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第六十三話

「エイミーちゃん。剣の精鋭に入ろうよ!リーダーも納得してるよ!」

「……え?」


 入れるのかどうかよくわからない状態で学校に来た人間に対して『内定が確定してるよ!』といって、困惑しないわけがない。

 もしノリに乗れるというのならそいつは芸人を目指すべきだろう。

 屋上に呼び出されて若干戸惑っているエイミーだが、雫の言葉で『どーゆーこと?』といいたそうな顔になった。当然である。


「……雫。どういうことだ?」

「私、何も聞いていないんだけど」


 羽計と風香も困惑している。

 実は本当に何も知らないのだ。

 秀星としてはあらかじめ言っておくべきだと思ったのだが、雫が『サプライズだよ!』と言い張るので放置しておいた。

 来夏が誰かに言っているのではないか?と思ったのだが、おそらく、電話をかけたのが雫だったからだろう。あえて言うことはしなかったようだ。性格は読めるようだが困るリーダーである。

 雫は秀星を見る。

 簡単でいいから説明して。見たいな目をしていた。


「簡単に言うと……来夏に入れてほしい人がいるって電話したらオーケーサインが来た」

「「……」」


 二人は頭痛がしたようだ。

 右手で頭を押さえている。


「……要するに、賛成二、無視七で可決したってこと?」

「別のとらえ方をするとそうなる。別に俺も反対しないが」


 ちょっと面倒な話になっているのだ。

 人事が来夏なので今更なのが痛い。

 とはいえ、秀星に関していえば、初対面で入ることがほぼ決まっていた。

 急な人事だが、いろいろと英断も多いので、それくらいがちょうどいい……のかもしれない。


「あの……本当に大丈夫なのですか?」


 エイミーが不安そうに聞いてくる。

 秀星も気持ちはわかるのだが、だからと言って助けることができるわけではない。

 だが、この屋上にいる中で一番剣の精鋭に長い期間いる羽計が言った。


「安心しろ。加入できるということそのものに偽りはない。というより……前例がある」

「あるんかい……」

「美咲がそんな感じだった。あの時は本当に驚いた。いきなりトラを連れた幼女を連れてきたんだぞ。ついに誘拐してきたのかと思った」


 いろいろな意味で信用がない来夏である。

 とはいえ、それくらい強引なので、癖の強いメンバーが集まり、なんだかんだ言って続いているのだ。

 すごいのかまぐれなのか馬鹿なのかわからない。そして全部の可能性が非常に高い。


「わかりました。これからよろしくお願いします」


 エイミーとしては願ったりかなったりであることは間違いない。

 間違いないのだが……。

 まあとりあえず、来夏と雫を合わせるとロクでもない化学反応が起こるということは避けられないので、こちらがあきらめたほうがいいのだ。


「むふふ。チームに加入したんだし、早速スキンシップだあああああ!」


 雫がエイミーに飛びついた。

 エイミーだが、飛びついてきた雫の顔面を掴んでアイアンクローをしている。

 体育の授業では不覚をとったが、変態だと分かれば対応出来るようだ。


「いだだだだだだだだ!ちょっ、ギブギブギブギブ!」


 想定外の反撃に悲鳴を上げる雫。

 昨日からパワー系だと思っていたが、小さな手のわりにすごい力だ。

 多分リンゴくらいなら普通につぶせそうである。


「……はぁ。まあ、苦労すると思うが、これからよろしく」

「一緒に頑張ろうね」

「はい!」


 満面の笑顔で返してくるエイミー。

 ただし、その右手は今も雫にアイアンクロー中である。


(……なんだろう。最初はおとなしい子だと思ったのに、こんなに個性が強いとは……)


 少しげんなりする秀星だった。


 ★


「ふむ、エイミー・ルイスが剣の精鋭に所属したか」


 一人の少年が『屋上にいる秀星たちを見下ろして』いた。

 優等生らしく切りそろえた黒髪と、黒縁の眼鏡。風格を持つ相貌など、人の上に立っているであろうオーラを持っている。


「……あの、会長」

「なんだ?」


 会長と呼ばれた少年は、隣にいる少女を見る。

 黒髪を肩のあたりで切りそろえた少女だ。

 顔立ちは整っているのだが、無表情と言うよりは不愛想という感じである。

 アタッシュケースを持っており、少年の補佐。といった役割であることは容易に分かるだろう。

 なお、胸は大きいと言われないレベル。と言った感じである。


「学校近くのビルの屋上で、伊達眼鏡をかけた男が、双眼鏡をもってあたりを見回しているというのは、いろいろとキャラが不明確になります。どれかをやめた方がいいと思いますが……」

「……」


 少年は双眼鏡を除くのをやめた。


「で、調べたのか?英里(えいり)


 少年がそう言うと、古道英里(こどうえいり)は無言でアタッシュケースからタブレットとUSBをとりだす。

 読み込ませて画面が表示されると、生徒会長である少年、鈴木宗一郎(すずきそういちろう)に見せるようにして持った。


「ルイス家。『サクリファイス・サンクチュアリ・プロジェクト』の被験体として開発された女性から始まった家系です。生贄に適した人材を確保する。という目的で作られているので、狙われ続けて生きています。このプロジェクトはまだ研究段階であり、コストもかなりかかっているので、エイミー・ルイス、及び父親のメイソン・ルイスを捕らえようと必死になっているそうですね」


 タブレットには、捕獲作戦中に発生した市街地への被害などが乗っている。

 過激派と言うことはまず間違いない。


「被害場所はどこも海外だな」

「そうですね。アメリカの魔法犯罪組織によって生まれましたから。どのようにして日本にわたってきたのかは不明ですが、こっちでも狙われているのは確実です」

「朝森秀星の庇護下に入るために、日本に来たという可能性は?」

「考えられなくもないですが、それでは現在私が手に入れている情報を矛盾するので、何か他の目的が有ったと思われます」

「ふむ……」


 宗一郎は顎に手を当てて考える。

 略してSSPと呼ばれるこの計画だが、いってしまえば、生贄に適した人材を確保するのではなく、最初から作ってしまおうというものだ。


「コストがかかっているとはいえ、執拗に狙っているな。何か、生贄を必要とする儀式を計画しているということか?」

「可能性はあります。さらに言えば、生贄に適した存在ということで、八代風香が狙われる可能性があります」

「ふむ……英里。お前が犯罪者側ならどうする?」

「計画を中止しますね。朝森秀星を敵に回したくないので」

「心の底から同意しよう」


 そう、結局そうなるのだ。

 無敵というだけならいい。知らないものに手を出すことは出来ないのだから、情報を操作すればいいのだ。

 だが、剣の精鋭に所属するところまで行ってしまうと、はっきり言って本当に無敵である。

 朝森秀星には、その評価を出せるほどの実力があるのだ。


「まあいい。まだ私が動く時ではないからな」

「会長。それはニート予備軍のセリフでは?」

「魔戦士として稼いでいるのだ。問題はない」


 目をそらす会長であった。

 そして、多分動こうと思ったときに出遅れるのだろうと予測する副会長であった。

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