第六百四話
秀星たちがドラゴンのデータをまとめていた時。
基樹、美奈、天理の三人は、黒い空が広がる大地に来ていた。
ちなみに、地上に立っているわけではない。
基樹が前世である魔王であった時代からの従魔の上に乗っている。
暗黒の大地にいても違和感が一つもない黒い鳥のようなフォルムのそのモンスターの種族名は、『影幽孤鳥シャドウ・フェネックス』
簡単に言えば、不死鳥と、『フェネック』と呼ばれる耳の長いキツネが混ざった種族が進化し続けたモンスターである。
「アーリア。もういいぞ」
「クゥ……」
アーリアと呼ばれた孤鳥がフェネックに変わって、基樹、美奈、天理の三人は城の外に降り立った。
フェネックに変わったアーリアは、地面に降り立った後。美奈に向かって飛び込む。
美奈は慣れた手つきで胸に抱いた。
どうやら定位置らしい。
「ここに来るのは久しぶりだな……それにしても、寂れたな……」
基樹は城を見上げてそうつぶやいた。
真っ黒の材質で作られた外観の城で、見上げればそれ相応に巨大である。
「ここで、基樹君は魔王として働いてたんだね」
「『魔王として働く』ってなんだかすごい字面だが……まあ間違ってはいないな」
「実際に戦った時のことは今でも思い出せる」
「だな。あの時は秀星に俺の力が封印されまくってたから、天理と戦うときはクソ雑魚状態だったけどな。俺」
「お兄ちゃんは容赦ないですね」
「しかも。天理の実力が思ったよりすごくて、秀星がたとえ封印してなくても、頑張れば俺を倒せるくらいには強かったからな。もう本当に強者オーラ維持するの面倒だったのなんのって……」
秀星としては、当時の天理の実力では基樹に勝てないと判断したため、とりあえず実力をある程度封印しておけばいいと考えたのだが、やりすぎた結果、基樹の実力はゴミ状態だった。
結果的に天理は勝てたわけだが、お互いにとって不完全燃焼になった。
そして、二人とも転生してどうでもよくなったのである。ちょっと剣の精鋭とユニハーズが異常すぎた。
「まあとりあえず、入るか」
「入れるの?」
「もちろんだ」
基樹は門に触れると、そのまま押した。
門は簡単に開いて、中の様子が見れるようになった。
中はどんよりとした空気に満たされており、人の姿がほとんど見えない。
中を歩き始めるが、すぐに景色が変わるわけではない。
「……誰もいないのかな」
「いや、上から見た時は気配がないわけじゃなかった。隠れているのか、それとも単に外に出ていないだけか……いずれにせよ、この様子だと覇気も活力もないのは間違いない」
基樹が魔王としてこの城にいた頃は、魔族全体が士気高揚としていて、技術も発展していた。
侵略に興味はないため、人間たちが住んでいる場所に襲うことはほぼない。
たまに、同族の中で力を示すことができないと感じて劣等感を抱いたものが人を襲うことはあったのだが、基樹が出す方針としてはそんなことに興味はなかった。
「あのダンジョンも、まだ攻略されていない状態か」
魔王城の地下には遺跡型のダンジョンが存在する。
「確か、魔王城の地下に遺跡型のダンジョンがあった。あまり関係はなかったし、私には古代の文字を読む力はなかったから深くまでは潜ってないけど、かなりの予算を使って挑んだ形跡があると思ったことはよく覚えてる」
「ほう……」
「ただ、私がそれを話しても、あまり効果はなかったけど」
「ん?どういうことですか?」
勇者である天理の主張に『意味がなかった』という部分が美奈にはわからなかったようだ。
「私は魔王を筆頭に、魔族が近くの人間の村を襲撃していると聞いていたし、魔王に潰された国があるとも聞いていた。ただ、真実はそうではなかったから主張したけど、メディア関係のつながりを持っていなかったから、私の話が民衆に届くことはなかった」
「まあ、当時のやつらならそうだろうな」
「ちょっと調べたら、その時の私がいた国は、今は神聖国を名乗っているらしいけど……まさか、軟禁してくるとは思っていなかった」
「閉じ込められたんですか?」
「うん。壁は殴ったら壊せたけど」
さすが勇者である。
「私はそれから、いろんなところに行って証拠を集めようとしたけど、物的証拠はほぼなかった」
「え、どういうことですか?」
「情報の種類から考えて、国の上層部の人間がかかわっている。ただ、権力者からの命令っていうのは、聞かなかったらその場で見せしめに処刑されることが普通だったから、大体は書類として契約する必要がない。だから、個人にしか情報が残らず、そして口封じのためにあとで殺せば、もう情報は残らない。それが普通だったから、情報はなかなか集まらなかった」
