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第五百七十八話

 秀星とギラードルの戦いは遠距離攻撃も加わり始めた。

 お互いにとって邪魔な障害物であるラターグがいなくなったから使っている。

 神器使いである秀星と、最高神であるギラードルだと、間合いなどあってないようなもの。

 もちろん、お互いに遠距離攻撃に対する態勢をガチガチに固めて、あえて近接攻撃に対する態勢を緩めておくことで、近接攻撃に持ち込むという方法もあるのだが、このレベルの戦いになってくると、そもそも態勢そのものがあってないようなものである。


 そして押しているのは……ギラードルだった。


「……嫌だねぇ。これは」

「私もお前のような奴と戦うのは初めてだ。まさか、まさか私が作った天界を、破壊できるものとして扱うとは……」


 星王剣プレシャスの基本性能は『切断』よりも『破壊』だ。

 そのため、天界に振り下ろせば、振り下ろされた『天界という情報』を破壊できる。

 その破壊の規模が大きければ、そのまま全体の破壊につながる。

 一見、ギラードルの優位に立てそうな手段だが、実というと、ギラードルが相手だとそれでは足りない。


「こっちは天界をぶっ壊すので精いっぱいだってのに、他の手段も優れてるとか……」

「そうかな?私からすれば……君は最大のイレギュラーといってもいいくらいだが」

「俺よりもいっぱいいると思うよ?」

「探せばいるだろうな。だが、『神器を無条件に使えるスキル』など、私は見たことも聞いたこともない。この地球よりも文明が発展し、そして神器もあふれている世界を見たことがあるが、そこでも、神器を四つ持っていたものが支配者になっていた。誰よりも強く、寿命から解放されていたそうだから、まさしく最強だっただろう。しかも、君と同じように、その世代の神が作れた下位神の最新式の神器だ。正直、君もやろうと思えば世界くらい手に入れることができるだろう」

「俺、世界とかいらねえわ」

「そういうだろうこともわかっている。ただ、だからこそ、私は君のようなイレギュラーは仲間にしておきたいと最初は思っていたが、君は私でも縛ることができないからな。勝手なことをされるだけだろう」

「当然だな」

「だからこそ、私はここで、君を倒しておく必要がある」

「そうだなぁ……まあ、そう思われても仕方ないんだけど……」

「フン。第一世代型の最高神が、殺す気でかかってるんだ。むしろ、今も生きている方が不思議といっていい」

「だよなぁ、ラターグを敵に回すのも嫌だけど、それと同じ理由でアンタを相手にするのも嫌だな」

「そろそろ終わらせてやろう」


 ギラードルは剣を構えた。


「残念だけど、それを聞くのは無理だな。ちょっと、俺がいないと嫌な人と、俺がいないと困る人を比べると、困る人が多いんでね」

「だが、実際のところ、私の方が強い。確かに限定的に見れば、細かな技術は君の方が上だろう。だが、私にも技術はある。君が何をしようと、最終的には私が勝つ」

「そこまでいうのか?」

「そうだ。そして、私はとある神器を持っている。私の傘下の最高神が作ったものだが……『幸運神』が作った最高傑作だ。あまりにも周囲に与える影響が大きいから今まで使わなかったが、今回は使ってきている。効果時間もそう長くはないが、君を倒すには十分だ」


