第五百六十一話
最高神が二つの場所に出現した。
片方はラターグが対応するとして、もう片方はどうするのか。
ラターグは『秀星君。とりあえず抑えておいてくれない?勝てそうなら倒してもいいけどさ』と言って、ライザーを連れて行った。
秀星としては行かない理由がないので、そのまま向かうことに。
「さてと……なーんか電気が変なところから発生してるな」
木々が密集する森。
その中央で、一人の存在がとある作業を行っていた。
その反動なのかどうかは不明だが、なんと、木から電気が生成されているように見える。
「……む?なんだ貴様は」
作業をしている男が気が付いた。
金髪の大男で、両手で持っている機械が電気を放っている。
「俺か?俺は朝森秀星。そっちだと有名じゃないか?」
「ほう、お前がそうか。確かに有名だな」
作業を一時中断する気のようで、手に持っている機械をそばに置いた。
「だが、お前ひとりで来たのは間違いだったな。俺は電気神アルゼン。最高神の一人だ」
「うわ……やっぱり本人から最高神の名前を聞くと面倒だなぁ」
秀星はプレシャスとマシニクルを出現させる。
剣と銃を構えたからと言って優位に立てるかどうかと言われるとそうでもないのが最高神という相手なのだが、敵になってしまった以上仕方がない。
「フン。下位神の神器か。そんなもの、最高神である俺には通用しない!」
アルゼンが手のひらを向けてくる。
次の瞬間、レーザーのようなものが秀星に向かって飛んでくる。
秀星はプレシャスを振って、レーザーを防いだ。
「さすがの反応速度だ。だが、これはどうかな?」
次々とレーザーを放ってくるアルゼン。
プレシャスを振ったり、こちらもマシニクルを発砲して相殺したり、とにかく対応していく。
「一秒で百発以上だぞ。なぜ人間が対応できるんだ。変態か貴様」
「うるせえな。神がそういうことをごちゃごちゃいうんじゃねえ」
「最高神に向かって意見するな!敬え!」
「やかましい!最高神に対する第一印象が堕落神なんだから仕方ねえだろ!」
たまにレーザーの合間を縫ってマシニクルで反撃する秀星。
アルゼンは電気でバリアを作ってそれを防ぐ。
(あのバリア。今作ったんじゃなくて常備だな。レーザー兵器は牽制にもならん)
一目見てそう判断する秀星。
「フン!その程度の力で俺に勝てるわけがなかろう」
アルゼンの目の動きが変わった。
「!」
秀星は、自分の体内で電気が生成されたことを認識した。
だが、エリクサーブラッドを再設定して、『電気が生成されてもそれを考慮して万全の体調にする』ようにする。
神を相手に対処療法は意味がない。
その攻撃を行うことに、神々は何のコストも払っていないに等しいのだから。
むしろ、『その攻撃に対して、相手が明確に対応している』となると、それは戦術的に問題である。
ラターグから『押し付けてきたり、取られたりする』という話を聞いて、『なら押し付けてきたり、取られたりしても問題ないようにすればいい』ということで、『変化後の状況を普通として扱う』ことにした。
極端な話、今の秀星は心臓がなくてもエリクサーブラッドで『情報的に』守られるのだ。
「ほう?対応方法は間違っていないな」
反応が普段と違うのか、アルゼンが興味深そうな目で秀星を見る。
「まあ、体内で電気を生成する人間っていうのも、スキルがいろいろ絡めば珍しいことじゃないだろ」
「もちろんだ。あまりわかっていないものが多いがな。ただ、それに対応しただけで、俺に勝てるわけではないぞ!」
レーザーの本数を増やしてくるアルゼン。
「あーくそ、面倒だな」
一本一本の威力がすさまじいのだ。
しっかり防がないと、エリクサーブラッドの対応力を超える威力が発生する可能性が圧倒的に高いのである。
「仕方ない。ラターグに恩を売りまくるのも嫌だし……ちょっと切り札、使わせてもらうぞ」
「む?」
次の瞬間……。
アルゼンの手から、レーザーは出てこなくなった。
「……」
倒すのが困難だと思っていた相手が、実は『強いジャンルに属していただけ』というパターンは思ったより多い。
そして秀星にとって、この瞬間、『最高神』がその『単なる強いジャンル』に変わった。
「な、何故だ。なぜ、俺の力が使えない!」
「……さあ?お前が単なる、『神』でしかないからだろ」
最高神の一人、電気神アルゼン。
実は、秀星は彼に対して事前知識があった。
圧倒的なほどの『電気』を生み出すことができる神であり、最高神ゆえに、本来発電しない物体すら電気を生み出せるという概念が存在するため、充電不要の電気製品を生み出すという画期的なことを行っている神だ。
機械そのものの寿命が来ない限り、充電不要でいつまでも使い続けることができる製品を生み出すことで、様々な神々の行動時間制限の増幅という功績がある。
しかし……。
「くそ……」
アルゼンが秀星に手のひらを向ける。
だが、その手から電気が産まれることはない。
秀星の体に電気が発生して、体内が狂わされることもない。
「な、何故……」
「何度でもいうさ。お前が、単なる神でしかないからだ。他の力を何も持っていないからだよ」
「お、俺は最高神だぞ!」
「関係ない」
秀星はアルゼンの背後に一瞬で転移して、プレシャスの柄でアルゼンの首の後ろを殴った。
「ぐはっ……」
アルゼンはそのまま倒れる。
まるで……神の力が、全く機能していないかのように。
「最高神……か。さてと、天界に連絡する手段はないし、ラターグを待つとするか」
とりあえずアルゼンは拘束しておくとして、秀星はあくびをしながらラターグを待つのだった。