「なるほど」
「時々見つかるときもあったけど、結局、その情報が広く伝わることもなかったから、ほとんど無駄骨だった。まあ、それはもうどうでもいい」
「どうでもいいんですか?」
「秀星と一緒のチームで戦ってると、なんだか深く考えていたことがそんな大したものでもないような気がしてくるから」
「気持ちはわかるけどな」
秀星が何度も主張することだ。
神器には、『自分がこれまで大切だと思っていたことが、どうでもいいことだと思うほどの力がある』
「……城の方も劣化がすごいな」
庭から城の中に入っていくが、人の気配が感じられないことに変わりはない。
侵入者に威圧感を与える黒い塗装は、色あせて寂しさしか残っていない。
「……」
いろいろ思うことがありそうな基樹が無言で階段を上がっていく。
途中で、幾つかの階があったが、そこは素通りして上がっていく。
「基樹君。どこに向かってるの?」
「俺が使ってた執務室だ。俺しか見えないし、扉の暗証番号を知らない宝物庫がある」
「執務室にあったの……教会の人たちが、私が魔王討伐した後にこの城に入って『魔王の遺産がない!』って慌ててたから、ざまぁ。って思いながら見えてたのを覚えてる」
「天理さんってこの系統の話題になると本音が出るんですね」
「いい思い出がない」
どうやらまともではなかったようだ。
そんなことを話しているが、だれも寄ってこない。
誰もいないフロアではよく声が響いているはずなのだが、だれにも会わない。
「なんだか、だれもいなくて不気味だね」
「そもそも、百年以上前に俺がいなくなって、今の時点から見ても十年近く前に魔王が討伐されてるはずだ。魔力を独占されて強い魔族が産まれにくくなってると考えれば、衰退するのは目に見えてる。ただ……それを面白いとは当然思わないけどな」
そういったとき、基樹がとある部屋の前に立った。
「ここだ」
基樹がドアに触れる。
すると、鍵がかかっていないドアは簡単に開いた。
中に入ると、強盗が入ったかのような惨状だった。
しかもかなり根こそぎ持っていくタイプの強盗である。
本棚やタンス、引き出しの中にあるようなものはもちろん、据え置き型の物体を無理やり破壊しながら引っこ抜いたような痕跡すらある。
「なんだか、酷いね」
「大体そんなもんさ」
基樹は何も入っていないクローゼットを横によけた。
相当重いはずだが、簡単に移動させる。
そして、そうして見えた壁に向かって手を向けた。
魔法陣が出現する。
そこに魔力の弾丸を打ち込むと、魔法陣の中の文字が移動して、ドアが開くような音が響いた。
「さて、入るぞ」
基樹が魔法陣の中をくぐるように、中に消えていく。
「あ、待って!」
美奈と天理も中に入っていった。
基樹が言った宝物庫の中は、あまり広くはない。
ただ、特別なマジックアイテムを揃えていることがわかるものになっていた。
剣の精鋭のメンバーである雫が『カースドアイテム』という呪いのアイテムを使うのだが、雫が使っているものよりも数万倍酷な呪いを持っているアイテムも中には存在する。
「ふむ、こんな感じだったんだ。思ったより扉は普通」
「意外なことをしていると普段から思わせておけば、裏の裏が表だってことに気が付かれないからな」
基樹はそういいながら、宝物庫の一番奥にある剣のところまで歩く。
宝物庫の中にあるアイテムも中で、その剣だけが経年劣化したのか錆びている。
「起きろ、『魔宝剣ダーク・オリハルコン』」
基樹が呼ぶと、茶色にさび付いていた剣が紫色にその色を取り戻していく。
基樹は剣の柄を握ると、剣に自分の魔力を流し込んでいく。
紫色に光る剣がその輝きを増したあと、妖しい光り方のままで安定した。
「……その剣は?」
「魔王としての俺の本気の剣だ。秀星相手にも、お前相手にも使ってないけどな」
「ふむ……」
「なんだか。基樹君がそれを握ってから、基樹君の魔力が大幅に増えてる気がするんだよね。神器なの?」
「ああ。こうしてまた手に取ることになるとは思ってなかったけどな」
感慨深そうに剣を見る基樹。
「さて、次だが……寿命的に、百年前ならまだ生きてる執事がいるはずなんだ。そいつを探したいんだが、まだ時間いいか?」
「私は構わない」
「私もいいですよ」
「それなら、もうちょっと付き合ってくれ」




