第六百四十四話
「秀星。オレは良いことを思いついた!」
「どうせロクな事じゃなさそうだけどな」
「フフフ。これを見ろ!」
来夏は一枚のチラシを秀星に見せてくる。
その一番上には、『第一回、沖野宮高校・天窓学園合同演習開催』と書かれていた。
「……なんだそれ」
「秀星が通ってる学校と、他の学校が合同演習をするって話だ」
「へぇ、天窓学園ってどこだ?」
「運営が魔法省の学校で、今学期から開校したところだ」
魔法が表に出てきたことで、『魔法というものを学ぶ場所』というニーズが爆発的に増加している。
大型の人工島がもともと存在し、そこは『メイガスフロント』と名付けられて学校が存在したが、かなり無理をして作った人工島ゆえにキャパシティがすでにギリギリで、本州に新しく作るしかない。
というわけで、魔法省が管轄の魔法学校がいくつも設立されている。
天窓学園という学校はそうして作られた学校なのだろう。
「本州に作られた学校で、メイガスフロントからの転入生が数多く入ってるぜ」
メイガスフロントに通う学生との距離感を縮めるためだろう。
魔法関連の教育機関として優秀……と呼ばれるものは少数であり、実はそうでもないのに通っているやつがそこそこいるのだ。メイガスフロントの学校。
本州にわざわざ魔法省が命令して設立するとなれば求められるノルマは高くなるはず。
ただ教科書を適当に流し読みするだけではどうにもならないだろう。
「ジュピター・スクールから入ってるやつも多いからな」
「へぇ……ん?基樹達って今、ジュピター・スクールに通ってないのか?」
「ああ、『今学期から開校』って言っただろ?基樹たちは今、こっちの天窓学園に通ってるってわけだ」
「なるほど」
「ちなみに、魔法省の重要な支部が近くにあるんだ。で、ジュピター・スクールの生徒会長だった女子生徒が生徒会長を務めてるみたいだぜ」
秀星は正直露骨だと思ったが、それを今追及したところで意味のない話だ。
「へぇ……頂上会議の誰かが来るとは思ってたけど、結構入ってきたのが大物だな」
「学校では生徒会長である黒瀬聡子がいて、支部長はアトムだからな」
「……あれ、魔法省の大臣って誰だっけ?」
「会堂漣って覚えてないか?頂上会議の一員で、『日本魔法社会意思決定会議議長』だった初老の男性だけど」
「記憶にないな」
「秀星は魔法省の権力者と話すときはアトムとしか話してないからしかたねえけど、魔法省の大臣くらいは覚えておいた方がいいぜ」
「だな」
哀れなおっさんである。
「で。その天窓学園との合同演習か。来夏とは何の関係があるんだ?」
「フフフ。学校同士のイベントとして、二つの学校の生徒が集まるんだ。楽しめそうだろ!」
「……」
学園と書かれているし、チラシの内容を見る限り、初等部と中等部も存在する。
小六である美咲と中三である優奈もこちらに入っているといえるだろう。
言い換えれば、このイベントは、二つの学校の生徒が合わさると同時に、『剣の精鋭』が全員集合するということだ。
そこで盛り上がらなかったら来夏ではないのでそこは良いとしよう。
ただ、秀星は一つ思うことがあった。
「なあ来夏。最近さ。剣の精鋭の中で抜けようかってかんがえる奴がいるの知ってる?」
「五人くらいそう考えてるメンバーがいることは察してるけど、今考えても仕方ないから後回しにすることにしたぜ!」
「……」
秀星は『そういや流れをぶったぎることを普通にするやつだったな』と思い返して、結果的にため息を吐いた。
「……まあ、いいや」
来夏には来夏のやり方がある。
そして、そのやり方というものは一見するだけではちょっとわからない領域のものだ。
正直な話、それを予測することも理解することも不可能である。
「ていうか、去年も去年でメイガスフロントに行ったのに、今年はメイガスフロントからやってきた生徒と魔法社会に関係ないところから入ってきた生徒が混在する学校と合同授業か……飽きないのか懲りないのかしらないけど、何考えてんだろうな」
「まあ、戦闘力だけで見れば、沖野宮高校では秀星が一番上で、天窓学園では基樹が一番上だ。そういう勝負をさせようってことなんじゃねえか?」
「……それは最低限させようとしてくるだろうな」
グリモアにいって神器を回収し、そして魔王としての力も開放可能な基樹が相手になる。
まあ正直、秀星の強さはその程度では揺らがない。
