第五百八十三話
ギャグパートにおいて、ギャグに対する素質を持っているものが一人から二人になったとしても、『1+1=2』にはならない。
そもそも人である以上、自らが持っている『1』というステータスを十分に発揮することはほぼできないのだ。
自分の実力を『発揮する』というのはとても難しいことなのだ。
ただ、来夏の場合はそういうスケールの話ではない。
そして……『なぜか途中で高志が混ざる』のである。
秀星としては『お前こんでもええやん』と思うのだが、大体来るのだ。腹が立つ原因にしかならないが事実である。
「フフフ、できたぞ!なんかよくわかんねえけどな!」
「ああ!これでオレたちも異世界に行けるぜ!多分!」
高志と来夏の目の前には、なんだかよくわからない空間の裂け目のようなものがあった。
ちょっと奥を覗き込んでみると、膨大な通路が存在した。
ただ、その通路は何かに支えられているわけでもなく、すべてが見えている状態。
簡単に言えば、『吹き抜けの巨大な空間に細い橋が架かっているだけ』というイメージでいいだろう。
ただ、その数は膨大だ。
そして、『悪魔の瞳』を持っている来夏でさえ、その全貌が見えないほど広い。
「なんかすげえな」
「ああ。しっかし、なーんかすごい勢いでこの地球に魔力が流れ込んできてるけど……」
この通路空間は圧倒的なほどの魔力が渦巻いている。
そこに強引にヒビを入れたわけなので、巨大な水槽で下の方に穴をあけたかのように魔力があふれている。
「うーん……まあ、魔力が多いのは良いことだな」
「だな。最近は魔力を使った発電が主流だし」
「なら悪いことはねえな。空気中にある魔力を集める技術ならどこかにあるだろうし」
「でもこれで、原油を掘ってる国からいろいろ言われそうだなぁ」
「ああ。まあ何とかなるだろ!」
とても楽観的な高志だが、本当に何とかなっている。
魔法は確かに、『雷属性魔法』などというものが存在するくらい、電気というものが簡単に生み出せる。
最もこの方法だと持続性がないので、安定的に手に入れることができる魔石を利用した新しい発電所を作ろうと日本の経済産業省が現在躍起になっている。
秀星からすれば、無駄とは言わないがいずれ抜かれるといっていい。
秀星が出す最適解は、『魔石を使った発電機を作る』のではなく、『魔法で原油の質を上げる技術を確立・独占する』ことだ。
そもそも、魔法を隠す必要もなく使える時代になったからと言って、『これからは魔法の時代だ!時代遅れの科学なんて知らん!』などと考える馬鹿がいるのは別に秀星も否定しないし、そもそも原油を輸入に依存ずる日本で『原油と魔力の融合なんてやってられるか!』という考えを持ち出すのは悪いことではない。
ただし、『原油をエネルギーにしか使っていない国もまた存在しない』のだ。先進国ならなおさらである。
原油から作られる製品はいくらでもある。
単純にエネルギーとしての効率だけではなく、他の製品にも使えるからこそ、原油は圧倒的な力を持っているのだ。
正直、この二人のように『魔石を大量にとれる魔法社会になれば原油の需要が減り、中東が反乱を起こす!』などと考えているのは『馬鹿』か『アホ』か『間抜け』か『馬鹿でアホな間抜け』のどれかである。
知識的な欠落を馬鹿、知恵的な欠落をアホ、視野的な欠落を間抜けとするならば、高志と来夏は『アホで間抜け』である。
「さてと、これを使えば異世界転移できるわけか」
「転移って言えるのか?」
ごもっとも。
「さてと、とりあえずこういうものが作れたわけだし、秀星に報告しておくか。何かあったときに対応してくれなかったらヤバいし」
「だな」
一応『報連相』の言葉の意味を知っている二人。
ただ確実なのは、秀星はこれを見た瞬間、確実に愕然とする。
なぜなら……これは秀星が異世界グリモアから地球に帰ってくるとき、オールマジック・タブレットで扉そのものを出現させ、戦略級魔導兵器マシニクルで情報的なプロテクトを破壊し、星王剣プレシャスで物理的なプロテクトを破壊し、オールハンターの保存箱で運び込んだ『本来なら触ることすらできないもの』を材料に万物加工のレシピブックで鍵を作り、扉の開閉時にはデコヒーレンスの漆黒外套を身にまとうことで魔力的な圧力を耐えて……。
しかも、この扉の存在にはセフィアがいなければ気が付かなかったし、それらすべての準備は、万能細胞アルテマセンスと宝水エリクサーブラッドにより支えられたものである。
その結果、この通路空間にやってきたのだ。
それを、バール一本で達成されたらたまったものではない。
「よーし、異世界旅行になるのか。それとも異世界から漂流してくるのか知らねえけど、異世界デビューの始まりだぜ!」
「おおおおお!」
元気な様子の二人である。




