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第六百三十二話

 一つの戦場に立っているわけだが、高志たちとパライドでは目的が異なる。


 パライドの目的は、この星の破壊をすること。

 高志の目的は、そのパライドを抑えておくことだ。


 パライドは神祖である鑑定神祖ライズの体を使っているため、星を破壊しようと思えば出力は何の問題もない。

 グリモアの核、次善策としては魔力の脈を構築している部分を破壊すればいい。

 そうすれば、パライドにとって厄介な『惑星魔法』を使用不可能にすることができる。


 高志たちはそれを防ごうとしているわけだが、神祖は転移を普通にやってしまう。

 ただし、転移神サラという『転移に関するルール』的な存在が存在することで、条件を揃えると神祖が相手でも止めることはできる。

 そして、基樹が作った結界は、その条件を揃えているのだ。

 転移を不可にすることで行動範囲を制限し、秀星が惑星魔法を起動するための時間を稼ぐのだ。


 ちなみに、その状況そのものは鑑定神祖の力を使えば、その程度の状況判断は可能である。

 結果的に、『パライドは基樹の結界を壊せばいい』わけだ。

 それがわかったパライドは基樹を狙い始めるが、当然、高志と来夏がそれを防いでいるのだ。


 基樹は高志と来夏が自分を守りやすい位置に陣取ることで、自分でも防御魔法は使っているが、槍や魔法から高志と来夏に守ってもらっている。


 基樹の役割は実はそれだけである。

 ギャグ補正を手に入れたのは良いが、起動条件も行動結果も意味不明な代物である。

 存在そのものがギャグみたいなものである高志と来夏は普通に行動するだけで起動しているようなものだが、基樹は『高志と来夏にとっての常識』などわからない。


(持ってみて思うけど、本当に意味わかんねえな)


 起動条件の一つが『ちゃんとふざける』というものだということ、それによって『出力を弄っている』のだということは何となくわかった基樹。


 出力を弄っているが、これが自分に限らず、他者にも影響しているのだ。

 ギャグ漫画で暴力系ヒロインが主人公を殴った場合、本来の人間の腕力では考えられないほど吹っ飛んでいって、次のコマでは主人公がケロッとしているが、これは、ギャグ補正が『ヒロインの腕力』と『主人公の固さ』を弄っているからだと思われる。

 ……いや知らんけど。


(そのギャグ補正による出力を弄る力を使って、本来なら体がバラバラになるほどの拳の威力を下げて、自分の拳の頑丈さを上げてるんだろうな)


 基樹はそう判断した。

 一見筋が通っているような気がしなくもないが、これでは説明できないことがそのその都度起こるので理解しているとはいいがたい。


「仕方がないですね。ここから出ることはできないようですし、魔力の脈に対してはこの中から干渉することができないようになっているようですが、他のことはできるようなのでやってみましょうか」


 パライドはそういうと、槍を一本生み出して、それを遠くに放った。


「人がいる町を狙ったのか!?」

「そのような防がれそうなことはしませんよ」


 次の瞬間、地面が揺れだした。


「な、なんだ!?」

「地球人なら、地震が発生するプロセスは理解していますね」

「ま、まさか……プレートのズレに影響を与えたのか!?」


 次の瞬間、さっきよりも地面の揺れが激しくなる。


「うおっ!これ以上大きくなるとまずいな。おりゃ!」


 高志はそういうと、右の拳で思いっきり地面を殴った。

 ビキビキッ!と地面にヒビが入り……地震が止まった。


「ッシャア!止まったぜ!」

((なんでやああああああああああ!))


 基樹とパライドの心がシンクロした。

 ……あえて補足すれば、彼らは『地面を殴って地震を止める』ということそのものに対して違和感はない。

 腕に膨大なエンチャントを施し、『地面を伝ってプレートに影響を与えて、結果として地震が止まる』ということを理解できるからだ。

 だが、先ほどのパンチは、そのようなエンチャントなどかかっているようには見えなかったのだ。


「……」


 基樹、絶句。

 先ほど自分で考えた『ギャグ補正は出力を弄っている説』が崩れていく気がした。


 ……ただ、まだこの段階では基樹のそれは覆ることはない。

 地震というものは、最初から最後まで物理的な話である。

 そして、『出力を自由にいじれる』のであれば、それは言い換えれば物理現象と物理学を支配していることと同じだ(……同じか?)。

 そう考えれば、プレートのズレに対する方向にだけ出力が働き、結果として地面が止まったと考えると……無理がある。


(……もういいや。この説は捨てよう)


 基樹はそう思った。

 というか、この場ではまだ覆らないが、魔法が付与されていないバールで空間跳躍するのは出力とか言われてもわからない。

 もちろん、ブラックホールとかワームホールとかいろいろあるのだが、基樹がそれらに対して知識が薄いので立証できないのだ。多少の説は捨てる方が無難である。


「地震を発生させても拳でとめますか。推測ではマグニチュード十二でしたが……」

「この星が壊れるんじゃね?」


 可能性はある。

 地球はマグニチュード十二が発生すると、地球が壊れるという意見もある。

 マグニチュードは1違うとエネルギーの大きさが三十二倍になるため、マグニチュード九の東日本大震災の約三万倍のエネルギーと言えば納得するものもいるかもしれない。

 そして、地球とグリモアの星の大きさ、そして密度はほぼ同じである。

 実際に続いていたら壊れていた可能性はある。


 で……どうやってとめたの?高志。


「こ。これは……私も色々考える必要がありそうですね」


 神祖すら困らせるギャグ要員の二人。

 だが残念。考えてどうにかなるのならすでに秀星がどうにかしている。

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― 新着の感想 ―
[一言] ギャグ補正は考えた事を実現する それか 考えた理論に疑いを持たずに実行する事で現実にその現象を出力する事かな?
[一言] パライドが彼らに勝つ唯一(?)の方法は己もギャグ補正を習得することかもしれない説
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