 その言葉を聞いて、秀星は溜息が出た。


「……はぁ。切り札の一つを使えば勝てるんだろうけど、アンタが最初になるとは思ってなかったよ」

「何?」


 秀星はマシニクルを仕舞うと、その左手で指をパチンと鳴らした。

 すると、秀星の左手に、一体の小さなドラゴンが出現する。

 マスコットのようなドラゴンで、白く細めのフォルムだ。

 そして、尻尾がカギのようになっている。


「なんだ?」

「……(ニヤッ)」


 秀星は楽しそうに微笑むと、ドラゴンを飛び立たせる。

 ドラゴンは少しだけ『ん?』と首をかしげたが、ギラードルを見て、何かを納得したのか秀星の背中に尻尾の鍵を当てた。

 ガチャリ。という音がして、その音を確認したドラゴンは、一度舞い上がると、そのまま消えていく。


「今のは……」

「一つ言っておく」

「ん?」

「これからアンタが理解できないことが起こっても、俺には何も聞かないでくれ。俺は多分。その質問に答えられるほど賢くはないからな」

「……」


 ギラードルから見て、秀星の体に何か大きく変化があるようには見えない。

 だが、攻撃しなければ話は進まない。


 ギラードルは魔力の塊を数百個用意する。

 そして、本来ならギラードルでも成功率の低い付与をいくつも行った。

 だが、幸運神の神器の影響で、それらすべては――失敗した。


「何?」

「ん?何かをやろうとして失敗したのか?まあなんでもいいけど、それじゃあこっちも行くぞ」

「な、舐めるな!」


 ギラードルは魔力の弾丸を全て秀星に向かって発射する。

 しかし、そもそも準備段階で見えている弾丸が秀星に効果を及ぼすはずもない。

 いや……実際に発生したのは、そういうレベルではなかった。

 秀星は、弾丸など見ずに、適当に剣を振る。

 いや、ギラードルからは、適当に振っているようにしか見えない。

 精錬された剣の技術はそこに感じられない。


 だが、秀星が構えたプレシャスは、すべての弾丸の中心を的確にとらえて、そのままプレシャスの機能によって破壊していく。


「な、なにが起こってるんだ?」

「いや、だから言ったろ?俺も何が起こってるのか知らないから、聞かないでくれって」

「な、ならば、実際に切りかかれば……」


 ギラードルは剣を構えなおして突撃してくる。

 秀星は剣を振るのをやめると、近くの地面をトントンとつま先で叩いた。

 何をしたいのかがわからなかったギラードルだが、そもそも秀星が何かを考えているようには見えなかったので、意味のないことだとした。

 ギラードルは突撃し……そして、急に踏み込んだ場所が沈んで、足を取られた。


「うおっ!」


 素早く体勢を立て直して、距離をとろうとする。

 だが、バランスを崩したすきを見て秀星がいつも通りの攻撃精度でプレシャスを振ってきており、振り下ろされた剣は、ギラードルが持っていた剣をやすやすと破壊する。


「ば、馬鹿な……私が作った神器だぞ……」

「神器にはコアがあって、破壊されたら終わりってことは知ってるだろ」

「そんなことはわかっている。だが、コアのプロテクトだって、かなり頑丈に作っているはずだ。なぜ……」

「さあ?俺にもわからんよ。さっきからなんとなくでしか動いてないし」

「……あのドラゴンは、一体なんだ」


 秀星は答えようかどうか迷ったが、最終的には頷いた。


「さっきのあのドラゴンは、『開錠竜ミラクルバース』……簡単に言うと、あれを使えば、偶然っていう概念が自分にとって都合のいいものになる」

「……」


 ギラードルは絶句した。

 秀星が言ったことの本質がわかったのだろう。


「……使うことにデメリットはないのか?」

「おもに使用後だな。まあもともと使用制限もあるんだけど、あいつはアイテム扱いだから、俺は何の苦労もなく使える。で、ミラクルバースの力を使った後。ミラクルバースが決めた期間中、偶然による幸運が俺から離れるんだ。簡単に言うと、よほど盤石にくみ上げたシステムじゃないと、大体失敗するってことだよ」

「なるほどな」


 ギラードルは納得したようだ。

 というより、ギラードルは……『偶然』という言葉の残酷さを知っているようだ。


「すまんな。こんな反則みたいな力を使っちまって」

「構わない。この地球で最強のイレギュラーである君の切り札を最初に切らせた。私はその栄誉を抱えて、刑務を全うしよう」


 ギラードルは柄だけになった剣を捨てて、天を仰いだ。


「……朝森秀星。一つ、頼みがある」

「なんだ?」

「君とは、いろいろ話がしたい。機会があれば、私と会ってくれるか?」

「……いいよ」

「そうか」


 ギラードルは頷いた。


「……秀星、一つだけ聞いておきたい」

「ん?」

「まあ、ちょっとしたクイズのようなものだよ」

「クイズか」

「ああ、様々なものをみえる神は誰もが『私が見下ろす世界に、Aはない』という。だが、全知神レルクスは『Aはこの世にある』といった。さて、Aはどこにある?」

「……」


 秀星が考えた時だった。

 ポケットから着信音が鳴った。

 耳に当てると、聞きなれた声が聞こえる。


『秀星君。もうそろそろ離れた方がいいよ』


 ラターグの声だった。

 ギラードルの戦意喪失に合わせて、誰かが来ているのだろう。


「次に会ったときに回答しよう」

「ああ、楽しみにしている」


 秀星はその場を離れた。

 そしてそんな秀星を、ギラードルは満足そうな顔で見送った。


「さて、こんな何の盛り上がりもない終わりを迎えるとは思わなかったなぁ……秀星君。楽しみにしているよ」


 ギラードルは最後にそんなことをつぶやいて、秀星が綴る未来に期待するのだった。

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『この世』じゃないかなぁ そんな屁理屈じゃないか
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