第五百七十二話
「ほう、フレイオ君がいたんだ。しかも、今までより強そうな神が十人ねぇ……」
「確実に、ギラードルは間引きを終了した」
秀星は自宅で、ラターグ、エーベル、ライザーの三人に先ほどの戦闘を説明した。
「というより……秀星は、最高神の神兵長に加えて、最高神が十人いても関係ないんだな」
「……ラターグが来たばかりのころは、まだ最高神って面倒な相手だと思ってたんだけどな……」
「フフフ、まあ、最高神だってピンキリさ。それくらい最初からわかってるでしょ」
「まあ、そうだけどな」
ラターグが楽しそうな顔で秀星に言うのだが、秀星だってそれは理解している。
「さて、そろそろ向こうも本気でつぶす気になったと思うよ。どれほどギラードルが野望を抱えていたとしても、彼自身は一人の最高神でしかないからね」
「……一人の最高神でしかない。か……そういえば、他の最高神はどう思ってるんだ?」
「フフフ、秀星君は最高神を過剰評価したいのかな?大体の最高神はね。『自分以外の神が考えた、自分に何の得もない作戦はいずれ失敗する』っていう闇雲な確信があるのさ」
「クソみたいな話だな……」
要するに、『自分にとって都合の悪いことはすべて無意味と化す』といっているのだ。
「もちろん、そう考えていない神も一定数いるし、そういう馬鹿なことを考えている神が無意識に敵に回さない『強い神』っていうのは、基本的にやばいからね」
「トップクラスの最高神と、それ以外の有象無象の最高神の思考回路の中で、根本的な違いってなんだ?」
「『トップクラスの最高神』というハチャメチャな文が成立している言葉って僕好きだよ。で、根本的な違いかぁ……エーベルちゃんはなんだと思う?」
「私個人としては、『簡単な嘘』じゃなくて『難しい真実』を抱えて生きているからだと思う。だから、思想を理解できるのも少数で、少数精鋭派閥になる」
「簡単な嘘じゃなくて難しい真実を抱える。ねぇ……」
「言い換えればプロパガンダで騙されないということか?」
「副次的に言えばそんな感じじゃないかな?本質はもっと深いと思うけど、まあ僕もエーベルちゃんの意見には賛成かな」
ラターグは楽しそうだ。
いろいろな意味で、『本題に入れる』と思っているのだろう。
「というわけで、ほかのそんじょそこらの最高神とかが出てくることはないよ。あくまでも、対応するのは僕たちだけさ」
「ていうか、予算が組まれたとか、そもそも対応チームができてるとか話がいろいろ出てるけど、俺、そいつら見たことないんだけど」
「ああ、ほとんどは僕に与えられた権限で除名したよ」
「除名した!?」
ラターグが辞めさせたようだ。
「だって……なんだか予算を横領することしか考えてなさそうなやつばっかりだったからね。ほとんど僕の金だっつーの!」
「……」
こういう話を聞くと、『うーん。神もやっぱり人間なんだよなぁ』と思う。
「なんていうか、ギラードル様が天界政府を作ろうとした理由の一つっぽい気がしなくもないな」
「あ、ライザー。俺もそう思った」
「ハッハッハ!で、結局、僕と創造神ゼツヤと、ほか数名になったね。基本的に、神がかかわりすぎてるのは不味いから、その隠蔽工作のために動いてもらってるよ」
「その割に自分から暴露してるよな」
すでに剣の精鋭の内部では、雫がゲロったので全員が神がいることを知っている。
ただ正直、現段階では関われるのが秀星や来夏といったちょっと人が超えてはならない壁を越えているやつばっかりなので、来夏の命令で『秀星以外がかかわるの禁止!』ということになっている。
来夏はそのあたりの判断はしっかりできるのだ。
あれでも最高会議の五つしかない席の一つに座っている男の一人娘なので。
「さてと、これからどんな風に攻めてくるのかねぇ……」
「わからないけど、油断しちゃだめだよ」
「わかってるさ」
「わかってるけど理解はできてないと思うけどね」
「……」
反論はしない秀星。
「さてと、多分これからは僕もしっかり動く必要があるんだろうなぁ……はぁ、働くのは嫌だよ」
「自分でほとんど対応メンバーをリストラしたんだから、しっかり頑張る」
「まあ、最初からそうするつもりではあったけどね。解決しなかったらレルクスに裏金暴露されちゃうし」
というわけで、ある程度やる気を引っ張り出してきたラターグ。
すぐに消えそうなものだが、根本的には『解決しないとやばいことになる』のは決まっているので、最終的にはちゃんと動くだろう。
「さてと、いろいろ対策しておこうか。十数回は死んでも問題ないように、いろいろプロテクトを考えておこう」
「そうだな」
死とは一体……。




