第五百六十話
「秀星君。スポットの作成はもう十分だよ」
「そうか?」
「地球の二割を覆ってる状態だからね。さすがにもういらないさ」
「そんなもんでいいのか」
「というかどれくらい必要だと思っていたんだい?」
「地球の七割をカバーできるくらい」
「そんなにいらないよ。第一、敵さんである『新世界の正義』も、自分たちの神が動くためにはスポットが必要になるけど、全然作れてないし」
「下手なのか?コツつかむと結構簡単だぞ」
「アルテマセンスを持ってる人が言ってもあまり説得力がないような気もするけどね」
一枚のスポットシートを作り終えた時、ラターグはもういいと秀星にストップをかけた。
「まあ、もういらないのなら、とりあえずこれを後で設置しておこうか」
「うん。それでいいと思うよ」
ラターグがゴロゴロしながらそういった。
「で、俺のスポット作成をやめさせるってことは、ほかのことをさせたいのか?」
「いや、ちょっと気になることがあってね」
「気になること?」
「うん。平等神エーベルの戦い方について教えておく必要があると思ったからね」
「……」
なんで今?と思った秀星だが、ラターグはレクチャーをし始めるときは無駄を嫌うタイプなので、とりあえず聞くことにした。
「そもそも神々の戦い方っていうのは、自分がつかさどる要素を発揮するものになるわけだけど、上位神や最高神になると、それらの要素を強制的に奪い取ることも、押し付けることも可能だ」
例えば、『火炎神』という上位神か最高神の神がいたとする。
その神は、圧倒的な『火』という現象を発生させて攻撃することはもちろん可能だが、本来なら燃えないものに『火』という概念を植え付けたり、逆に本来なら燃えなければならないものから『火』という概念を奪うことができる。
「まあ、そうだろうな。ラターグの場合、堕落させることもそうだが、逆に堕落という要素を強制的に奪い取ることで、活発化させることも可能ってことだろ?」
「そうだよ。平等神も同様のことができるわけだ。そのメカニズムは知ってる?」
「神にとって重要なのは『名前』だときいたことがある」
「その通り。神々はどれも。自分がつかさどる概念に対する『名前』が絶大な力を発揮する」
「抽象的だな」
「一番簡単に言えば、『それぞれの言葉のきちんと定義された意味をとったりつけたりできる』ってことだよ」
「尚更わからん」
「とりあえずそこまで聞いておいてもらった後でエーベルの話をしよう」
話をぶった切ったようにしか思えない秀星。
「平等を押し付けたり、あるいは奪い取るって、どういうことだと思う?それを個人の戦闘において発揮するって、どういうことだと思う?」
「そもそも平等って、『みんな同じように』とか、『人間の価値に差がない』って意味だよな。それらを押し付けたり、逆に奪う……」
「広く考えちゃだめだよ。もっと細かく考えないと」
「……ん?ああ、そうか、神々の力の対象って『人』だけじゃないもんな」
「そうだよ。人間の体では、様々な微生物が宿主と共生関係にある。だけど、その均衡を崩すこともできるんだ。『平等』を操作できるということは、『どれほど平等から離れるのかを調節できる』からね。微生物の価値を人間よりも上にすることだってできる」
「そのプロセスは?」
ラターグはうーんと考えた後、口を開く。
「まず、平等を押し付けて、『人間』と『微生物』の価値を同程度のものにする」
「ふむ」
「そのあと、平等を奪い取るわけだけど、その平等を奪った後の価値の順位を決めるのはエーベルなんだよ」
「な、なるほど……」
「これにより、人間よりも体内の微生物たちの方が価値が高くなる。『人間』と『微生物』という二つの要素が持っている機能と価値が弄られて、微生物に圧倒的強者としての『意味』が発生するんだ」
「じゃあ、あくまでも神々らしく、『名前』が重要なわけか」
「そうだよ。僕が堕落の力を使うときも、その使う対象が持っている『名前』に対して『堕落』を押し付けるわけだからね」
血筋も立場も一切関係なく、ただ、『名前』という概念だけが重要。
「なるほどなぁ……」
「神を倒す手段をいろいろ考えていると思うけど、まあ、これが何かしらのヒントになることを願ってるよ。それじゃお休み」
ラターグはそういうとソファで寝始めた。
「……興味深い話だったな。そんじゃ。俺はこのスポットシートを設置してくるとするか」




