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第五百七十六話

 ギラードルとの戦闘は、一言で言えば『近接勝負』だった。

 そしてそこに、無謀な様子で『おりゃああ!』とラターグが枕を持って突撃してくる。というパターンになっている。


「ぜえ、ぜえ……全然当たんないんだけど」

「近接関係素人だろうが。当たるわけないだろ」

「フフフ、秀星君。まさか味方である君から言ってくるとは思っていなかったよ」


 普段は範囲を設定して、その範囲を堕落させる手段をとるラターグ。

 堕落神らしく全然鍛えていないので、ちょっと近接攻撃を仕掛けるだけですぐに息切れである。


「ていうか、いつもは範囲的に堕落させるだけなのに、なんで今日は枕なんて取り出してるんだ?」

「いやー。実はね。ギラードルって天界を自分の周囲に限定的に作る『個人天界』っていう手段があるんだけど、実はこの天界の中では、単純な神の力って天界神本人に効きにくくなるっていう機能があるんだよね」

「ん?第一世代型って、天界に関係なく神の力を手に入れた神だよな。ラターグはそれに属するんだから、天界がそこにあったって関係ないと思うんだが……」

「いや、彼が作ってる天界は第一世代型が相手になったことを想定した構造になってるんだよ。だから、いろいろと僕の力が複雑にかかってる枕を使っているわけさ」

「要するにギラードルの方が『再定義能力』が高いってことだな」

「雑に言えばそんな感じ」


 要するにラターグが使い物にならないということがよくわかった。


「しかし、第一世代型が相手でも機能する天界か……そんなものが作れるとはな」

「私は天界神だ。要するに、範囲を定めてルールを決めるのが私だ。その程度のことができないわけないだろう」

「まあそれもそうか」


 息切れしているラターグは別として、秀星もギラードルもほとんど切り札を使っていない。

 まだお互いに探っている最中なのだ。

 ただ……秀星にはわかる。


(ギラードルもそれ相応に視野が広い方だろうな。ただ……そのほとんどは、ラターグを注意深く見てる)


 やはり、ギラードルにとって、警戒すべきなのはラターグなのだ。

 枕を振りまくって息切れするというどうしようもないことになっているが、ラターグが持っている手段にもメリットやデメリットはあり、そしてそのすべてを自分で分かっている。

 というより、ラターグは本気を出さない秀星とギラードルに合わせているだけなのだ。


「そろそろ手札を切っていくとしよう」

「そうかい。なら俺もそれに乗ろうか」


 秀星はマシニクルからレーザーブレードを出現させて、プレシャスを構えなおして二刀流にする。

 加えて、左手の甲の上にオールマジック・タブレットを出現させた。


「フン!」


 ギラードルが真横に剣を一閃する。

 そのまま斬撃のようなものが飛んでくるが、秀星は真上に飛んで回避。


「うわっと!」


 ラターグは枕で防御した。

 どうやら斬撃には堕落耐性がなかったようで(別にあることが当たり前だとは言わないが)、そのまま枕にあたって霧散していく。

 妙な光景だが、堕落神が作った枕なのでそうなるだろう。

 秀星が地面に着地した瞬間、ギラードルは左手を前に出してきて、そのまま魔力の弾丸を機関銃のように連射してくる。


「敷布団バリア!」


 文字通り敷布団がラターグの前に出現する。

 ラターグがそれを持ち上げて自分を覆いつくすと、魔力の弾丸は霧散して消えていく。

 攻撃が終わるとバサッと敷布団をのけてドヤ顔になる。


「どうだ!これが僕の敷布団の力だ!これに当たった攻撃のエネルギーを無力化させると同時に、真面目に戦っているやつのイライラゲージを上昇させる効果がある!」


 確信犯のようだ。いつものことだが。


「……」


 無言のギラードルだが、眉間には青筋が立っている。

 効果を自分で説明するラターグの言語スタイルは基本的にむかつくのでこれが普通である。


「やはりお前はイラつくな」

「だったら秀星君の前に僕を倒してみるといい。できるものならね」


 両手でクイックイッと挑発するラターグ。

 ギラードルは魔力の砲弾を一瞬で作ると、それを飛ばしてくる。

 それに対してラターグは……抱き枕を一瞬で作った。


「おりゃ!」


 魔力の塊に抱き枕を振り下ろすと、一瞬で魔力の砲弾が霧散する。


「かなりイラつくが性能だけは本物か」

「毎日作ってるものだからね。君とは違うのさ」

「腹立つ……」


 常にどや顔のラターグ。

 そりゃ見ていて腹が立つというものである。


「まあいい。魔力の弾丸を作る程度しかしていないのに、いちいちイライラしても仕方がないからな」

「まあ何でもいいからやってみなさい。大体は全部堕落させることができるからね。ただ、僕の相手をするときは、あまり簡単に考えないようにね」

「どういう意味だ?」

「君は、『堕落』がどういうことなのかわかってるのかってことだよ」

「……」


 ギラードルは黙った。

 が、次の瞬間、空間がゆがんで、その歪みが秀星たちの方に向かって飛んでくる。


「ちょっと広めの『個人天界』か」


 ラターグが手をかざすと、ラターグの傍の空間がゆがんで、ギラードルのそれと衝突する。

 だが、ラターグの方が一瞬でギラードルのそれを飲み込んだ。


「フフフ。ちょっと出力上げてるけど、天界の力が堕落よりも上だと思ってるのかい?根本的な話さ。『天界だって堕落する』んだよ!」

「チッ、これだからお前とやるのは嫌なんだ。むっ」


 秀星が後ろからプレシャスを振り下ろしたが、ギラードルはそれを回避して距離をとった。


「完全に死角だったはずだが……」

「驚いているようには見えないな」

「まあな。言うほどめずらしいことでもないし。似たようなことをされてもわかるよ」

「なら試してやろう」


 ギラードルが転移して剣を振ってきたので、秀星はそれを受け止めるふりをして、即座に後ろに剣を振った。

 ギラードルが構えた剣に衝突する。


「完全に死角だったはずだがな」

「驚いてるように見えないぞ」

「君が言った通りだ。珍しいことではない」

「ただ、俺とアンタでは理由が違うよ」


 秀星はそう言って、剣を弾く。


「なーんていうか、埒が明かないねぇ。そもそもだけどさ……ギラードル。本気出すつもりってある?」

「ないわけではないが……」

「秀星君もだよ」

「……」

「……はぁ、わかったわかった。僕は秀星君の家で待ってるから、あとは二人でお好きなようにしなさい。それに……馬鹿なやつが勝手なことしてるみたいだから、僕はそっちに行ってくるよ」

「ああ。任せる」


 秀星はギラードルの方を向いた。

 それを見たラターグは、いつものようにあくびをした。


「全く、手数が少ない秘密主義者は見ていてダルイねぇ」


 そんなことを言いながら、ラターグは山頂を後にした。

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