第五百八十八話
「久しぶりの空気だな」
船がグリモアに到着し、船の外に出ると、秀星はそんなことを呟いた。
「秀星君はこの世界にいたことがあるんだね……」
風香は見渡しながら言った。
秀星は、自分が神器を多数所持していることは話したが、異世界に行ったことがあることは話していなかったので、なんとなく思うところがあるのだろう。
ちなみに、秀星がグリモアに行ったことがあるということそのものに関しては、誰も何も言わなかった。多少の非常識は時間の経過とともに常識になっていくものである。
「……」
「あれ、基樹くん。どうしたの?」
「……いや、なんでもない」
元魔王である基樹が普段とは違う表情だったので美奈が疑問に持ったようだが、基樹は答えをはぐらかした。
ちなみに、元勇者である天理も内心はいろいろ考えていそうだが、無表情なのは変わらないので誰も指摘しない。
「これから、ユイカミの首都に向かって移動しますね」
アルトがそう言って、司令室の方に向かって走っていった。
途中、『えぇ!?資料の中の名字が変わってる!?どういうことですか!?』という叫び声が聞こえてきたので、どうやらそういうことらしい。
「ちょっと見たけど……町や村を繋いでる道がクッソ長いだけで、結構距離がありそうだな」
単純に技術的な部分があるだろう。
基本的に『町の大きさ』というのは、どれだけ道が整備されているか、そして、その整備された道を使いこなすための交通インフラ整備が重要である。
より多くのものを短時間で生産し、より短時間で運ぶ。
要するにそこが重要であり、基本的に『国の広さ』と『国の生産力』というのはそこが技術的に開発されていないとあまり関係がない。
日本とロシアのGDPを比べれば一目瞭然。
「面倒だね。秀星君って転移できるんじゃないの?」
「できるけど、この船はユイカミの中でもかなりの予算を投入したものだから規制関係がうるさいみたいで、きっちり関所を通る必要があるみたいだ」
実際、秀星はワールドレコード・スタッフという世界地図を持っているため、それを見ればユイカミの首都がどこにあるのかすぐにわかる。
「てことは、やっぱり待ってる間、暇ってことか。ちょっと時間潰せるもん持ってねえか?」
「人生ゲームならあるぞ」
高志が実際にボードを取り出した。
……一体どこから出したのだろうか。
バキバキの特攻服なのに。
「却下ですね」
だが、アレシアが即座に反対。
「なんで!?」
「来夏がルーレットを回すと止まりませんからね」
「ムムム……じゃあどうすればいいんだ!」
来夏が『クッソオオオオオオ!』と言いたそうになっているが、別に秀星が十面ダイスを作ればいいだけの話である。
もちろんアレシアにもわかっているのだが、人生ゲームが面倒だからやりたくないだけなのだ。
アレシアにとってはすばやく終わるゲームがいいのである。
ちなみに、ルーレットが止まらなくなる。という部分には誰も突っ込まないところを見ると、どうやらそういうことらしい。毒されすぎているのにも程がある。
「異世界にきて早速の感想が『暇つぶしの材料がない』か……剣の精鋭らしいな」
「秀星君。剣の精鋭らしさって何?」
「『緊張感を感じる脳の回路をどこかにおいてきたような感じ』だ」
「なるほど。確かに」
というわけで、十面ダイスを来夏に渡して、高志と一緒に勝手にやっておいてもらうことにした。
正直、『人生ゲームって二人でやって楽しいの?』思わなくもないが、この二人は何かを一度やり始めると、『面白くない』と感じる脳の回路が機能しなくなるので問題はない。
「で、実際どうする?」
「グリモアの基本知識……を説明するのは悪くないんだが、魔王の再出現の法則を考慮するに、たぶん常識そのものが百年くらい前なんだよな……」
「とりあえず百年前の段階でどうだったのかって話だね。多分アルト君も、そのうち時間ができて戻ってくるだろうし」
「まあそれもそうだな」
というわけで、説明し始める秀星。
ただ正直……『この説明って意味あんのかな』と秀星自身が思いながらするのだった。