百年以上前のグリモアで、魔王だった基樹は神器を使わなかったため、神器を使った場合の戦術を秀星は知らないが、だからと言って基樹だって秀星を相手にしたいかと言われると首を横に振るだろう。
ただし、あくまでもイベントの一環となれば、秀星としても負けるつもりはないし、基樹だって無様に散る気はないだろう。
それ相応の勝負になるはずだ。
……ただ、ちょっとでも本気を出した瞬間に周辺にあるものがすべて吹き飛ぶし、秀星を相手にする基樹がそこまで我慢できるかどうかは不明である。
おそらく魔法で異空間を作ってそこで戦うことになるだろう。
「ただ、俺も基樹もそこまで乗り気じゃないんだよなぁ……」
そもそも『お互いに全力を出す気などさらさらないのに戦っても全然面白くない』上に、『魔戦士はモンスターを倒して魔法資源を獲得するのが仕事。人を相手にする元気があるならモンスターを倒せ』という風潮はまだ続いている。
要するに、『魔戦士』はあくまでも『一次産業』に該当する職業なのであって『エンターテイナー』ではないのだ。
異世界に行ったことでその雰囲気を感じて、ある程度『人を相手にするものだ』ということを認識しなおすことはできたが、だからと言って地球でもその価値観を保とうとはさすがに考えない。
「まあいいじゃねえか。合同演習っていうけど、結局は『こんなすごいことができる』ってアピールするためにあるもんだろ。余裕があるうちに前例を作っておくのはいいことだぜ?」
「神祖を相手にすることを考えると、別に余裕があるわけではないんだが……」
「だが、いろいろと意識を変えていくことは重要だろ?だったら、わかりやすく示した方が速いってもんだ」
「結局することになるのは変わらないから、思惑云々はいいんだけどな……」
「じゃあ何が不満なんだ?」
「……いや、後で考えればどうでもいいと思うようなことだ」
秀星はチラシを再び見る。
どのような進行で行われるのかさっぱり書かれていないうえに、書かれていることも雰囲気を単につかむだけの要領を得ないものばかりなので、ここで結論は出せない。
ただ……『巨大な魔法の実験を行う』と書かれている。
秀星としてはそこが気になった。
この合同演習という場に持ってくる理由がわからない。
(……アトムだな。なんだか、急遽ねじ込んだような雑さがある)
その急にねじ込んだと言う前提ならば違和感のない設定に仕上がっているのがなんともアトムらしいが、秀星はどうにも、それが急に加えられたものだということしか考えられない。
「秀星も魔法の実験が気になるか?」
「ああ、来夏も気になったのか」
「だって、魔法の実験なんて、乱戦イベントを開いてそれを使うか、モンスターがいるダンジョンで使うのが普通だし、わざわざ披露するためにプログラムなんて組む必要はねえよ。実際、そういうのはあまりなかったからな」
「フーム……となると、アトムなりの神祖への警戒か?」
「ん?アトムって神祖についてちゃんと理解できてるのか?」
「アトムは『失敗する前に成功する才能』に関しては世界でトップレベルだしな。俺から神祖の話を聞いて、実際にライズを見て、アトムだけがわかったこともあるはずだ」
「すげぇ才能だな」
「ああ。で、俺は『天才』っていうのはそういう人種だと思ってる」
「失敗する前に成功する才能か」
「間違った考え方ではなく正しい考え方だけを前提として身につけることができる能力。ともいうけどな。まあ、その才能をいいことに使うのか悪いことに使うのかは本人次第だが」
「言いたいことはなんとなくわかったぜ」
来夏は大きくうなずいた。
そして、頼れる笑みを浮かべながら言う。
「秀星。メンバーの中で抜けようかどうか考えてるやつがいるって話だけど、そういうのは全部オレがどうにかするさ。オレのチームだからな。だから、秀星は神祖とか、そういう面倒くさいことをちゃんと考えておけよ。それじゃあ、ちょっと準備することがあるから、またな!」
来夏はそう言って走っていった。
「……来夏が『悪魔の瞳』を持ってるのはやっぱり反則だな」
楽しそうな表情で去っていく背中を見て、秀星はそう呟いた。
誰にも見えていないが自分には見えている。
人間、そう思うことがあれば、実際にそうなっていることもあるわけだが、来夏の場合はちょっとだけ理不尽である。




