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第五百九十五話

 萎えました。辞書作るの。


 書類に関してはその都度全部書いているわけだが、その書類の活用速度がユイカミのほうに不足しているため、どうしても書類が来ないタイミングがある。

 いちいち持ってこられても困るので、また溜まったら一瞬で仕上げる。というものになった。

 世界中の事務員に喧嘩を売っているような言い分だが、それで問題はないのだから仕方がない。


「おお。いろいろ売ってるなぁ」


 王都のメインストリート。

 そこでは、当然だが様々なものが売られている。

 様々な技術が開発されるユイカミでは、商人にとっても『新商品』を扱うための重要な拠点だ。

 国営の商業組織がユイカミに存在し、そこから商品が流れやすくなっている。


 なお、ユイカミにいる職人たちが国営の商業組織についている理由だが、ユイカミでしか使えないような『高度な作業環境』を格安で使える上に、彼らが作ったものを高く買っているからである。


 言い換えれば『職人に対して国が補助金を出している』という考え方に近い。

 その補助金は、やはり税金から支払われている。


「値切り交渉の声がかなり聞こえるなあ。ほかの国の大型商会が、大量に安く発注したいからって感じかな?まあ競争があるのはいいことだけど」


 建国して三年と言っていたが、どうやらユイカミという国には信用があるらしい。


「お、ちょっとすんません。新聞買います」

「おう!ユイカミ銀貨一枚だ」


 新聞を大量に箱に入れて、『新聞。銀貨一枚』という旗をたてているおっちゃんから新聞を買った。


 ちなみに金だが、資料作成の賃金としてかなりの額をもらっている。


「ん?これ号外か。なるほど、俺がコロシアムで暴れたことが載ってるわけだな。しかも、吟味して選ばれた資料の一部が流れていて、これから未曽有の発展を遂げるって思われてるのか」


 ワイゼルに勝った時の写真が大きく載っている。

 加えて、資料の一部をあえて流して、そしてそれがどれくらいすごくなったのかを数値として比較することで分かりやすく伝えているようだ。


 ただ、それによって『技術が進歩する』とは書かれているが、『秀星が理不尽なくらい強い』とは書かれていない。

 あえて避けているような印象もある。

 使われている写真も、最初にやった幻影的な演出はほぼカットされている。

 どうやら『秀星が圧倒的な実力を持っていること』に関してはまだ伏せておきたいようだ。


「ふむ……実力を隠しておきたいっていう意志が感じられるな。あと俺、今は魔法で『朝森秀星』だと認識しずらいようにしてるけど、もしこの魔法がなかったらとんでもないことになってるだろうな……」


 簡単に言えば魔法で存在感をいじっているのだ。

 そのため、珍しい黒髪で話題沸騰中の秀星であっても、町の中を普通に歩ける。


「まあ、若干誤解を招きそうな書き方もみられるけど……」


 主に技術的な部分の話だ。

 さすがにメディア関係の中には技術関係者が少ないこともあって、要約が間違っている部分がある。


「こういう部分を見ると、やっぱり辞書って作らないといけないのかねぇ……最初に間違ったらひどいことになるもんな。こういうの」


 アルトが言っていた通り、魔法に対して単なるイメージで使っているものが多いのだろう。

 それで発動できてしまうのが魔法の悪い部分である。


「まあ、今は適当に歩くか」


 あえて作られているというか、路地裏もしっかり存在するし、中には大人の店もある。

 大人の店に興味はないが、裏路地というだけでなんだか興味がそそられるものである。


「ちょっと覗いてみようか」


 というわけで、フラッと裏路地に入る秀星。

 そちらにもしっかりと店が存在しており、短いながらも行列ができている露店もある。

 ユイカミでは商売をする場合にすぐに始められる。ということなのだろう。

 しかも、裏のほうにもそれ相応にスペースが設けられている。


「ほー……なんか……魔道具をパーツ単位で売ってるところもあるな。魔道具って簡単に改造できるようなものじゃないと思うんだけど……」


 パーツを組み替えただけで魔道具を改造する。というコンセプトそのものは十分あり得る話だ。

 しかし、その手の資料は秀星が見た中にはなかった。

 まあ、単純に秀星の信用が足りずに書類を見せてもらっていないだけかもしれないが。


「裏の取引っぽいイメージの割に、不良品も少ないな」


 正直思う。


(んー……監視することほぼ放棄してね?)


 とにかくそのような感じだ。

 時々、物陰に隠れて様子をうかがっているものがいたりするが、高確率で騎士団に発見されている。

 まあ、隠れやすいスポットとしてあえて作っているのだろう。


「ふーむ……」


 秀星はとりあえず王都を一周してみた。

 そして思うのは……。


「この町。ゲーム会場として使えば楽しいかもな」


 というものである。

 追いかけっこでもかくれんぼでもなんでもいいが、そういった遊びに向いている印象がある。

 あえて商業として機能性を落とした場所が存在したり、思ったより国の直轄施設が各所にちりばめられているのだ。


「都市設計はヴィーリアはやってないみたいだし……何か面白いことをしたいって思ってるやつがいるのかね?」


 秀星はそう思う。

 『いざというときに国民がちゃんと逃げるためのルート』は確立されているので、それを悪いことだとは思わない。


 全体的に、陰謀という言葉が好きそうなやつが城の中にいると思った。

 そして、観察眼のあるヴィーリアがそのような人物を都市設計に採用している以上、ヴィーリア本人もどうやら楽しいことをしたいらしい。


「まあ、余裕があるのかどうかは微妙だが、平和みたいだな。一応気にかけておこう」


 秀星はそこまで考えた後、城に帰っていった。

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