第六十四話
「初めましてだな。オレは剣の精鋭のリーダー。諸星来夏。よろしく!」
「エイミー・ルイスです。よろしくお願いします」
剣の精鋭アジト。
資金が大量に入ったので、アジトとしてキャンピングカーを購入した。
発案は来夏で、『ロマンだぜ!』という感じで決定した。
広々としているのはいいとして、屋根裏には魔戦士として活動するうえで必要なセットを積んでいる。
ちなみにそのセットだが、できる限りコンパクトで高性能がいいと言うので、望んでいたレベルのものを秀星が作った。なお、キャンピングカーの整備は千春と秀星の担当である。
日本で走れるギリギリの大きさ、とのことだ。因みに免許は来夏だけしか持っていない。
エイミーはパワー系だが礼儀正しい。
お辞儀するにしても、育ちの良さがある。
……セフィアから聞いた『事情』からすれば、そう言ったことを教えるような人はいないはずなので、おそらく先天的なものだろう。礼儀正しいのがデフォなのだ。雫とは真反対である。
全員が自己紹介を終えたところで、来夏が確認する。
「そういえば、エイミーってどうやって闘うんだ?」
そうなのだ。
全く知らないのだ。戦闘手段。
秀星はセフィアから教えてもらっているのだが、みんなが知らない。
単純に、『秀星が大丈夫な実力だと判断した』から、入っているのだ。
エイミーもそのあたりには気が付いたようだが、一瞬表情に出ただけで、すぐにポケットを探った。
すると、銃のトリガー部分だけのような部品をとりだす。
「これです」
「なんだこれ?」
来夏の質問には答えず、エイミーはトリガーを引いた。
すると、ブウンという音とともに、白い刃が生成される。
「ブレード生成用の魔装具です」
すごく機械的というか、ファンタジーと言うよりSFの住人である。
流石アメリカ。とでもいうべきなのだろうか。魔装具が発達していると聞いているが、それに偽りはないようだ。
「へぇ、おもしれえな。ブレードってどれくらい切れるんだ?」
「それなりです。他の装備との関係上、ブレードはオマケになりますから」
こんなものを持っているのだ。確実に銃だって持っている。
「なるほど、まあそれはいいさ。ちょっと実力を見たいから……秀星、相手になってくれ」
「何か前にもこんなことがあった気がする」
秀星は雫の方を見る。
雫もうなずいた。
普通なら入団試験のようなものがあって、その時に実力を見せるものだが、剣の精鋭は違う。
来夏の判断で決定され、後で戦闘能力の確認があるのだ。
どこからどう見てもおかしいのだが、それが来夏だと言われると納得できる秀星は毒されているのだろう。
「分かりました。一戦だけ、お願いします」
「ああ。わかった」
秀星たちは腰をあげた。
★
以前までなら九重市支部跡地の地下を使っていたわけだが、現在はキャンピングカーであり、当然そんな便利なものはない。
ただし、魔戦士と言うのはいろいろと実験が必要なもので、有料だが『広い部屋』を借りれる場所がいくつか存在する。
それらを利用して、できることを探ったり、実験を行っているものがほとんどだ。
なお、壁の固さは『それなり』である。
「このような場所があるのですね」
部屋を借りて入ると、学校の教室の四倍程度の広さの空間があった。
借りれるということを前提とすると確かに広いと言えるだろう。
「アメリカにはないの?」
優奈が聞いている。
「ありますが高いですね」
即答するエイミー。
使ったことがあるような雰囲気だった。
「さてと、これから俺と一戦だけやるわけだが、君の実力を見せるだけだからな。勝ち負けは関係ないぞ」
「分かっています」
エイミーの方も、秀星の実力を測ろうとしている。
自分よりも弱かったからヤバいからだろう。
ただ、秀星よりもエイミーが強かったらそれはそれですごすぎるのだが。
「さてと……」
秀星はマシニクルを出現させた。
右手に現れる金色の魔法拳銃に、みんなが驚く。
「あれ?秀星の武器ってあの剣じゃないの?」
「いや、あれだけじゃないっていうだけの話だ」
千春が聞いてきたので即答する秀星。
まあ、今回はそういう気分だったというだけの話だ。
それに、いろいろとSFっぽい感じのものを持っているので、こちらもそれに合わせようと思っただけである。
エイミーはマシニクルを見て警戒したが、ブレードのトリガーを引いて刃を出した。
「さて、どこからでもかかってきな」
秀星は左手でかかって来いというジェスチャーをする。
「なら、遠慮なく」
足もとに魔方陣が出現したと思ったら、一瞬で距離を詰めてきた。
靴も魔装具なのだろうか。
となると、いろいろなところに仕込んでいる可能性は十分にある。
振り下ろされるブレードだが、秀星に対しては意味が無い。
