第五百七十四話
「ギラードル様。朝森秀星を倒す手段ですが、具体的にどのようにすればいいのでしょうか」
ギラードルの拠点の応接室。
そこでは、ギラードルの派閥の神の中でも、ギラードルの考え方をしっかりと理解した神々たちが残っているわけだが、ギラードルに質問していた。
「勝てないのか?」
「私たちは無理といっていいでしょう。致命的な急所を知っているのではないかと思うほど、数多くの最高神が倒されています。中には我々よりも強い神も倒されているところを考えると、真正面から挑んで倒すというのは……」
「……」
簡単な話である。
なぜ今までその話をしなかったのか。という疑問が出てくるのが普通だろう。
これにも理由はある。
これは天界に存在する常識の話であり、神というのは基本的に、派閥の中で階級の低いものは功績を得る機会がほぼないのだ。
事務的な仕事がそれ相応にある上に、ついでに言えば神兵を持っている神はどこかの派閥に入ろうとしないパターンも多く、結果的に勢力としてはかなり小さい。
そのため、『え、あいつやられたの?ラッキー!』と思って、自分の功績のために動くだけなのだ。
そして相手が人間となれば、まあまず調べないのである。
だからこそ大量の神が飛んで火にいる夏の虫のごとく湧いてきたのである。
「人質でも使えばいい」
「え……人質ですか?」
「そうだ」
ギラードルは頷く。
そもそも相手が人間であるならば、人質という手段は大きく使える。
というより、何の関係もない人間であっても、数を揃えて全員に銃口を突きつければいいだろう。
人間は、親しい人間であるかどうかにかかわらず、『自分の選択によって人が死ぬ』ということに対して耐性がない。
デモンストレーションとして数人殺しても問題ないくらい数を揃えておけばなおさらだろう。
その人質を殺す映像を公表すればなおさらだ。
ただ、これには前提条件がある。
「……ギラードル様」
「なんだ?」
「そもそも、人質を取ったとして、朝森秀星が相手の場合、意味があるのでしょうか?」
「どういう意味だ?」
「人質がその効力を発揮する最大の条件は、『その人物が人質を助けることができない』という点です。仮に誰かを人質に取ったとして、『秀星が下手な動きをすれば人質を容赦なく殺す』ということが不可能と判断します」
「何故だ」
「おそらく朝森秀星は時間を止められると思いますが、私たちに時間停止適応能力は存在しません」
「……全くいないのか?」
「持っていたものは全て刑務所に……」
「なるほど」
「加えて、おそらく朝森秀星は、神としての力を振るうことができない空間を作ることができます」
「なるほど。だが、神の力を使わずに戦えば……」
「もしかしたら朝森秀星に勝てるかもしれないほどの力を振るえるものは全て刑務所に……」
「……」
ギラードルは『あいつらってまだ利用価値あったの?』と思ったが、古今東西、『無能』や『自分と意見が合わない者』はいても『不必要』と判断することが愚策であることは何を読んでも同じ事が書かれているだろう。
その手の『ざまぁ系』の作品を読めば、大体無能扱いされる雑用係を追放してひどい目に遭うのはよくある展開だ。
自分がデメリットになると思って切れば、相手のメリットになるというのは何も珍しいことではない。
「なるほど、根本的な部分で、革新的といえる作戦が必要になるわけか」
「はい。このままでは、我々も刑務所送りになるだけと判断しました」
「そうか」
というより、この会話が成立している時点で、自分たちが悪いことをしていると分かっているのだ。
まあ、その根底には『自分たちは間違った正義を打破するために活動しているのだから、彼らにとって自分たちが罪であることは必然』と割り切っているので問題はない。多分。
「……いっそのこと、私が出るか?」
「ギラードル様がですか?」
「そうだ。というより、そもそも排除しなければならないのは朝森秀星だけではなく、あの粗大ゴミも同じだ」
「堕落神ラターグですね」
「であれば、間引きはしっかりと終わっているのだから、私が自ら出て、二人をまとめて倒してしまえばいい。これ以上、派閥の者が減っていくのは不味いからな」
「お、おお。ついに決戦なのですね」
ギラードルは頷いた。
「そうだ。決着をつけようか。秀星。ラターグ」
と口の中で言うものの、内心では『とりあえずこいつらの戦闘力をどうにかしないと……』と考えるギラードル。
それと……『ギラードル君のところって人材不足だねぇ』というラターグの馬鹿にしたような声が聞こえてきたような気がしてイラつくのだった。




