第六百三話
「うーん……このあたりか」
秀星は椿、星乃、風香、高志、来夏を連れて、椿がドラゴンを倒したという場所に来た。
「確かに、ドラゴンを倒した形跡があるな」
「秀星。そうなのか?俺さっぱりわからないんだけど」
「オレは若干わかるけどな」
秀星は鑑定スキルを使って『痕跡』を見つけたのだが、高志にはそのようなスキルはなく、来夏は『悪魔の瞳』で何があるのかはわかっても、それが何なのかまでは分からない。
とはいえ……。
「まあ。秀星君が言うならそうだよね」
このメンバーの中で、技術的な部分で秀星を疑う者はいないのである。
「確かにまあ、そこそこの強さを持ってるやつではあるみたいだな」
秀星は近くにあった鱗のようなものを拾った。
黒いもので、かなり表面に光沢がある。
「それ相応に強そうだが……脆いな」
「脆い?」
「モンスターじゃなくて、モンスターを作る魔法の方だな。こう……魔力量で『ごり押し』したんじゃなくて、圧倒的に魔力があるから『なんかやったらできた』みたいな感じだな」
「あー……なるほど」
魔力を大量に独占しているという話なので納得するほかメンバーたち。
「そういや秀星。大体どれくらいの魔力を抱え込んでるか予想できるか?」
「……この鱗から判断するに、俺の全魔力量より少ないな」
「……」
グリモア。意外とスケールが小さかった。
「そんなに秀星君の魔力って多いの?」
「うん」
実際、秀星が保有する魔力はとんでもなく多い。
神器には所有者の魔力を増幅させる機能が備わっているが、下位神の神器なら十倍、上位神の神器なら百倍、最高神が神器の場合は千倍となる。
そして、本来なら下位神の神器を二個持っていたら、十倍と十倍が別で計算されるので二十倍なのだが、『自分が使う神器がすべて同じ神が作ったもの』である場合、この計算は重複する。
これは、そもそも神器を作るときのルールとして、『神は同じ装備条件で二つ以上の神器を作れない』という法則がある。
そのため、『自分が装備できる神器』も一つしか作れないわけだ。
そして、秀星が持っている神器は、すべて『創造神ゼツヤ』が作った神器である。
当然、その使用条件はすべて異なるわけだが、秀星は『アイテムマスター』というOESを持っているため、すべて計算が重複する。
簡単に言えば、十の十乗は百億なので、本来の秀星の魔力生成量の百億倍となるわけだ。
この圧倒的なアドバンテージを得るためには、すべて同じ神が作ったものでなければならない。
ほかの神が作った神器を一つでも使用するとなれば、別の計算になって、上位神の神器一個分のアドバンテージとなる。
秀星は今持っている十個の神器以外に、創造神ゼツヤが作った神器を発見していない。
そのため、これから秀星が使う神器が増えることも変わることもない。
「お父さんって、最初から戦う相手の最大の特徴を上回っていますよね」
「まあな」
秀星は鱗を見て、そしてさらに鑑定する。
「これ、北に発信源があるな」
「北か……神聖国から飛んできたことになるのか」
「……星乃達って、今やってるところの話って聞いてないの?」
「俺は聞いてない」
「私も聞いてないですね!」
「……まあ、だろうと思ったよ」
秀星や他のメンバーが、『異世界に行った』という大きなことを話さないとは到底思えない。
ある程度情報を選んでいると思うが、核心に触れるようなことは言っていないということなのだろう。
「神聖国が、魔力を独占できるような何かを持っているってことになるのかな」
「だろうなぁ。宗教国家って話だから、何かの維持に必要なのか?」
風香の考察に高志も同意する。
「多分魔力を使うだけでよくわからないゴミとかにつぎ込んでる可能性あるけどな」
「どういうこと?」
「百年前にこっちに来てた時、『一万人分の魔力を消費して、五人くらいの人間が薬を極めたようになる』っていうゴミが神聖なアイテムだった国家がある」
「アッハッハッハ!」
椿、爆笑。
「あ、そういや、ユイカミの城下町でブラブラしてた時、なんか神聖国が使ってる経典とか言ってる本があったぞ。ぼったくり金額で」
「それって買えるのか」
来夏が渡してきた。
明らかに日本語でも英語でも何でもない言語である。
「なあ秀星。わかるか?」
「日本語でも何でもないな。この世界で昔使われてた言葉だ」
「題名にはなんて書いてあるんだ?」
「『私の夫が蝋燭と手錠と鞭を買ってきた ※R-18』」
「まさかのハードSMの官能小説!?」
「だな。挿絵ゼロだし、文字が読めない場合は単なる紙屑みたいなものだろうな」
「秀星、これ、神聖国では教科書として補修対象者がノートに写すって言ってたぜ」
「真相を知ったらなんて思うんだろうな。まあいいけど」
秀星は経典(エロ本)を来夏に返して、鑑定結果を紙に書きだし始めた。
「こういう資料がないとあの国ではまだちょっと面倒だからな……」
「遅れてますね」
「まあ、中世ヨーロッパみたいな面影を残そうとしている近代だし、まだこの手の資料が記憶媒体だからな」
「そうですね」
椿がちょっと辛辣。
「そういえば、基樹君と天理ちゃんがどこかに行っちゃったね。美奈ちゃんが付いてったけど」
「魔王城でも見に行ったんじゃないか?基樹って元魔王だし」
「え、そうだったの?」
「ああ」
風香は全然気にしていない。
が……。
「!?」
椿が大きく反応していた。
「そうなんですか!?」
「そうだな。百年以上前の魔王だけどな。で、天理はその時の勇者だった。で、転生して今に至るみたいだな」
「そうですか。とてもすごいことですね」
「だろ」
「まあでもお父さんのほうが意味不明ですからどうでもいいですね!」
椿がやっぱり辛辣。
というか残酷。
「まあ、とりあえず城に帰るか。ヴィーリアに判断してもらおう」




