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第五百六十六話

「ここに来るのは久しぶりだな」

「僕はちょっと前に枕を取りに来たから何とも思わないけどね」


 平等神エーベルから、『朝森秀星。私の権利を使う形で、あなたには天界に行ってほしい。最近行っていないはず。そこであなたは、自分なりに情報を集めてほしい』とのこと。

 加えて、『私は、私が持つ勢力を使って、天界神ギラードルの暴走を防いでおく。だから、師匠と一緒に行ってもらう』とのこと。


「それにしても、やっぱり物価が下がってるな」

「ちょっと前は反緊縮派の人たちが頑張ってたからなんとか物価も上がってたけど、最近はかなり下がってるね」

「俺はそういう時期に天界に来ることができていたから。まとまった金を手に入れることができたんだが……まあいい。金が必要になったらデフレを利用させてもらおうか」

「それでいいと思うよ」


 歩き回る中で、きょろきょろとあたりを見渡す秀星。


「ただ、天界の見た目って……なんか、現代日本と比べると近未来って感じがするけど、日本とあまり変わらんな」

「神の出身が日本人っていうのもあるけど、まあ基本的にそうだろうね」

「それに技術的に進歩してない」

「緊縮財政中に、技術に予算が組まれるわけないじゃん。研究することは無料(タダ)じゃないんだよ?」

「ラターグはそういうところに金を出さないのか?」

「僕は堕落神だけど、金を稼ぐことに関しては『投資家』だからね。経済にインフレの必要性はあると思ってるけど、本当にインフレしたら金の価値が下がるから、基本的にデフレが好きだよ」

「……」


 天界も日本もあんまり変わらない。

 そりゃ神の出身が日本人ならそうなるか。


「まあいいや。情報を集める。ねぇ……」

「僕としては情報を言うと、やっぱり『彼』に会う方がいいと思うよ」

「まあ、そういわれるとそうなんだが……」


 そもそも秀星は様々な神に対して情報があるものの、天界神ギラードルは初耳である。


「まあ、仕方ないか」

「そうと決まれば、行こうか」


 二人で早速移動する。

 向かった先は、最高神たちの住処が存在する居住エリア。

 仰々しい城や宮殿が並ぶエリアで、全て庭園付き。

 かなり圧倒されそうな雰囲気だが、そもそも、最高神でも特定の手段を用いれば倒せるのだ。

 別に今更過度な警戒をするほどでもない。


「さてと、彼が住んでるところはあっちだね」


 人通りの少ない場所を歩いていくラターグについていく秀星。

 そして、一つの城に来た。

 周りの建物に比べて一回り小さく、そして庭園も狭い。

 だが、手入れはほかの建物よりも行き届いていた。


「さてと、門番さんになんて言えばいいのかなぁ」


 甲冑を身にまとっている門番が二人いる。

 と思ったとき、なんと門番の方から二人が歩いてきた。

 秀星たちの傍で止まる。


「朝森秀星様と、ラターグ様ですね」

「うん」

「ああ」

「お待ちしておりました。レルクス様が応接室でお待ちしております」

「お、やっぱりね」


 というわけで、門番をくぐると、中にはミニスカメイドがいた。


「あ、いらっしゃいませ~」


 メイドは後ろで一つに束ねた茶色の髪を揺らしながらそういった。

 外見年齢は十五歳程度だろう。

 幼い顔つきでとてもいい笑顔だ。


「秀星さんは初めましてですね~。私はユキと申します~。全知神レルクス様の神兵長を務めてますよ~」

「……神兵?」

「あら?ご存じない?神様が人間の中から自分の私兵を選ぶ制度のことですよ~。主人となる神様は自分の力の欠片を与えたり、育成義務などがありますし、『神兵教育院』という学校もありますね~」


