第六百十一話
主要施設の一つを破壊した。という報告を聞いた秀星たちだが、正直、神聖国に対する知識が薄い六人にとって何がいいことなのかよくわからない。
秀星はある程度予測はしているし、来夏は遠くまでわかるので想定はしている。
未来の人間である星乃もある程度分かっているだろう。そして自分で調べていた風香も同様だ。
ただ、高志と椿が全く分かっていない。
……椿は本当におじいちゃんっこなのだろうか。今のうちに何とかしておいた方がいい気がする。
「宗教国家ですからね。教会や女神像などの大型のものが重要になるんですよ」
「『遺産』とか『遺物』とか、そういったものを利用しているのか」
「はい、そのため、個人の実力があまり評価されないんですよね。あくまでも『遺産を起動できるか』ということと、『上の言うことをしっかり聞くか』が重要になるんですよ」
「クソだな……」
アルトの私室で、アルトの肩を揉んでいる秀星。
Sランク冒険者として戦う一方で、王族として姉の仕事を手伝っているそうなので、肩がこるのだそうだ。
なお、秀星はエリクサーブラッドの影響で肩は常にノーダメである。
「なるほど、外交官が集まってるところの部署にいったが、うれしい悲鳴を上げていたのはそういう理由か」
ドラゴンを強化したのは秀星なので、それに対して責任問題が云々、と言ってくる連中もいるわけだが、そもそも被害者がユイカミ側であり、そこをごり押しすれば何とかなる。
というより……そろそろユイカミ側が、秀星という男の強さが『アッハッハ!』と笑いたくなるくらい強いのだということに気が付いたのだ。
そもそも、騎士団長のワイゼルに勝てる人があまりいない。
神聖国であっても、それ相応にコストがかかる相手なのだ。
という相手なのだが、秀星は軽くあしらうように勝ってしまっているので、『うわもうこれ反則やん』と思うのだ。
正直、一部の貴族はあの戦いが八百長だとなんだのというものがいるのだが、その神経がわからない。
まあ、秀星が本気を出してしまうと、彼らの権威は脆いので崩れ去るので現実逃避する理由もわかるのだが。
ただ、ドラゴンを倒すのではなく丁重にお返ししてしまったので、それ関係でちょっと面倒なことにはなったのだが、神聖国が何を言ってきても『かかって来いやゴルア!』といえるので交渉が楽である。
「んー!ありがとうございます」
肩もみは終了。
「秀星さんは神聖国が攻めてきたらどうする予定なんですか?」
「丁寧に心を粉砕した後で大義名分掲げて襲撃するつもりだ。俺の今回の役割は、神聖国が独占してる大量の魔力を抱える手段を破壊して、それを再分配することだからな」
「……」
「……アルト。お前忘れてたろ」
「……テヘッ♪」
拳をかわいらしくコテンと額にぶつけてあざとく微笑むアルト。
どうやら本当に忘れていたようだ。
「まあそれはそれとして、魔力が大量にあるからこそ、あんなドラゴンを何体も作れるんですね」
「ああ。まあ、俺が作った方がもっと強いドラゴンができるけどな」
「召喚においても秀星さんの方が上なんですか……」
「当り前だろ」
「……そういえば、来夏さんと高志さんが思ったより静かですね」
「カジノに行ってるからな」
「どこにあるんですか?」
「教会の支部の地下だそうだ」
「なんて罰当たりな……」
神に祈る場所で賭け事とは恐れ入る。
やはり世の中は金である。
「で、荒稼ぎしてるみたいだな」
「すごいんですね」
来夏は全てのカードの位置がわかるのでカード系は無敵である。
加えて、イカサマは一切通用しない。
最初にある程度金を使ってどんなイカサマをするのかを見て、見破ってそれができないような状況にするために交渉。
もしも交渉が決裂したらそのイカサマは大声で叫ぶというのが来夏のやり方だ。
で、高志の場合だが、来夏の数倍のギャグ補正があるので、『そもそもディーラーのイカサマが成功しない』のだ。
そして、素でかなり幸運なので、大体勝てる。
わかる人にしかわからない言い方だが、十回中九回は『初手エ〇ゾ』だ。正直死ねばいいのにと思う。
「星乃と椿は風香についていって、なんか町を回ってるみたいだな」
「未来の子供たちなんですよね。なんだか、秀星さんといると常識が崩れていきます」
「神器を手に取った本人が、一番常識って言葉がくだらないことだと分かってるからな」
自分が本当に大切だと思っていたものが、どうしようもなく小さなものに思えてしまう。
それが神器というものだ。
「さて、そろそろ書類がたまってきたころだろうし、俺は執務室に行くよ」
「あ、はい……あの、秀星さん。神聖国が『聖竜騎士団』という最高戦力を動かしているという情報が入っていますので、一応準備をお願いしますね」
「わかった。頭に入れておく」
というわけで、情報交換は終了である。
もちろん、ここまで秀星がやりすぎてしまった結果、あまり意味のないものになっていることは否定できないのだが、まあ、それはいつものことだ。
秀星とかかわるとき際に必要なのは、『秀星が可能だと思ったことを疑わないこと』である。




