第六百十二話
神聖国に関して、いろいろ調べた。
結果としてわかってきたのは、『特権意識』の高さである。
神聖国なので権力を握っているのは『教会』であり、そこのトップになれば、金や女はだいたい集まるらしい。
加えて、少数で多数を監視する制度が整っているようだ。
それを実行するために必要なものが『施設』として存在する故に、大規模な軍事費のほとんどは施設防衛に使われているようだ。
そのため、施設を管理する権利を持ったものは凄まじい権力を持っている。
まあいずれにせよ、国のトップが選挙で決まることもなければ議会も存在しないので、民主主義でそだった剣の精鋭に所属している中でも日本人にとってはよく続くものだと思うのだが。
まあ官僚が優秀なのだろう。だって、王様一人で書類を全部捌けるわけがないし。
「……正直、神聖国に行ったことはあるんですけど、腐敗しまくってるんですよね……」
「どうした急に」
書類を一瞬で仕上げて、一面が五かける五のルービックキューブを崩して揃えて崩して揃えてを繰り返していると、アルトが話しかけてきた。
「まあ、単なる愚痴なんですけどね。僕、ユイカミの王子としていったことがあるんですけど、大体の人がお金を持ってきたんですよね。もう……お金を渡せばすべてがうまくいくと思ってるんですよ……」
「はぁ……」
「あと、かなり独裁政治なんですよね」
「『神様からの命令です』ってことか」
「便利ですよね」
「だな。俺もそう思う」
「秀星さんは、独裁政治とか、どう思います?」
「指導者が優れているのなら、指導者の意見がすべて通る独裁政治は間違ってないと思うぞ。腐敗政治が悪いのであって、独裁政治が悪いってことじゃない」
「あー……まあそれもそうですね」
「ていうか、ユイカミだって議会とかないだろ」
「いわれてみれば」
「文句を言われないだけってことだな」
「ですね……なら、腐敗政治ってどうすればいいんでしょうか……」
アルトの疑問に対して、秀星は少し考えてから言った。
「百年前に来た時に、一回だけ提案したことがある」
「え、そうなんですか?」
「ああ。国王は優れた知恵と人徳がある人物で、何より妻がとんでもない人でな……躾がよかったのか、王族がみんな国民のことを考えてたんだ」
「すごいですね」
「というよりあれだな。人間って、スコアが積み上げるとか……その、自分が何かをした結果、数字が増えていったらハマるだろ」
「わかります」
いたってシンプルなシステムのスマホゲームがはやるときがあるが、それはその快感があるからだ。
「その国の話だけど、王族はよかったけど、他がな……」
「貴族たちですか」
「ああ。一度油断して、変なのが入ってきたんだ。で、どんどん腐敗して、王族の力が細かいところに手が届かなくなったって感じだ」
「よくある話ですね」
「ああ。で、俺が提案したのは、簡単に言えば自作自演だな」
「自作自演?」
「すごいバックアップを受けたとある組織を秘密裏に作って、そいつらに城を攻めさせたんだ」
「え?」
アルトは理解できないようだ。
「で、王族と、王族と信頼がある者たちにはあらかじめ逃げてもらっておくんだ。そして、その組織が国を乗っ取って、独裁政治を始めたんだ」
「えぇ!?」
アルト驚愕。
「で、その独裁政治で、腐敗していた部分を一気に掃除したんだ。独裁政治だからな。上がなんでも決められる」
「……」
「で、あらかた掃除が終わったら、王族が戻ってきてまた政治を始めるんだ」
「……」
「メディアを使って、国を取り戻したっていうポジティブなイメージを国民に植え付けまくった。結果的に、きれいな国になったよ」
「すごいですね」
「ちなみに、奥さんは大賛成して、夫のほうはめちゃくちゃ苦い顔をしてたよ」
「ですよね」
「ただ、奥さんには勝てなかったみたいだな」
「……」
「でも、その奥さんも、俺が行ったことをそのままやったわけじゃなかったよ。情報を集めまくって、しっかりした学者から話を聞いて、三桁を超えるほどの予測ルートを考えてた」
「すごいですね」
「ああ……俺もいつの間にか弱み握られたよ」
ちなみにセフィアも騙された。
「とんでもない女が実権を握ってると、家庭も国も平和だなってなんとなく思うんだよな……」
「そうですか」
「自分の両親見てると余計にそう思う」
「ブフッ」
吹き出すアルト。
「いろいろあるんですね」
アルトが近くのテーブルに置いていたカフェオレを口に含んだ。
次の瞬間、ドアが開く。
「アルト様!聖竜騎士団が総力を挙げてこの王都に向かっています!」
「ブフーーーーー!」
思いっきり噴き出すアルト。
秀星がいるから問題はないと思っているが、それでも敵の作戦には驚くようだ。
「さてと、とりあえず行ってみますか」
秀星はあくびをしながら、部屋を出て行った。
当然のことだが、部屋に騎士団が入ってくる前から、ドラゴンが近づいてきていることには気が付いていたのである。