マシニクルの銃口を刃に当てて、そのまま止める。
「なっ――」
「曲芸を見るのは初めてかな?ま、かかってきな」
エイミーは距離をとると、ブレードをしまって、別の装置をとりだす。
それらに魔力を流し込むと、アサルトライフルになった。
二つともトリガーを引く。
当然とばかりに銃弾が飛んでくるが、秀星はマシニクルのトリガーを一回だけ引いて、バリアを生み出す。
弾丸はすべてバリアに当たって意味をなさなくなった。
「ならば……」
別の装置二つをつなげて起動。
槍に変わる。
そして、最初と同じように突撃してきた。
だが、足だけではなく、肩や腰あたりにも魔方陣が出現している。
突きを放つときの筋力を増強しているのだろう。
「……」
秀星は槍の先端を掴んだ。
「!」
エイミーは信じられないと言いたそうな感じなった。
気持ちは分からなくもないのだが、おそらく出来る人はそれなりにいるだろう。
秀星はマシニクルのトリガーを引くと、ブレードが生成された。
そして一閃。
生み出されていた槍の部分が切断される。
「むっ……」
そのままにしておくエイミーではない。
アサルトライフルの引き金を引きながら、距離をとろうとした。
だが、秀星はその弾丸の雨を全て叩き落しながら、エイミーにブレードを振りおろす。
エイミーはライフルを交差させるが、秀星のブレードは二つとも破壊した。
見ている剣の精鋭のメンバーもいろいろな意味でドン引きである。
「なんか……すごいな」
「すごいこともしていますが、基本、そこまで動きを早くしているわけではありません」
「すごいこともしているが、基本的なことばかりやっているのに圧倒している……技量の差か」
来夏、アレシア、羽計は頷きあっている。
秀星の動きは見えないわけではないし、それはそれなりにゆっくりだ。
そして、自分が持っている物の特性を理解している感じがする。
「なんか……スペックがエイミーちゃんに足りていない感じがするね」
「私もそう思うわ」
「美咲も思うです。ちょっと爆発力が足りない気がするです」
「ふにゃあ~」
風香、千春、美咲は、エイミーが持っている魔装具に対していろいろと意見を持っているようだ。
……今以上の魔装具を持っているからと言って、秀星に対して優勢になるということはないにしても、何か変わるような気がしてくるのだ。
そう考えると、何かがすごく惜しい気がする。
「エイミーちゃん本人の技量もすごく高いね!」
「アタシが見た感じ、付け焼刃のものも多そうだけど……」
雫は喜んでいるが、優奈は少し疑問に思っているようだ。
秀星もそう思うのだが、おそらく、最近使えるようになった魔装具もあるだろうし、それらと他の兼ね合いを考えて動きを組み立てるとすると、反復練習の時間が足りない。
筋力強化的な魔装具が多く、身体もそれにしっかりついていけるだけ鍛えられている。
だが、『未完成』感が否めない感じだ。ただ、別に悪いわけではない。
「……強いですね。秀星さん」
「だろ?」
剣を止めたエイミーが話してきた。
「一つだけ、実験中の高出力のものがあります。ヤバそうだったら避けてください」
エイミーは五つのトリガーを出して、全て起動する。
すると、様々な部品が出てきて、それらが合体して、エイミーに装着された。
パーツが足りないのでパワードスーツという印象はない。
だが、とても大きな大砲がこちらを向いている。
「……人が身に付けて使うようなもんじゃないな」
「いきます!」
大砲に付けられている引き金を引く。
レーザーが放出された。
だが、バリアで全て無力化する。
「ならば……」
大砲の側面のカバーが開いて、そこからミサイルが発射される。
「……なるほど」
秀星はマシニクルの引き金を引いて、飛んできているミサイルを全て空中で爆発させる。
「!」
「その程度なら通用しない」
そして丁度、レーザーの放出が止まった。
「……参りました」
大砲を戻して、両手を上げるエイミー。
効かないと分かったようだ。
今回の場合はエイミーの実力を測るものなのである程度見せてほしかったのだが、別にこれ以上の情報が必要と言うわけではないし、剣の精鋭のメンバーも納得している。
来夏がうんうんと頷いているので、『視た』感じ、悪くはなかったのだろう。
「エイミー。これが、剣の精鋭の切り札の実力だ。ま、これからもよろしく」
「はい!」
元気な声を出すエイミー。
そこに含まれる感情は、『安心』だった。
剣の精鋭のメンバーも、それらを感じとった。
何故、と聞くことはしない。
今は、優秀なメンバーが入ってきたことを喜ぶ時だからだ。
こうして、エイミー・ルイスが剣の精鋭に入ることになった。
ただ、秀星は『なんか面倒なことになりそうだな』と内心思っていた。