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第五百七十七話

 メイガスフロント。

 秀星が一年生の時に生徒会長たちを連れて向かった魔法学校が存在するエリアだ。

 秀星たちがお邪魔したジュピター・スクールも当然存在する。

 なお、『最高会議』と呼ばれる日本最高の魔法組織が存在し、最近は『魔法省』としても活動している。


 そんな人工島の一角で、とある神々が集まっていた。


「さて、今回の作戦は、剣の精鋭メンバーを人質に取るための侵入作戦だ」

「ああ。秀星とラターグをギラードル様が抑えているうちに達成するぞ。『秀星とラターグがすぐには駆け付けることができない状況で人質に取る』ことが達成できる」


 言っている作戦はとても合理的である。


「今回はスピード勝負だ。剣の精鋭のメンバーのほとんどは、神器の存在を知っていても神器を持っているわけではない。そして、今もギラードル様は戦闘中だ。作戦の達成は速いに越したことはない」


 彼らの作戦のコンセプトはいろいろと前提があるものの、何も間違っているわけではない。

 実際、神器を持たない元魔王である基樹ならば、最高神が囲めば出力で抑えることは作戦として考えられるだろう。

 ただし……その『いろいろと前提がある』という部分が、彼らの想定を超える場合がある。


 これは神とか神器とかそういうレベルの話をしているのではなく、単純に『諸星来夏』という剣の精鋭リーダーのことを理解していない。ということだ。


「アンタたち。いくら何でも、敵陣地に踏み込んでから作戦の確認とか馬鹿でしょ。そういうのは裏でちゃんとやってきなさい」

「「!?」」


 突如聞こえてきた声に驚いた。

 声が聞こえてきた方を見ると……。


「お、お前は……石動優奈!?」


 剣の精鋭メンバーである。

 来夏、羽計、アレシア、美咲とともに、秀星が入ったばかりの剣の精鋭を構成していたメンバーだ。


「これは好都合だ。現在十三人いる剣の精鋭の中で、あいつは下から数えた方がいいレベル。ここでとらえて人質にしてやる!」

「私は下から数えた方がいい?……まあ、そう思うのも無理ないわよ。だって実力を全然見てないんだし」


 剣や槍を構えて突撃してくる最高神たちを見て、優奈はフンッと鼻で笑った。

 手に付けている手甲を構えて、剣や槍を全て受け流す。

 そして時々、彼らの体に鉄拳を叩き込んでいく。


「グッ。な、何故だ。最高神の出力だぞ。そんな陳腐な手甲で受け流せるはずが……」

「ごちゃごちゃうるさいわね。この程度で終わりならさっさと帰りなさい。どうせ決着はつくのよ。あんたたち三下が出る幕じゃないわ」

「う、うるさい!」


 優奈の言葉に怒って再度突撃する神たち。

 優奈はそれに対して再度鼻で笑った後、今度は蹴りも入れ始めた。

 すべての攻撃を受け流して、隙をついて次々と攻撃を入れていく。

 正直……最高神たちが集めた情報の中に、優奈がここまで最高神と戦えるようなデータはなかった。


「ば……馬鹿な……こ、こんなことが……」

「私も暇じゃないし、そろそろ終わらせるわ」

「何?」


 次の瞬間……優奈は、自分の速度を先ほどまでの数百倍に上げた。

 対応できなくなった神たちは、そのまま倒れていく。


「フン!この程度の対応もできなくなってるなんて……ラターグ。私はギラードルのやり方には反対だけど、何かしら訓練することが必要なんじゃないの?」

「ハッハッハ!そう言わないであげなよ。ぶっちゃけ、戦闘レベルで言うと、君は優れている方なんだ。君がダメ出しにいったら、いろいろな子が悲鳴をあげちゃうよ」


 遠くから見ていたラターグが笑いながら話しかけてきた。


「笑い事じゃないわよ。ギラードルが危惧していることがいずれ起こる可能性だって否定できなくなるわ」

「まあまあ、今のところ、秀星君と高志君と来夏君くらいだから、まだ『イレギュラー』の範囲で考えていい方だよ。ていうか、そこのところは君も納得してるんじゃないのかい?『模倣神ユウナ』ちゃん」

「……」


 優奈は神としての名を言われて顔をしかめるが、ラターグはそんな彼女を楽しそうな表情で見ていた。


「僕の弟子の一人である君がいなくなって、どこに行っていたのかと思ってたけど、まさかこんなところで一人の人間として生きているなんて思ってなかったよ」

「神が一人の人間として生きるのは別に珍しいことじゃないわ。転移神サラも同じでしょ」

「まああの子もそうだとは思うけど……君の場合は特に大きな立場を求めてないし、何が目的なの?」

「……私は模倣神ユウナだけど、石動優奈っていう人間は、別にいたのよ」

「ほー。簡単に言えば贖罪のためか。まあそういうことなら僕が横から口を出すようなことじゃないね」


 ラターグは納得した。


「で、多分秀星君。君のこと気が付いてるよ?」

「わかってるわよ。最近そういう雰囲気が何となく見えるし。でも、秀星はバラしたりしないでしょ」

「そうだね。秀星君が君のことを誰かに話すことはないだろう。ただ……神の力を隠さない僕を見たから、来夏君は分かっちゃってる。似たようなパターンで、君のことがばれることもあるかもよ?」

「私は模倣神よ。そしてそれと同時に、私はこれからも石動優奈なのよ。私のことに気が付いた人が隠していくのなら、私はそれに甘えるだけよ」

「ふーむ……思ったよりも簡単な話だったね」

「当然よ。で、そんなことを話すために来たの?」

「いや、君が本気を出さないままだと周りのメンバーが不味いことになるからね。だから来ただけだよ。で、来てみたら実際に君が暴れていたから、ちょっと気になって話してみただけさ」


 ラターグとしては、別に優奈がどう思ったとしても関係ない。

 関係はないのだが全く気にならないのとは少し違う。

 たまに気まぐれで気になることもあるのだ。


「ねえラターグ。あんたは、ギラードルが言っていることが間違っていると思う?」

「間違っているとは思わないよ。ただ、間違っていないからといって賛成しなければならない義務もないでしょ。まあ、僕にだって、君にだって、そして秀星君も、何か答えはあるんだよ。ただ。『明確に反対する理由』っていうものを、誰が一番最初に言うのかって話じゃないかな。で、それは君が最初であろうと二番目であろうと、最後であろうと構わない。要するに……」

「要するに?」

「僕にはわからないってことだね。ただ人間と神の明確な違いは、神は死なないし根本的な劣化もないから、『世代交代』が行われない。『時間』で解決することはない。『革命』をしなければ、何も変わらない。だから動いたのがギラードル君で、それを止めようと動いているやつもいるっていうだけの話さ」

「私、その動いてる神に対して、全知神レルクスがかかわってるって聞いたわ。それって、ギラードルの行動が、天界に悪影響を及ぼすってことじゃないの?」

「何か勘違いしているかもしれないけど、レルクスは天界のために動いているわけじゃないよ」

「……そうなの?」

「そうだよ」


 驚いている様子の優奈。


「フフフ。まあ、僕が言いたいことと聞きたいことは全部済ませたから、僕は帰るよ」

「……わかったわ」

「それにしても、やっと君も本気を出す程度の精神を持つようになったんだね。そこはまあ、元師匠としてはうれしく思うよ」

「……」


 優奈はラターグに背を向けて、そのまま歩いて行った。


「いつでも遊びにおいで、優奈ちゃん」


 ラターグは楽しそうな表情でその場を後にした。

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