同演習に参加するようにって封筒が来たんだけど、秀星君は来た?」
秀星は現在、神祖を相手にするための手段を開発しているところだ。
そのため、いろいろなところに行っている。
日本に限らずである。
だが、今日は九重市をふらふら歩いていた。
移籍云々は来夏がどうにかするといっていたし、秀星は神祖について考えることに集中できるわけだが、たまには息抜きも必要ということで、九重市を歩いていたのである。
何か買っていこうかと考えていたところ、風香が秀星を発見したようで走ってきた。
「ん?ああ、俺も来たよ」
抽選ではなく教師陣が直々に選んだのがよくわかるというものだが、秀星はあえて気にしない。
秀星がいるといろいろな無茶ができる。
無茶ができるということは余裕があるということであり、無駄と言って切り捨てるのは愚策である。
「やっぱり、教師もみんな同じ考えなのかな。剣の精鋭が天窓学園の生徒たちと戦うこと」
「だろうなぁ。まあ、理由の一つは、『教育内容の差』みたいなものを知りたいんだろ」
「内容の差?」
「メイガスフロントで使われる教科書の多くは頂上会議……特にアトムがかかわって作られた教科書が多い。で、今年から沖野宮高校は、俺がかかわって作った教科書が使われてる。それぞれの学校で、成績優秀なものが集められるだろうな。多分、そこをぶつけるって目的もあるはずだ」
ちなみに、沖野宮高校の教科書変更は、魔法社会が表に出てきてからほぼすぐに行われたので、『今年度』ではなく『今年』で間違いない。
「へぇ……どっちが強いの?」
「いうほど差はないだろ、あまりこういう言い方するのはアレだが、俺や剣の精鋭のメンバーは『優秀』じゃなくて『異質』だからな?」
「あー……そういわれるとそうだね」
実は剣の精鋭メンバーであっても、魔法省が求める『魔戦士としての評価基準』で考えると基準を満たしていないものはいる。
であるならば、剣の精鋭であっても『優秀』とは言えない。
そのため、『剣の精鋭メンバーの強さ』は『その学校の教育の質』とはほぼ無関係である。
「教科書が違えは素質も違うよね……一応ルールや基準は決まってるけど、思うようにはならないんだね」
「魔戦士にかかわるすべてを知ってるものは誰もいないんだ。だったら、完璧なルールやシステムなんて作れないだろ」
「それもそうだね」
魔戦士にかかわるすべてと言われると、知らないのは秀星も同じだ。
秀星は魔法にかかわる技術を追求し、それの使い方を考えていくわけだが、『その技術を誰にでも使えるものにする研究』はほぼやっていない。
「全てを知ってるわけじゃないか……秀星君って、どれくらい長い時間、『研究』してるの?」
「……『一兆年』単位で何千万回かある」
「……それ、時間として認識できるの?」
「時間を操作して研究して、そして神とか神祖を相手にするとなればそれくらい必要だ」
秀星の戦闘センスは、『万能細胞アルテマセンス』に頼ったもので、多少の無茶をする場合はそれを『宝水エリクサーブラッド』で補う。というものだ。
言い換えれば、アルテマセンスではどうにもできないレベルになった場合、そこからは魔法の減少を追求するしかない。
天界神ギラードルと戦ったとき、スペックの面では押されていたが、これは下位神の神器であるアルテマセンスを基盤として他の神器を使う秀星の戦闘センスが、『第一世代型の最高神』であるギラードルに届いていなかったからである。
もちろん、『その先』といえるランクの技術を所持しているため、押されていたとしても耐えることはできるのだが、限界はある。
「……何かの漫画に、『5億年ボタン』ってあったよね」
「あー、あれか。ボタンを押すと、何もないところに行って5億年過ごして、そのあと記憶を消去されて現実に帰還して、百万円貰えるってやつ」
「そう、それ」
「まあ俺の場合は、記憶も全部保持した状態で、なおかつ百万円ももらえないが……解除するタイミングを自分で決められるっていう程度の差だな」
「一兆年ってことは……」
「5億年ボタンを二千回押した感じだな」
「そんなに時間が必要なの?」
「研究にはそれくらいかかる。まあ俺の家でダラダラしてるラターグに聞いてみればわかるが、神の中には二万桁くらいの年月、存在してるやつもいるからな。当然、その中で多少の研究をしようとしただけで、俺が研究してたくらいの蓄積時間はぶっちぎれるんだ」
「でも、秀星君っていろいろな神に勝ってるよね」
「それは急所を突いてるからだ。敵にはわからないように正々堂々と戦ってないからだ。それだけの話。だから、神祖が相手になると本当に面倒なことになる」
風香は絶句した。
では、それほどの存在から評価される秀星って一体。となるのである。
「じゃあ、秀星君って、十億年とか普通なの?」
「俺が持ってる『宝水エリクサーブラッド』があれば時間に対する感覚が違うっていうのはあるが、確かに十億年くらいならあっという間だ」
「そっか……」
あっという間、ということがどういうことかというと、そもそも人間は『時間がかかること』に対して抜群に集中すると、それがひと段落ついた瞬間に時計を見て、『もうこんな時間!?』となるのだ。
要するに、秀星は『十億年くらい使わないと終わらない作業』というものをいくつも行うということである。
正直人間のスケールではない。
「まあ俺の話はいいや、天窓学園だけど、まあアトムが裏でいろいろ考えてるだろうし、俺が今更考えても何も変わらんよ。もともと変える気ないけどな」
そういって、秀星は歩いていく。
その背中を見て、風香は思う。
(……私、こんな意味不明な人と結婚して、子供を産むんだなぁ)
と。
秀星に対して恋愛感情があるかどうかと言われると、おそらく風香は顔を赤くしながら否定するだろう。
ただ、まあ、あれだ。
椿はかわいい。星乃もかわいい。
秀星についていくためにどうすればいいのかはわからないが、変わらないことが一つだけある。
それは……秀星の母親である沙羅から『いろいろ聞いている』ということだ。
……頑張れよ、秀星。




