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第五百七十三話

『ラターグ。一つ、聞きたいことがある』

『どうしたんだい?ギラードル』


 思い返せば、ほんの数年前かもしれない。

 明晰夢。

 いくつも見てきた中で、それの一つに過ぎないものだ。。


『お前は、今の天界をどう思う』

『どういう視点の話をしてるの?』

『デフレが続いていることだ』

『ああ、緊縮財政の話ね』

『そうだ』


 ギラードルと話したときの記憶だ。

 財政の話は自分の未来のことやいろいろな裏側が見られるのでラターグとしても楽しい。


『私は不思議に思うのだ』

『ん?』

『現実として、日本では財務省が強者だろう』

『だね』

『そして。その財務省の出世システムが、緊縮財政を進めることによって成り立つというものだ。だが、天界にはそのようなシステムは存在しない。なのになぜ、天界に存在するあの政府もどきは、今もそれを続けているのか。ということだ』

『ああ、『天界調節委員会』の話をしているのか』


 天界に存在する政府もどきである『天界調節委員会』

 グローバリズム推奨の場合、『小さな政府』と呼ばれる『政府の介入が行われない社会』を求める。

 その結果として、文字として『政府』と呼ばれるものは消えたのだが、何のルールもない市場は基本的に格差が開くだけなので、委員会と呼ばれるものができた。

 最高神の中でも実力があるものの話を最大限考慮するのでかなりごちゃごちゃしている。


 基本的に、『条文を削除する』のではなく、『条文を廃止・修正する条文を新しく作る』というスタイルのため、条文の数はちょっと頭がおかしいレベルだ。


『あんな政府もどきでは、この天界は、いずれ他の組織に抜かれるぞ』

『ふーむ……そういう考えもあるわけか』

『そうだ。下界に降りれば、私たちの価値観では考えられなかったイレギュラーがいくらでもいる』

『確かにねぇ。しかもその時の対応って、大体は『そのイレギュラーに神の名を与えて、天界のシステムの枠に納めて満足させてしまう』ことだからね』

『そうだ。だが、それでは対処療法にしかならない。天界そのものにさらなる強化を施し、そしてさらなる発展を遂げることが必要なのだ』

『……』


 正直この時点で、ラターグはギラードルの話に違和感を覚えていた。

 焦っているように見えたのである。

 まるで、『天界を超える何かがあることを知っている』かのように。


『ギラードル。君は一体、何を見たんだい?焦っているように見えるよ』

『私は焦ってなどいない』


 そういうギラードルだが、瞳は揺れている。

 声の奥も震えており、嘘をついていることは明白だ。


『ふーん……それにしても、天界を強くするためか……』

『そうだ。さらなる技術の開発。それが神がすべきことだ』

『いや、それって人間のすることじゃない?神のすべきことは秩序の維持でしょ』

『秩序に土足であがりこむお前がそれを言うのか?ラターグ』

『まあ、僕もそういわれるとつらいけど、ただ、君がそんなことを言い出すとは思わなかったよ』

『そんなことはいい。ただ私は、この天界は、さらなる発展を遂げるべきだと主張する』

『まあ、君が何を主張しようと自由だけど、僕個人としては、考える必要なんてないと思うけどね』

『……』

『だって、人が住める惑星があって、そして人が産まれて、当然発展するけど、地球がその命を終えるまでに、僕たちが興味を持った技術を作ることができていたかい?一億とか、一兆とか、そんなレベルじゃ到底数えきれない世界があっても、僕らを超えることはできなかった』

『だがこの天界も、大きな枠で見ればその世界の一つでしかないのだ。僕はあくまでも、世界の一つの中で範囲を決めて、その中を天界と定めただけだからな』

『ふーむ。まあそれもそうだけど……』


 ラターグとしても、ギラードルがそこまで多くを考えているようには見えない。

 ただ、『強くならなければならない』とだけ考えているようだ。


『ギラードル。聞きたいことがあるんだけど』

『なんだ?』

『僕はさっき、『何を見たの?』と聞いたけど、ちょっと変えるよ。『何処』を見てきたの?』

『……』


 黙るギラードルだが、必死になって表情を保とうとしているのがわかった。

 やはり、とラターグは思う。

 いずれ抜かれようと、一対一の状況に持ち込めるのであれば、ラターグ自身でもいいし、最悪、全知神レルクスが行けばいいだけの話だ。

 だが、組織として、国として、大陸として、世界として、急激に成長しているのであれば、確かに一人倒しただけでは終わらない。

 すでに技術化されたそれらは、だれにでも使えるのだから。

 ギラードルはどこかで、その『成長』を見たのだ。


『ギラードル。言っておくけど、君は自分と天界そのものを過小評価しすぎじゃないかな?世界一つ程度なら、僕がその気になればすべて堕落させることができるんだよ?』

『だが、成長に罪はない。自分たちよりも強くなりそうだから妨害する。ということを認めないわけではないが、お前を含め、天界にいる誰かのやり方では、罪のない成長のために、罪のない人間たちの『未来』を奪うことになる』

『……その『未来』を壊さずに自分たちが抜かれないためには、自分たちが成長するしかないってこと?』

『根本的に言えばそうだ』

『スポーツマンシップってのが好きなんだねぇ……最後に一つだけ聞いていい?』

『なんだ?』

『なんでそれを僕に言いに来たの?』

『……失礼する』


 ギラードルはそれ以上は何も言わずに部屋を出て行った。


 ★


「……ギラードル。君の価値観に罪はないと僕も思うよ。だから……主張するといい、押し付けてくるといい。ただ僕はね。『僕がよければすべていい』んだ。だから、君の話を聞くつもりはない。いつでもかかっておいで。君は僕の最初の弟子だから、面倒見てあげるよ」

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