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第五百八十九話

 ユイカミの首都に到着した。


「おお!とっても広いです!」


 美咲が上から見下ろして興奮している。


「城壁の高さもかなりあるし。加えて、地下もかなり開発されているな」

「え、どういうこと?」

「地下に特殊な穀物の生成空間が存在する。まあ、国民全員が腹いっぱいになるわけじゃないが、備蓄もされてるみたいだし、多分城壁が完全に破壊されてもある程度持つだろう。それくらい技術が発展してるな」

「へぇ、私、異世界って技術の進歩速度がとんでもなく遅い印象があったんだけど、意外とすごいんだね」


 雫からまさかの低評価である。

 ただまあ、そう思うのも無理はない。

 何千年とか何万年とか時代を積み重ねているはずなのに、『中世ヨーロッパもどき』みたいになっていることなんて普通にある。

 一部の頭のおかしい人が必死になって頑張らないと、技術というものは進化しないということなのだろう。


「中には機械を使ってるやつもいるな。こんな感じじゃなかったと思うんだが……」


 基樹がつぶやいている。

 元魔王として周辺の情報を集めていた時代と比べているのだろう。


「ただ今のところ、ユイカミが保有する技術だけが突出して上っていう感じですね」


 首都を見ながらいろいろしゃべっていると、アルトが来た。


「てことは、他の国に行けば……」

「そういうことです。姉様は基本的に、国民が簡単に使えそうな技術を発見した場合、予算を引っ張り出してそれを広めますからね」

「でも、それだとほかの国から情報を盗まれるんじゃない?」

「本当に重要なものは維持コストが大きすぎて、他の国では維持できませんから」

「まあ、そもそも必要な技術水準の話か……」


 いろいろ話していると、首都の中央に存在する城のテラスに降りている。


「さてと、僕は先に言って話してきます。ちょっと待っていてくださいね」

「あー。うん。いいよ。一番待てなさそうな二人がジェンガに夢中だからな」

「そうですね……あれって飛行中の船の甲板(デッキ)でする遊びでしたっけ?」

「知らんよ」


 まあ、そんな会話もあったが、アルトが先に走っていった。


「元気な子だね」

「そうだな。さてと……俺、過去にこの世界に来た証拠を提示できるのかね……」

「え、そういう手段ないの?」

「グリモアに来るくらいのことは想定してたけど、まさか百年以上前にいた奴と同一人物であることを証明するなんて完全に頭の中から抜けてたからな……」


 証明できるといいなぁ。と思いながら、アルトが帰ってくるのを待つ秀星であった。


 ★


「秀星さん!姉様が今すぐにでも会えるそうです!」


 アルトがとっても笑顔で帰ってきた。


「……俺だけ?」

「はい。もともと呼ぶのが秀星さんだけだったということもありまして……」

「あ、なるほど、まあ、俺がどこかのチームに所属してるっていう考え方もなかっただろうし。そう思っても仕方ないか」

「そうなりますね。あ、皆さんはゲストルームを用意していますから、メイドさんに聞いて確認してくださいね!」

「まあ現状はそんなもんか……じゃあ、とりあえず俺一人であってくるよ」

「いってらっしゃーい!」


 というわけで、秀星はアルトについていって、城の中を歩いていく。

 コンクリートで作っているような文明的なものを感じる城内で、『他の国より数段上』というのは間違いないだろう。


「ただ、なんていうんだろう。自分のファイティングポーズの写真で人物像を把握されてるっていう状況で会うのってちょっと嫌だな」

「我慢してください」


 アルトから即答された。

 そして、一つの部屋についた。


「ここが姉様の執務室です」

「ドアの前に門番とかいないんだな」

「いませんね。姉様を狙っている暗殺者は多いですけど、頑丈すぎて搦め手が通用しませんから」

「……」


 それって大丈夫なの?と思ったが、アルトから『聞かないでください』と言われているような気がしたので放置。


「さて、それでは……」


 アルトがコンコンとドアをノックした。

 すると次の瞬間……金髪の美女がドアをガチャッ!と開けて、アルトをハグして部屋の中に消えていった。

 正直……秀星でなければ視認することが不可能なくらい早かった。

 秀星はドアをそーっと開けてみる。

 そこでは……。


「アルト~~♡お姉ちゃんはさみしかったです~~。今夜は一緒のベッドでブチューっとしながら寝ましょうね~~♡」

「姉様。くるしい……」


 外向けではなさそうな室内用の露出の少ない服を着た美女が、アルトをギューッと抱きしめていた。

 なお、その胸は大きいので、アルトの顔が完全に埋もれている。


「あら?おお!あなたは、朝森秀星さんですね」


 どうやら名字が朝森に変わっていることはあらかじめ伝えていたようだ。


「あ、ああ……で、大丈夫なのか?」

「大丈夫ですよ。アルトはスキルによって口と鼻以外でも呼吸できますからね~。ちょっと効率悪いけど」


 そのスキルは姉に対する防衛本能で身に着けたんじゃなかろうか。

 しかし……ここまでブラコンだとは思っていなかった。


「さてと、自己紹介ですね」


 痙攣しているアルトをソファに寝かせると、良い仕草で礼をし始めた。


「私はヴィーリア。この『真実国ユイカミ』の女王です」

「朝森秀星だ……で、アルトは大丈夫なのか?」

「大丈夫ですよ!いつものことですから!」


 そういってグッドサインをするヴィーリア。

 それを見て、秀星は分かった。


(これは……あのバカ二人と似たような感じだな)


