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第五百八十話

 ギラードルが秀星のクラスの担任になった。

 沖野宮高校は魔法学校化が進んでいるので、別に一般科目の勉強は基本必要ない。

 ……ただ、教員免許はどうやったの?ていうかそもそも魔法学校化してるからちょっと重要な免許とかいろいろ必要だよ?とかいろいろ思った。

 しかも、自分で言うのもなんだが、日本における魔法発展において、秀星はとても重要なポジションである。

 そんな中で担任に任命されるということは、囮か、抜群に強いかのどちらかである。

 ギラードルはそりゃ強いが、だからと言ってどのように証明したのか。という部分とかいろいろ疑問はあった。

 で、ギラードルに聞いてみたところ、『スパイがたくさんいるんだろうな』としか言っていなかった。

 というより、全貌がギラードルにもわかっていなさそうだったので、秀星は思考を放棄した。


 なお、神だったのに先生などして、生徒にしっかり教えることなどできるのか。という話なのだが、最高神で、しかも派閥を作り、神兵を抱えていたギラードルは、彼らの育成をしっかりやっていた。

 元から政府を作ろう。と言っていたほどだ。要領がいいのは分かり切っている。


 あと、『使われている教科書は質がかなりいいな。政治的に隠されている部分がほとんどない。使っていて不信感がない』というのがギラードルの感想だ。


「……ギラードルって普通に授業できるんだな」


 さすが神である。

 というより、あれほどの神を抱えている派閥の指導者というのは思ったよりすごい。

 ただそれだけのことなのだろう。


「まあ、彼はしっかり育てるからねぇ……」


 ソファに寝転んでダラダラしているラターグはそういった。


「ラターグはどうなんだ?」

「ん?それは教育方針の話かい?」

「ああ」

「僕と彼の違いかぁ……まあ基本的に、僕は『とりあえず致命的な失敗をしないための土台を作ればいいじゃん』っていう感じで、とりあえず基礎的なことだけやってあとは放置かな」

「意外と放任主義だな」

「言っておくけど、指導者や教育者っていうのはそんなもんだよ。だってずっと責任を取り続けるわけじゃないもん」

「まあ、それもそうか」

「だから、とりあえず土台があれば、何をのせても大丈夫だし、『悪いことが土台に乗らなくなる』からね」

「ん?」

「常識とか道徳とかの話だよ。例えば……幼いころから暴力が悪いことで、そしてなぜ悪いのかまで知っている人間っていうのは、暴力をやれと言われてすぐにできないでしょ?」

「……ラターグって、そういう『人の痛みがわかる共感性』の指導なんてできるのか?」

「それができるからこうなってるんだよ」

「ていうか……これレルクスが教えてくれたんだけど……」

「ん?」

「平等神エーベルも、天界神ギラードルも、ラターグの教え子だったんだな」

「ああ、その話か」


 ラターグは頷いた。


「二人とも、時々合理的でしょ。僕のように」

「何言ってんだコイツ……まあ。合理的っていえば合理的なのかね。あまりそういう感じしないときあるけど」

「秀星君いつも言ってるじゃん。神は人間の限界でしかないって。だったら神だって人間だよ。で、人間って合理的な生き物かい?」

「いや、そんなことはないな」

「世の中そんなもんさ」


 さて、と秀星は話題を変える。


「ラターグ。これから何か起こると思う」

「うーん……この件に関しては、秀星君が死んだ後にわかるような気がしなくもないけどね」

「どういうことだ?」

「そもそもの話、ギラードル君は天界を強くしようと考えていたわけだ。確かに彼のやり方なら成長できそうだけど、それは成長であり、進歩ではあるけど、とびぬけて強くなれるようなことじゃない。要するに、ギラードルのタイムスケジュールで、時間はあると考えてるんだ」

「……まあ、百年や二百年の話じゃないよな」

「そういうことだよ。時間はあるけどシステムが悪い。なら、自分がシステムを作り変えてしまおう。そう考えただけに過ぎないからね」


 ただ、ギラードルが目指した世界は、悪い世界じゃなかった。


「経済成長することっていいことだよな」

「当然だ。経済が成長して税収が増えれば、政府はなんだってできる。僕たちはね。それを止めちゃったんだよ」

「……まあでも、俺はギラードルを止めたことに対して、間違ったとは思ってないけどな」

「僕も同じだよ。というより、ギラードル君の考え方は何となく予測できるけど、多分ギラードル君の考え方だとよくならないからね」

「そうなのか?」

「うん」


 ラターグはジャージのポケットからコインを取り出した。

 天界で使われている『ゼル』という硬貨である。


「天界にはコインと紙幣が使われてるんだ。まあ、ほぼほぼ日本らしい形式で作ってる」

「ふむ」


 秀星はコーヒーを口に含んだ。


「で……ギラードル君は本位制を今だに信じてるのさ」

「ブフッ!」


 秀星の口の中でコーヒーが爆裂した。


「うわ。汚いね」

「衝撃的すぎるわ!え、何アイツ。反緊縮と思ってたのにリフレ派かよ!」


 大雑把に言えば、『インフレとデフレ』は貨幣現象なので、『金の量』でインフレ・デフレが決まると考えているのだ。


「……あんなに財政出動するべきだって言ってたのに、要するに金を作ることしか考えてなかったのか……」

「量的緩和オンリーだね。経済成長なんてするわけないさ」


 金を作るだけでは何の意味もない。

 極端な話。例えば造幣局で大量の紙幣が作られたとしよう。その紙幣を運ぶトラックを爆撃して、紙幣が跡形も残らなかったら、『金を作ったという事実』は残るが、『金は世の中には出回らない』のだ。

 内部留保を招くだけであり、それでは何の意味もない。


「くっそおおおおお。完璧に反緊縮派っぽいこと言ってただろアイツ。言葉の意味わかってないんじゃないか?」

「ボロカスに言うね君」

「なんか一気に冷めたわ……確かに、『言ってる事』は間違ってなかったけど、『根本的な常識』が欠陥まみれじゃん……」


 秀星もラターグのようにグタッと寝転んだ。


「はぁ……誰がそんな事吹き込んだんだろ」

「僕もわからないねぇ。ギラードル君の友好関係を全部知ってるわけじゃないし」

「そこ、調べた方がいいのかね?」

「まあそうした方がいいだろうね。ギラードル君って頭悪いからなぁ。多分コロッと騙されたんだろうし……なんで引っ掛かるんだろ。素人ほどこういうのってちゃんと調べればわかると思うんだけどなぁ」


 ギラードルに対する株が暴落していく秀星。

 確かに止めておいて正解だった。


「ていうか、ギラードル君がそういう考えだってこと知らなかったのに、秀星君はギラードル君のこと反対してたんだね」

「俺が反対してた理由は別にあるからな」

「そっか」


 そして二人して溜息を吐いた。


 世の中、正しいことを言っていそうな人間が考えていることが正解とは限らないものである。

 というか、頭の中で考えたことをどういう翻訳システムに放り込んでしゃべっているのだろうか。

 言葉というのは不思議なものである。

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