第五百七十九話
ギラードルから戦意を奪った三日後。
秀星は、その三日間で起こったことの整理で頭がいっぱいだった。
整理するうえで最も問題がある……というか正直面倒だと思ったのは、『ラターグが帰らなかったこと』である。
平等神エーベルと、その派閥に属するライザーは帰っていったのだが、ラターグは帰らなかったのだ。
ラターグからは、『えっとね。ユキちゃんから……あ、覚えてる?全知神レルクスの神兵長ね。あの子から手紙を直で渡されたんだよね。そこにさ。『まだ終わってないから秀星君の家にお邪魔するように』って書いてたんだよ』と言われたので、秀星としては『粗大ゴミ放置か』と思ったものだ。
ただ、秀星に対しての手紙もあったようで、開封された形跡のある『親展』と書かれた封筒の中の手紙を読んでみると、『居候の養育費のために資金を渡す』ということで、少なくない量の天界の通貨が記載された小切手が書かれていた。もちろん全知神レルクスのサイン入りで。
ギラードルたちは天界に存在する裁判にかけられるようだ。
どのような結果になるのかラターグに聞いても『さあ?ただ、特別取り上げるほど被害がないから、罰は重くならないんじゃない?』とのこと。
結果。まだよくわからん。
「ねえねえ秀星君。神との戦いが終わったって本当なの?」
「……まあ、とりあえずほとぼりが冷めたってところだろうな。なーんか終わったようには感じないし」
「いろいろあるんだねぇ」
唯一、神をその目で見た雫から学校で聞かれるのだが、秀星としてはまだ何もわかっていないに等しい状態である。
ラターグが帰ると思っていたのに、全然帰る様子がないからだ。
無論、ラターグが天界にいるよりも、地球にいた方が都合がいいという部分がある場合も考えられるので、神のことはもう忘れていい可能性もあるが、いずれにせよ、ギラードルがまだいろいろな情報を抱えていそうなので、秀星としては判断が難しい。
「あと、新しい先生が来るって言ってたよね」
「そうだったっけ?」
「言ってたよ!秀星君。神のことが気になりすぎて全然話聞いてなかったの!?」
「……どうやらそうみたいだな」
珍しいことだが、どうやら何も聞いていなかったようだ。
「もうそろそろSHRだし、席に戻った方がいいぞ」
「あ、そうだね」
その時、ドアが開いて副担任の先生が入ってきた。
「みなさん。今日から皆さんの新しい担任教師が来ていますよ。早速入ってきてもらいましょう。リオ先生。入ってきてください!」
リオ。
誰だろうか。
と思ってボーっとしていたら、入ってきたのはギラードルだった。
秀星は表情が死んだ。
ギラードルは教壇に立つと、生徒たちを見下ろしたあと、言った。
「初めまして、今日からこの二年一組の担任になりました。リオ・グラッドといいます。一年間よろしく」
うーん。
ううううううーーーーーん!
という感じで秀星は内心唸ったわけだが、どうせ覆ることはないのでもうなるようになれと思うことにした。
きっとそれが一番平和である。
★
「で、なんで教師になったんだ?」
「裁判の結果。私がここの教師を君が卒業するまで務めることになった。それだけのことだ」
「……」
まことに意味不明だが、実際にそうなってしまったのだから仕方がない。
「で、リオ・グラッドってどういう偽名だ?」
「私のギラードルのスペルはこれだ」
ギラードルは、空中に色が付いた魔力で『Girador』と表記した。
「そして、これを組み合わせて……」
スペルが移動して、『Rio Grad』になった。
「あー。そういうことね」
「基本的に神はこうした下界で職や公的な身分を取得する場合、偽名を使って登録することになっているからな」
「そういうのって簡単にできるのか?」
「できるように潜入しているものがいるということだ」
「そうか」
まあいるだろうとは思っていたので驚くようなことではない。
「まさか。ギラードルが教師になるとは思わなかったぞ」
「私も裁判所で困惑したものだ。君が通っている学校だということすら聞かされなかったからな」
「そりゃ意味不明なことになるわな。ていうか、こういうパターンってあるのか?」
「調べてみれば少数だがある。まあ、迷惑をかけた世界に対する奉仕をしろということだと思うが……」
「それくらいしか理由ないよな」
「ただ、裁判所にはレルクスも来ていた。おそらくかかわっているとは思うが……」
要するに、レルクスが何を考えたのか。
そこだけが問題だということだ。
「そういえば、ラターグが帰らないんだけどさ。何か隠してないか?」
「当然隠しているさ。ただ、レルクスからは、それをまだ話さない方がいいといわれてね」
「……ならいいや」
秀星としても、レルクスを敵に回す気はない。
レルクスが言いたくないというのなら、それはそれでおいておくことにする。
それでいいのだ。
「さて、秀星君。クイズの答えを聞こうか」
「ああ……様々なものをみえる神は誰もが『私が見下ろす世界に、Aはない』という。だが、全知神レルクスは『Aはこの世にある』といった。さて、Aはどこにある?……だったな」
「そう、そのクイズの答えだ」
「簡単だろ。下を見てもないって言ったんだから……そのAは、『神よりも上にある』だな」
「その通りだ」
「……なあ、ギラードル。お前、一体、何を見たんだ?」
「ラターグにも同じことを聞かれたが、まだ答えるべきではないのでね。それでは、また明日会おう。新任ゆえに色々することがあるからね」
「そうか」
秀星はギラードルに背を向けた。
「秀星君。君はこれからどうなると思う?」
「……ま、なるようになるだろ」
秀星はそれだけ言って、ギラードルの元から去っていった。