 ただ、高志と来夏の場合は確信犯であることに対して、この人の場合はある程度分かっていると思うが、かなり天然属性が入っている。


「さてと、秀星さんには、この世界にはびこる異変の解決のために呼んだわけなのですが……」

「ああ。アルトからある程度事情は聞いてる。で、原因も絞れてるよ」

「さすがですね。私が調べた文献の通りです」

「ちょおーーーっとその文献見てみたいんだけど……」

「……」

「……」

「……?」


 なんで黙るのこの人。


「……フフフ。見ないことをお勧めしますよ」

「あ。はい。そうします」


 どうやらそういうことらしい。


「まずは座ってください」

「ああ」


 ソファに対面するように座った。

 ちなみに、秀星の隣でアルトはまだ痙攣している。


「で、アルトは良いのか?」

「体表呼吸をした場合、ちょっと元に戻るまでに時間がかかるだけですよ」

「あ。さいですか」


 使い勝手の悪いスキルである。


「さて、いろいろしなければならないことがあると思いますが、まず最初に、秀星さんの力を証明してほしいのです」

「力の証明ねぇ……多分ヴィーリアが考えている程度のことは全部できるが……主に誰にだ?」

「貴族ですね」

「……貴族派みたいなのがうるさいのか?」

「はい。この国はかなり税率が低くなるように法律を整備しましたが、どうやら貴族の方たちは自分たちが裕福にならないのが嫌なようで、他国の人間とつながっている人もいるのですよ」


 女王が言っていいことなのだろうか。


「あえて泳がせてるのか?」

「ええ。私はいろいろ好きなことがありますが。その中の一つに、『言い逃れができないくらい証拠が集まった状態で煽るように追い詰める』ということがあります」

「うちの馬鹿親父とバカリーダーと気が合いそうだな……」


 世の中はそんな屑が覇権を握るのである。

 ちなみに秀星もそんな屑なので覇権を握っているのである。


「まあ、泳がせてる理由は分かった。で、あの船の開発にかなりのコストがかかってるから、その目的である俺がこの国に来た証明が必要ってわけだな」

「はい。それから秀星さんは『煽り耐性』はありますか?」

「煽られたうえでそれを利用して『口は禍の元』って突きつけてやるのは大好きだ」

「フフフ。私と意見が合いますね」


 そこまで聞いて、ふと思う。

 アルトは『姉様はかなり純粋な人ですよ』と言っていたが、秀星が見る限りかなり腹黒い。

 要するに……腹黒いが、弟から見れば純粋に見えるほど本心を隠すのが高い。ということなのだろう。

 まあ、単純に、ブラコンすぎてアルトに対しては純粋な部分しか出せないというパターンもあり得るのだが。


「というわけで、私はその舞台のセッティングをしてきますね。それから、決闘などを挑まれる場合もありますが……」

「そもそも、地球では世界一位の実力を見せすぎて敵が来てくれないレベルだからな。決闘は大歓迎だよ」


 神くらいが相手じゃないと話にならないのが秀星の強さだ。

 さすがに挑んでくる人間に対して一々そんな強さを求めたりしない。

 要するに、『期待はしないから遊びに来てね』ということだ。

 完全に世界を舐めている。


「それを聞いて安心しました。それでは、アルトの相手をお願いしますね。随分と会いたがっていましたから。まあ適度に可愛がってあげてください」

「ああ。そうするとしよう。ちなみに……俺は掛け金はかなり上げる方だから。盛大に盛り上げてくれ」

「考えておきます」


 そういうと、ヴィーリアは執務室を出ていった。

 それを見た秀星は指をパチンと鳴らす。

 すると、アルトの痙攣が収まった。


「……あれ?」

「もう大丈夫だろ」

「あ。ありがとうございます」

「まあいいって」

「あの、姉様と何を話されていたのですか?正直、あまり聞こえていなかったのですが……」

「ん?ああ……『台本は女王様。ピエロは俺』っていうのが決まっただけだよ」

「?」


 まだわからないでよろしい。

 首をかしげるアルトを尻目に、ヴィーリアがどれくらい頭のネジが外れているのか、そこを期待する秀星であった。

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