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第六百四十二話

 思ったより動いてるやつがいる。

 そして、それに対してリーダーが楽観視する中、気になっているのは本人だけ。というパターンが何かと多いものだが、剣の精鋭はそれが何かと多いものだ。


「余所見してるよ」


 風香が刀を一閃。

 風が斬撃の形をして飛んでいくと、遠くから弓でエイミーを狙っていたゴブリンの首をはねた。


「あ……ご、ごめん」


 謝るエイミーだが、風香としては別に責めようとは思わない。

 エイミーが何を悩んでいるのかはわかるし、仮に正確な答えを出すとしても、それは風香がすることではないと考えているからである。


「剣の精鋭を抜けるかどうかってことだよね」

「うん。教室でも言ったけど、千春ちゃんと一緒にどうかって言われてる」


 もともと評議会の研究員だった千春。

 そして、アメリカからやってきた『文明兵器型のマジックアイテム』を自分で開発して戦うエイミー。

 評議会で千春が何を研究していたのかは知らないが、高度な機械をやたら扱っていた記憶があるので、少なくとも実力が認められていたことは間違いない。


 その二人を引き抜くという以上、そのチームもそれ相応のやり手なのだろう。

 エイミーが迷っているということは、そのチームに移籍する明確なメリットがある。

 教室で話したことを考えれば、出ていく際の確執はほぼない。

 となると、剣の精鋭にいるからこそ発生するメリットも捨てきれない。といったところか。


「まあ、秀星君がいる剣の精鋭は、資金も戦闘力もすごいからね」

「しかもいろいろなところに行けますからね。そのメリットを捨てるというのは、なかなか勇気が必要です」

「そこはわかるんだけどね……」


 苦笑する風香。

 ただし、秀星は確かにすごいが……。


「でも秀星君は、剣の精鋭に所属する上で最低限のことはこなしてるけど、別に無条件でメリットをくれるわけじゃないよ」

「それもそうですが……」


 一番わかりやすい例は世界樹の商品だ。

 もちろん、エイミーがほしいと考える世界樹の果実は存在するのだが、秀星はそれを無条件で持ってきてくれるわけではない。

 そのあたりの分別をしっかりしておくべきだと秀星が考えているということもある。

 エイミーがそれらを手に入れようとすれば、やはり、それらの商品を実際に買いに行く必要がある。

 ただ、剣の精鋭として戦っているエイミーでも、それを何十個と手に入れられるだけの資金はない。

 秀星から金を借りるという方法もあるが、なんかアレな気がする。

 まあとにかく、秀星は剣の精鋭に所属しているし、剣の精鋭の一員として戦うことに関しては妥協している様子はないが、だからといって全面的に『剣の精鋭というものを特権枠にするつもりはない』ということである。


「そもそも、秀星君は独占欲はいうほど高くないと思うし、適度な距離感を保てれば問題ないと思うけどなぁ」


 秀星の独占欲は『特別高くはない』と言える程度だろう。

 言い換えれば『技術や情報の百や二百ていどなら別にどうでもいい』と考えているのだ。

 神祖などという化物連中を相手にしようとしているときに、小さなこととかどうでもいいのだ。

 秀星が広く浅くではなく狭く深くを優先し、できる限り深いところを追求しようとするのは、次々と現れる強大な敵を倒さなければならないからである。

 秀星にとっては、他の人間が追求しようとしているそれらの問題は『過去の寄り道』なのだ。ぶっちゃけ、興味が全然湧かない。


「それもそうですね……」

「……?」


 何か、別の話に切り替わりそうな予感がする風香。


「風香さん。なんだかこう、秀星さんに対して距離感が縮まったみたいですね」

「未来から娘が飛んできたらそりゃ意識するよ。まあ、そこは秀星君も同じみたいだけどね」


 まさか未来から自分の子どもたちが来るとは思わなかった。

 ていうか予測できるわけないだろ普通。


「まあ、椿も星乃もしっかり育ってるし、しっかり育てられるように頑張らなきゃって思うんだよね」


 母性本能というものは、もともと女性に備わっている機能らしい。

 秀星と結婚しているわけでもなければ、そりゃ子供だって生まれていない。

 だが、未来から実の娘と息子がやってきた。

 その子どもたちはしっかり育っているし、『白いメッシュが入った緑がかった黒髪』という特徴は、『風香が秀星と対等だ』という気がするのだ。

 だったら、今の風香は頑張らなければならないだろう。


「椿ちゃんかわいいもんね」

「うん。女は二つの顔を持つっていうけど、あんな裏表のない真っ直ぐな子になるとは思わなかったよ」


 女の顔が二つで足りるのかどうかはこの場では追求しないが、確かに椿には裏がないように思える。


「まあ、椿ちゃんが秀星さんや風香さんに勝つ日はちょっと遠そうですが……」

「勝ったことあるみたいだよ」

「え?」

「ポッキーゲームで勝ちまくったって言ってた」

「ブフッ!」


 吹き出すエイミー。

 ただ、『みんなに愛されたからみんな大好き!』を地で行く少女だ。

 確かにポッキーゲームは無双モード突入だろう。


「まあ、世の中っていうのはそれくらい楽しいものだよ。エイミーちゃんがどこに行こうとしてるのかは知らないけど、別にそんな大したことじゃないって」

「それもそうですね」


 風香自身、根がしっかりしているということもあるだろう。

 エイミーの迷いもわからないわけではないが、だからといって深く考えることではないと思うのだ。

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