第六百三十一話
一応戦いに参加した基樹だが、何事にも慣れというものは必要だが、『ギャグ補正』というものは判明している部分が少なすぎて意味が分からない。というのが本音である。
ただ、秀星からとあることを言われた。
これは高志や来夏にも言われていることなのだが、『多分スペックを考えると、ギャグパートに常に持ち込まないと一瞬でつぶされるから、できる限り維持してくれ』とのことだ。
高志と来夏は『任せろ!』という感じだ。
基樹は『うーーーーーん!』という感じだった。
まあ当然である。
ギャグ補正を維持するためには、本当に高志と来夏が自由に動く必要がある。
それを考えると、『高志と来夏は自由にさせておくべき』なのだろう。
二十年後の未来で秀星が愚痴っていたそうだが、おそらく、この部分を甘く見たのだ。
「おらああああああ!」
「そりゃあああああ!」
高志と来夏が拳と大剣をパライドに向かって繰り出される。
だが、パライドは槍を使って全てさばいている。
ちなみに、真正面から槍を突いて拳と衝突したが、何の問題もなく『なんか金属同士がぶつかったような音が響いて弾かれた』ので、パライドはもう理解しようとすることを放棄している。
賢明な判断である。
ちなみに、基樹も頑張っているのだが……。
高志と来夏の行動
・拳で槍を正面から殴ったり(高志)、炎属性魔法を拳でバラバラにしたり、パライドが降らせてきた隕石の雨を、一発空中に放つことで全部粉々、山みたいな岩石射出魔法を一撃で粉々。十トンの人間から殴られても平気でぴんぴんしている。
基樹の行動
・精錬された動きでヒットアンドアウェイ。
これでは目立たない。
来たのは良いが、もはや結界を維持しているだけでいいような気がしてくるのが悲しいところだ。
ちなみに、高志と来夏は基樹の役割をきっちり理解している。
秀星が考えた作戦の一つを真面目にこなしているので文句はない。
そして、『ギャグ展開でも真面目な人間が味方に必要な場合もある』ため、基本的に基樹がいてもギャグ補正は普通に成立する。
存在そのものがギャグのような高志と来夏なので多少真面目な人間が多くても問題はない。
……存在そのものがギャグなのは基樹も同じか。
ついでに言えば、基樹が真面目に動いているわけだが、パライドは高志と来夏の奇行でおなかいっぱいなので、真面目に答えを求めようとしないため、鑑定を先ほどからほぼ使っていない。
鑑定神祖としての力があるライズの戦い方はシンプルだ。
まずステータスでどうにかなるのなら、膂力で叩き潰す。
懸念すべきスキルがあるのなら、それの内容を調べて、そのスキルでは対抗できない手段で叩き潰す。
この方法でよかったわけだが、『ギャグ補正』と言われても情報が少なすぎて判断のしようがない。
ここまで『入力と出力の関係が意味不明』なスキルは見たことがない。
「ウザいですね」
「フフフ。そりゃ倒せもしない相手に勝つ気なんてねえしな」
「時間稼ぎをすれば秀星が再封印してくれるんだ。お前が逃げないようにちゃんと抑えておけばいいんだよ!」
通常、『時間稼ぎ』となれば地味なことをする印象があるが、高志と来夏の場合はそのようなことはない。
チンピラとの喧嘩だろうが、世界を巻き込んだ戦争だろうが、そのクオリティは変わらない。
シリアスは『巻きこむ人間の数』と『主人公がすべき規模の大きさ』がほぼ比例するが、ギャグパートなので最初からクライマックスなのだ。
ノリと勢いで生きている二人らしいが、そのそばで真面目に戦っている基樹としては『なんかやってることだけみると神話の戦いみたいな勢いなんだけど、どこか盛り上がらないんだよなぁ』とがっかりしていた。
ギャグだから、という言葉で解決してしまうゆえである。
敵を倒すとなれば、熱い展開も考えらえる。
しかし、神祖は殺せない。というより、生物学的に言えば生きているわけではない。
なので封印なわけだが、高志と来夏はそんなこと気にしない。
倒せないの?それでもいいや!で終わりである。
神祖が相手でも今までと変わらないってどういうことなのだろう。
「そういや、秀星はどれくらい時間がかかるって言ってたっけ?」
「うーん……聞いてねえや!」
楽観的すぎる。
基樹はもちろん聞いている。
結論から言えば、あと数時間は抑えっぱなしだ。
「ふう、何か大きなものを掲げているのかと最初は思いましたが、単純に何も考えていないわけですね」
「「その通りだ」」
これが世界最強の男の父親と、世界最強の男が所属するチームのリーダーだ。
世も末である。
基樹は二人の座右の銘を思い出した。
『戦いとは二手先三手先を読むものだ。だから一手先を考える必要はない!』
である。
それを聞いていた剣の精鋭は『んなわきゃねえだろ!』となって、ユニハーズは『それが通ってたまるか!』という感じだったが、これが現実である。
「さて、まだまだ時間はたっぷりあるぜ。久しぶりにこんな戦い甲斐があるやつにあったんだ。簡単に終わったら面白くねえからな!」
拳を構える高志。
基本的に神でもワンパンなので、パライドのような存在はあまり遭遇しないのだ。
楽しそうである。
(戦いですか……これが戦いならどれほどよかったでしょうね)
パライドは何となくそう思った。
というより、高志と来夏からすれば、パライドが何を目的としようと、どんな正義を掲げようと興味がないのだ。
加えて、パライドとしても、なんだか戦っている気がしない。
もちろん、『戦い』になればパライドは純粋に勝てるだろう。それほどのスペック差がある。
だが、戦いにならないのだ。
ギャグだからね。
(攻め方を変えてみますか)
仕方なくパライドはそう思うのだった。




