第五百七十一話
秀星は『間引きはこれで終わりか』と思った。
狙ってきているのは、スーツ姿の男と、最高神が十人。
第一世代型はいないので、いずれにせよ特殊な空間を作ればいいわけだが、一度、『全知神の神兵長』であるユキを見ている秀星は、そのスーツ姿の男が『神兵長』であるということを何となく察した。
このタイミングで、一応『これまで見てきた最高神よりもワンランク上の実力』を持っているものが十人も来ており、そしてそれを指揮しているのが、その最高神よりも実力が低い神兵長。
となれば、神兵長はかなり派閥の中で発言力のある神に属することがわかる。
「フフフ。朝森秀星。あなたは天界神ギラードル様の天界政府のため、処分させてもらいます」
「……」
眼鏡のブリッジを上げながらそういっているので、とりあえず『自信がある』ということは分かった秀星。
「あんた。誰だ?」
「フフフ、私はフレイオ。天界神ギラードル様の神兵長ですよ」
「そうか」
派閥としては上の方の神だとは思っていたが、『指導者本人の神兵長』だとは思っていなかった。
「……お前さ。俺に勝てると思ってる?」
「当然でしょう。ここにいる神々は、ギラードル様の派閥の中でも精鋭部隊なのです。敗北などありえません」
「そうか」
どうやら根拠はないらしい。
(ま、最近真正面から戦ってないし、とりあえず押し付けられたり奪われたりしない程度に『名前』を調節しておこうか)
秀星はとりあえずそういうことにして、独自の次元を作っておく。
本来はこういうことはできなかったのだが、ラターグが『教材でも機材でも買ってあげるよ』という話の時に教科書を買って、それをもとにして作り出した細かい技術である。
「さあ、行きなさい!」
フレイオが叫ぶと、十人の最高神が一斉に秀星に向けて手を伸ばす。
その手の先には、炎だったり氷だったり、様々な属性の魔法が出現する。
しかし、『最高神』がそういうことをすると、規模は圧倒的だ。
「フフフ、初陣として戦功が必要なのでね。これくらいは耐えてくださいよ?」
フレイオがそういった瞬間、魔法が次々と飛んでくる。
秀星はプレシャスを構えることなく、デコヒーレンスの漆黒外套を着て、そのままボーっと立っていた。
魔法が次々と直撃するが、何も影響はない。
一応、秀星が使っている神器は、全て下位神である『創造神ゼツヤ』が作ったものだ。
だからといって、上位の神の攻撃を耐えられないのかといわれると、そういうわけではない。
神であれば第一世代型の方が強い印象があるが、神器はその世代を重ねるごとにしっかりと進化している。
そして、秀星が持っている神器は、すべて最新型だ。
下位神であっても、作ったのは『創造神』だ。
当然、単なる魔法であれば意味がない。
「……おや?無傷ですが……しかし、見たところ下位神の神器。最高神の攻撃にいつまで耐えられますかねぇ」
どうやら神器に世代があることを知らないらしい。
と思ったら、全員が剣や斧。槍を構えた。
すべてが最高神の神器である。
自分で作ったものではなさそうだが、いうほど世代的に進んだ形式には見えない。
「……!」
全員が剣を構えて突撃してくる。
最低限の連携の教科書を読んできているのか、お互いに邪魔にならない程度の連携はできている。
ただし、連携の訓練をしているわけではないようだ。
(神って連携とかほとんど考えないんだな……人のこと言えない)
秀星は『剣の精鋭』というチームに所属している。
正直、連携の練習なんて全然やってないのだ。
チームでダンジョンに潜った時なんて、『順番に一人で戦う』という腐り具合である。
一応、戦っている人がピンチになったときはすぐに入れるように構えているものの、さすがに他人のチームの連携にケチをつけることはできない。
「はぁ……」
襲ってくる剣や斧。槍をプレシャスですべて弾いていく。
正直……全然強くない。
多分一人ずつ来た方がまだましである。
「殺陣くらい習ってこいよ」
「ん?盾がなんだ?我々はそんなもの持っていないぞ」
「あら、ご存じない?」
主にアクション映画での格闘シーンなどに使われる演技である。
荒事を習ってなさそうな俳優がとんでもない乱闘シーンをしているときがあるが、あれは殺陣師が指導、人選を行っているのだ。
「まあいいや。で、何が言いたいかよーく教えてやる」
秀星はオールマジック・タブレットを出現させた。
「素人活劇は地元でやれ」
一瞬で全員に麻痺弾を撃ち込んだ。
ちなみに、無臭透明で、周りの空気を動かさないため恐ろしく気が付きにくいものだ。
まあ、高志や来夏は勘で分かるだろうが。
全員が悶絶した後、そのままバタリと倒れていく。
それを見たフレイオは、ポカーンとアホ面をさらしていた。
「おい、何ボーっとしてるんだ。お前は戦わないのか?」
「な……ば、馬鹿な……最高神がこんな簡単に負けるはずが……」
「そうだな。本来ならこんな簡単には負けんよ。ただ、そいつらを簡単に倒せるくらい。俺は強いんだ」
「う、嘘だ!」
「で、お前は戦わないのか?」
「く、くそおおおおおお!」
フレイオが手を前に出して、炎を出現させる。
「そういう何の変哲もないことしかできないからダメなんだって……」
神兵長といっても、戦闘向きではないものがいることは分かる。
ラターグと話し合って神兵について聞いているが、戦闘における補佐をするのか、事務的な補佐をするのかでかなり分かれてくるようだ。
天界神ギラードルが抱える神兵は、天界政府を新しく作る目的のため、ほとんどが事務系のようだ。
それはいいのだが、自分の身を守れないのは問題である。
炎が来たので、風の魔法で吹き消しておく。
「くそ、くそ!私は天界神ギラードル様の神兵長だぞ!貴様のような下等な人間が……」
「いや、神兵ならお前も人間だろ」
「うるさい!私は天界政府におけるナンバーツーの席が約束されているのだ!」
「それって天界神本人から聞いたのか?多分『ポストを考えておこう』みたいな感じで断定はされてないと思うけど」
「うるさい!私は正しいのだ!私は正義だ!私は……」
「最終的にそういう論点で話すのか。神兵長としてのプライドしかないのは分かったから、おとなしく刑務頑張れよ」
「フン!天界政府が達成すれば、全てはギラードル様の言いなりになる。神兵長である私は解放される!」
「そうなのか?神兵に関する法律をちょっと調べたけど、実刑判決くらったら、神の方は名前をとられることはないけど、神兵はその権限を剥奪されるって書いてたぞ」
「そんなことは分かっている。だが、ギラードル様が私を釈放してくださり、そして再び、神兵長として任命していただければ、私は再び神兵長として返り咲くことができる。その時は、貴様のことはこき使ってやるぞ!」
「あ、もう俺より弱いことは認めたんだな」
根の方は潔いな。
「うるさい!私は天界神ギラードル様の神兵長なのだ。私が正義だ!」
「……あっそ」
別に秀星は、フレイオが正義を主張することについて嫌悪感はない。
というより、ぶっちゃけると十割くらいどうでもいいのだが。
「もういいや。お休み」
秀星は透明麻痺弾を飛ばした。
そのまま気絶するフレイオ。
「正義ねぇ……まあたぶん、俺も無意識に掲げてるんだろうけどなぁ……」
秀星はその場を離れながら、正義について呟くのだった。




