第六百四十三話
剣の精鋭は、日本の本州に拠点を持っている。
しかも、秀星が通う沖野宮高校が存在する九重市である。
あまり使われることはないのだが、ある時、来夏が『今までキャンピングカーだったけどさ。なんかこう。建物の拠点があってもいいと思う』と言い出したのだ。
その時の来夏の手にはジェット機の玩具があったので、その時来夏の傍にいたメンバーは『多分コイツ。拠点から発進っていうシチュエーションしか頭にないだろうな』と察した。
まあ実際そんな経緯で拠点が用意されることになった。
しかも結構大きめである。本当に発進するつもりなのだろう。
なお、その外見は一見普通の超高層ビルだ。窓がないけど。
そしてその内装は来夏発案である。
その時の来夏のセリフがこちら。
『秀星。いらないものを最初に作っても仕方ねえし、ビルの中を最初空っぽにしておいて、必要になった部屋を自由に作れるようにするっていうのはどうだ?』
とのことだ。
秀星はとりあえず、『ビルの中で町作成ゲームをやりたがっているのか?』と判断したが、秀星が考えた『イワッテム3Dプリンター』によって技術的に可能なのでそれが通った。
内部にいるものの安全第一を保証する作りになっており、センサーの数は膨大である。
ちなみに『イワッテム』の語源は『祝って』ではない。
スペル化すると『Iwttm』
略しているので正しくすると『It was troublesome to make』
訳すると『作るの面倒だった』
技術的に言えば別に難しくはないが、来夏の要求にこたえようとして何度も修正案が出たプリンターなので、それが原因でものすごく作るのが面倒でした。という意味である。
前置きがかなり長くなったが、『剣の精鋭』には拠点があるのだ。
そこだけ覚えておいてもらって構わないのだが、『拠点の中で』といったときにイメージと全然違うことをし始める可能性があるのであえて説明させてもらった。
「……」
メンバーはそれぞれが自室を作っている。
ただ、メンバーではないものが出入りすることはそれ相応にあるのだ。
で、『外部の人間が入ってきたらドン引きして話が進まなくなる』ということもあって、一階だけ普通にしている。
そして、その『メンバーではないが出入りしている存在』だが……。
「世界樹が異世界に移動しちゃって、少しだけ自分の気持ちが落ち込んでいる気がする」
「世界樹の化身であるあなたには少々辛いかもしれませんね」
「フフフ。でも、異世界に世界樹があるのに、化身の方が地球に存在できる時点で、地球とグリモアの境界線が薄いってことよ。行こうと思えば苦労せずに行けるわよ」
オリディア、セフィア、ライズの三人である。
……オリディアは化身で、セフィアは神器で、ライズは神祖なので、数え方の単位が『人』でいいのかどうかやや不明だがそう数えておこう。
もともとは世界樹を食べるためにやってきて、最終的に世界樹すべてと融合し、束ねた世界樹たちの化身として出現したオリディア。
世界樹は主を決めるため、その主は現在、秀星で登録されている。
だが、別にずっと家と世界樹のそばにしかいられないわけではない。
結構自由にフラフラ出来る。
その結果として剣の精鋭の拠点に出入りしているのだ。
ちなみに、ライズが加わったことで、『銀髪のすげえ美人が加わった』と噂が噂を呼んでいる。
オリディアとセフィアとライズの特徴を挙げるならば、『きれいな銀髪を持った美女、美少女』というところだろう。
もともと幼女のような姿を取る化身なので、オリディアも愛くるしい顔をしている。
セフィアは神器のメイドとして、秀星が好む姿をとっている。
ライズは最近来たばかりだが、セフィアに比べて大人の雰囲気を持っている。
顔立ちは流石にそれ相応に違いがあるので姉妹とは言われないが、
「そういえば、最近、この剣の精鋭のメンバーが抜けるかもって話があるんだけど。どう思う?」
オリディアがそう言った。
「私は気にしません。誰が入ってきても、誰が抜けても、私は秀星様のメイドですから」
「ここのリーダーの考え方を見ると、気にしても仕方がないっていうのが正直なところね。私が見る限り、実際に出ていくとすると五人よ」
「それはわかっています」
「私も」
「なるほど、観察眼はしっかりしてますね」
自分の情報をすでに推測していた様子の二人に対して、ライズが気にした様子はない。
もともと、セフィアとオリディアの観察力が優れていることが分かっているからだろう。
「そして、それを察することができるメンバーがそれ相応にいることもあるでしょう」
「周りの組織も、その五人に対してアプローチを強くしているようにも見える。勧誘しても問題ない空気がバレていると思う」
「それでいいのよ。秀星がいるから、大体のことは問題ない。リーダーの来夏も、送り出すとなっても話を大きくするつもりはない。子供がよそのうちに遊びに行くから、それに対して行ってらっしゃいっていうみたいな、そんな軽い感じだしね」
来夏は最初から意味不明だった。
ただそういう空気なので、だいたい予想外なことが起こっても『何を今更』みたいな空気になるのだ。
それを貫けるというのは、すごいと思う。
真似しようとは思わないけど。
「まあでも、剣の精鋭の問題はほぼないとして、敵の神祖に対する対策は考えないと」
「そうですね」
「そろそろ腐敗神祖が動く頃よ。こればかりは、剣の精鋭も警戒しておいたほうがいいわね」
銀髪を揺らして、三人は話し合う。
……実は三人とも、化石みたいな年齢だけどね。