 そのような制度があるのか。

 初耳である。


「なるほどな……ラターグは神兵いるのか?」

「いるよ。大体僕のノウハウを盗みに来て勝手にいなくなるけど」

「スパイかよ」

「まあ、僕が生きてきた年月を考えれば、たかが百年や二百年で盗める程度の情報にそんな大した価値なんてないけどね」

「かくいう私も色々教えていただきました~」

「エーベルちゃんがいろいろ学んでた時に、ユキちゃんもいたね。あの頃は僕はロリコン呼ばわりされたものだよ。いでっ!」


 ラターグの頭上から氷の塊が降ってきてラターグに激突する。


「い、いっつううううう……」

「体を張って地雷を踏みに行くところは変わりませんね~」

「僕は堕落神だから働きたくはないけど、面白いことは率先してやるタイプだからね」

「そうですね~。さて、そろそろご案内しますよ~」


 ユキが歩いていくので、それについていく秀星とラターグ。


「……ん?秀星君。どうしたの?」

「いや……神兵って、人間だよな」

「そうだよ」

「……いや、ちょっとな。神器を持っていない状態でも、神器を持ってる俺よりも強い人間がいるとは思ってなかっただけだ」

「あー。ユキちゃん強いからねぇ」


 一体どういう構造になっているのかわからないが、天界最強である全知神の神兵長となれば、信じられないくらい強いのだろう。


「こちらの応接室になります。それではごゆっくり」


 ドアを開けるユキ。

 中では、木製のアンティークが並ぶ応接室が広がっていた。

 ソファでは、一人の青年が座っている。

 身長はそう高くはない。

 眼鏡をかけている黒髪の青年で、灰色のスーツを着ている。


「久しぶりだね。秀星君」

「ああ。下界で会ったから、天界で会うのは初めてだ」

「ラターグも変わりないようだね」

「そもそもこれからも変わらないことを知ってるでしょ」

「いや、本質は変わらなくとも、表面は変わることは知っている」

「あっそ」


 そんなやり取りをした後、レルクスに対面するようにソファに座った。


「質問に答えようか。君たちが考えるべきことは、天界神ギラードルを捕獲するかどうかだよ」

「んーもう。こっちがノープランだってことがばれてるっていうのが嫌だよね」

「……ギラードルの目的は?」

「彼が最終的に望むのは、君が住む地球を支配し、地球を第二の天界にすることだ」

「……第二の天界?」

「そもそも天界というのは、普遍的に存在する次元の中で、天界神が定めた領域のことだ。地球を天界と定めることができれば、地球は天界として扱われる」

「……なぜ、地球を天界とする必要がある?」

「ギラードルは完全な財政出動派だ。と言えばわかるかな?」

「……デフレが続く天界の現状を許せないっていうのは分かったけど、なんでそれが地球を天界にすることにつながるのかがわからないんだが……」

「あくまでも『第二の天界』を必要とする理由を説明しよう」


 レルクスは一度そこで言葉を切った。


「現在、僕たちがいるこの天界は、本来は単なる概念でしかない権限を、分割・物質化し、流通させることで、『天界神への権力の一極集中』を防いでいる」

「神が持っている権限って分割できるの?」

「可能だ」

「なるほどね。ギラードルは、新しい天界を作り出すことで、自分が完全に支配できる天界を新しく作り出そうとしているわけだ」


 ラターグは納得した。


「で、新しい天界を構築し、そのなかで財政出動を継続的に行って、進歩、進化を急速的に続けることで、様々なノウハウを蓄積。その結果生み出した戦力で、今僕たちがいる『第一の天界』に侵攻し、自分がばらまいた権限を回収。収縮し続ける天界に革命をもたらそうとしているってことだね」

「そういうことだ」

「……天界の政治ってどうやって決まってるんだ?」

「神々が権限を獲得しあったり、奪い合ったりして、『協定』とか『条約』を定めることで決めてるね」

「独裁政治が乱立してるのか……」

「そうなるね。まあ、あまりにもやりすぎてたら、僕が一気にそいつらを堕落させたりとか色々するけど」


 民主主義ではないことは確定。


「それと、これはギラードルの言葉だが、第二の天界を、『天界政府』と名付け、運営するつもりらしい」

「神々を統治できる政府なんて作れるのか?」

「作るつもりなんだろうね。神々が本気を出せるのは天界にいるときだけ。僕だって、『天界で神の力を行使する権利』を買ってる身だし、『神の力の行使の簡易化』と『神の力の暴走の完全制御』が天界の力だから、天界にいられないのはちょっと不味いかな」

「その権限って一回買ったらその先はコストいらないのか?」

「そうだよ」

「そうか」


 大体わかった。


「秀星君はどう思う?」

「さあ?単なる使命感で動いてるんだなっていうのは分かったが……」


 命名神によって神の力が天界とリンクしている。という話と合わせれば、『命名神』と『天界神』は神にとってはとても重要なものだ。

 おそらく。『命名神』から神の名をもらうと同時に、『天界神』からその『天界における神の権利の行使権』を手に入れる。という手続きが必要になるのだろう。


 天界神は、『自分には、神々にとって重要な権限に関する力がある。ならば、自分が世界を統治すれば、正しい天界を作り出すことができる』と考えているのだ。

 自分にしかできないという使命感。

 それが、今の天界神を動かしている。


「目指しているものは間違ってないんだよなぁ」

「そうだね。財政出動がない国はいずれほかの国に食われる。今は天界に匹敵する勢力がないから問題ないけど、秀星君みたいなイレギュラーが集まって、自分たちを理解して持っている才能を技術化すれば、いずれ抜かれる。それを防ぐためには、天界にも更なる進歩が必要だからね」

「だよなぁ……」


 秀星とラターグが納得しあっている間、レルクスは黙ったままだ。

 まあそもそも、この段階で『秀星とラターグがそれぞれ、どこまで理解しているのかを知っていた』ので、何も言う必要がないのだ。


「秀星君はどうすればいいと思う?」

「言ってることは間違ってないが……ギラードルの思想そのものは危険だと思う」

「だね。使命感によって支配することを選ぶと、大体最後はろくなことにならないんだよなぁ。レルクス。ギラードルは君に会いに来た?」

「いや、僕のところには一度も来ていない」

「なら不味いかもなぁ。ギラードルって結構熱くなる時があるし、正義感で燃え上がったら取り返しがつかないことになるよ……」

「正義ねぇ。面倒だな」


 秀星は溜息を吐いた。


「君たちがギラードルを止めようと止めなかろうと構わない」

「え、そうなの?」

「ああ、どちらを選択したとしても、僕が調整しなければならない状態にはならない」

「……」


 秀星は判断に迷った。

 そもそも、レルクスが何を基準にして介入するのかがさっぱりわからないのである。


「……秀星君。もう帰ろうか」

「いいのか?」

「うん。もう帰るよ。あ、僕の金で、教科書や機材を何かお土産で買ってあげるよ」

「高いものでもいいのか?」

「まあね。じゃあレルクス、僕たちは帰るよ」

「ああ」


 レルクスは頷いた。

 廊下に出ると、ユキが待っていた。


「それでは。城の外までご案内しますよ~」


 ユキについていって、秀星とラターグは全知神レルクスの城から出た。


「……面倒なことになったなぁ」


 そんなことをつぶやいているラターグ。

 秀星には、その言葉の意味を判断する材料はなかった。

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