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第五百五十二話

 ラターグの予測は大体外れない。

 数多くの『神々が描くサブカルチャー』に触れているため、圧倒的なほどテンプレというものを知り尽くしている。

 天界において最初期からいるゆえに、神々の事情について知っている。

 そもそも、『経済神』や『政治神』などといった神々と話すこともあり、そういった事情もすべて把握している。


 そんな彼が、『そろそろ敵は動く』と予測した。

 それは本当に、敵が動くことを示している。


「……今日はラターグは来ないのか」


 秀星はとある山頂に転移で来ていた。


「家にラターグがいなかったから、先に来ているのかと思ったが……どうやら違うみたいだな」


 珍しいことがあるのかと思っていたら、『珍しい』ではなく『面倒なこと』だったようだ。


「お前は何を言ってるんだ?」


 秀星にそう言ってきたのは、銀髪を短く切りそろえた高身長の男だった。

 全体的に銀色でそろえた服の上に、金細工で装飾されている。

 背には黄金の剣を背負っているが、この剣は、まぎれもなく神器だった。


「いや、こっちの事情だ」


 秀星は右手にプレシャスを出現させた。


「ほう、この私に剣を向けるということがどういうことなのかわかっていないようだな」

「何馬鹿なこと言ってんだ。そもそも俺とお前は初対面だろ。自己紹介から始めようぜ」

「お前が意見を口にするな!……ふむ、だが、自己紹介は必要か。私はライザー。『剣術神ゴウザ』と『再生神リフレア』の息子である!」


 秀星はその自己紹介を聞いて、『あー……共通要素ってそういうことね』と思った。


「俺は……」

「フン!下界の屑の名前など興味ないわ。だが……邪魔をするというのなら容赦はせんぞ」

「ていうかそもそも、ライザーの目的っていったいなんだ?」

「様をつけんかあ!この無礼者があ!」


 突如怒り出すライザー。


(……なんていうかあれだな。地球に住んでいて、こんなコテッコテの異世界貴族言語を聞くことになるとは……人生っていうのは分からんな)


 異世界で過ごした五年間で十分聞き飽きたわけだが、どうやらまだその呪縛から離れることはできないらしい。


「無礼者っていうか……そもそもあんたのこと知らんしなぁ。そもそもこの地球で何か、人に崇拝されるようなことやったの?」

「ごちゃごちゃうるさい!」

「……もう一回聞くか。お前の目的って何?」

「決まっているだろう。この世界を、私の楽園にするためだ!」


 ……空気が凍った気がした。


「……真面目にそんなこと考えてるの?ていうか、普通に天界で過ごしてた方が楽じゃない?」

「あんな課税ばかりしてくるところでやっていられるか!下界で過ごすのならそれらは免除されるからな。ならば、下々の者たちがいるこの地球を、私にとって住みやすい楽園に変えるというのは、考えなくともわかることだろう!」


 ライザーはいろいろ言っているが……。


(……こいつの中でどんな暗黙の了解があるんだろう。話が飛躍しすぎて全然わからん)


 いや、言っていることは分かるのだ。

 だが、『自分と思想が全く違う人』と話したとき特有の意味不明さが尋常ではない。


「そのために、この地球に来たのか」

「その通りだ。まあ結果として征服することになるが、この私の支配を受けられるのだ。至上の幸福であることに変わりはない!」

「支配されることが至上の幸福ねぇ……」

「決まっているだろう。私は、最高神二人の息子なのだからな!」


 秀星から見る限り、そこは事実である。

 それと同時に、『子育て失敗してるな』とも思ったが。


「だったら天界でやってみろよ。ボコボコにされるだろうからな」

「貴様あああああああああ!絶対に許さんぞおおおおおおお!」


 ライザーは黄金の剣を抜いて、秀星に突撃してくる。

 振り下ろされた剣をプレシャスで受け止めて、そのまま受け流した。


「な……剣術神の息子である私の剣を……」

「自分で開発した部分がゼロの剣術なんて、知識で防げるよ」


 たとえるならば、格闘ゲームでボタンを押せば、それらに対応した動きをキャラクターは行うわけだが、その『コマンド操作』に近いのだ。

 もちろん、生物が行っているので言うほどカッチリしていないが、それでも、『ああ。こういう動きだけ体に叩き込んだんだな』と言える動きなのである。

 天界で立ち読みした剣術の本に書かれていた内容と同じなのだ。

 そりゃ覚えていれば防げる。


「く、クッソオオオオオオ!」


 次々と剣を振るってくるが、秀星はすべてプレシャスで受け止める。


(……お)


 たまに、教科書に含まれない動きが出てくるが、それらの動作は『本人が慣れていないため、一瞬、考える必要がある』のだ。

 動きは一瞬止まるため、予測することはたやすい。


「な、何故当たらん!剣術神の息子であるこの僕が……」

「おい、そろそろ本気でかかって来いよ」

「何!?グホッ!」


 腹に左手で鉄拳をぶち込むと、そのまま吹き飛んでいった。

 山に激突してへこんでいるが、あまり本人に影響はないようだ。


「ひ、卑怯だぞ!手癖が悪いにもほどがある!」

「なんで俺が剣術勝負なんてしなくちゃいけないんだ。それとまああれだ。この世界の支配するんだろ?だったら、俺くらいのやつに負けてたらとてもじゃないが無謀だぜ?」


 堕落神と創造神がいるからな。

 最高神二人の息子であったとしても、下位神にすら及ばないだろう。

 そういったやつらがいるというのに、神ですらない秀星を相手に何もできないとなれば、無謀の極みである。


「う、うるさい!私は神の息子だ!私が言うことは、すべて正しい!私は、正義なのだ!悪は滅べばいいのだ!」


 秀星は『適当に煽れば勝手に突っ込んでくるのか。楽だねぇ』と考えながら、とりあえずライザーの剣を回避して、胸ぐらをつかむと、その辺で拾ったゴキブリを中に入れた。


「うお!き、きさま、何を入れた!うお、気色悪い!」


 かなり新鮮な反応をするライザー。

 秀星は思った。


「お前、結構面白いな」


 というか口に出た。


「何ィ!ふざけるな。私を誰だと思ってる!」

「服の中にゴキブリ突っ込まれた馬鹿」


 正解である。


「ふ、ふざけるな!ふひょう!くそ、カサカサ動くんじゃない!」


 どうやら、ゴキブリそのものに対して嫌悪感があるのではなく、『動き回ることそのもの』に対して文句があるようだ。

 体をねじったり、足をくねくねと組んだり、貴族みたいな恰好をしているのにすごくコミカルである。


「あっはっはっは!(笑)」


 秀星は爆笑。


 まあそもそもの話だ。

 神々の息子が作戦のリーダーなわけがないのである。

 そのため、裏に誰かがいるはずなのだ。

 だが、このライザーという人間は、何かしらの計画のキーパーソンになっている可能性がある。

 でなければ、ラターグは気にすることすらしないはずである。

 さっき課税がどうのと言っていたが、そもそも、『神々は課税されるが、息子はその限りではない』のだ。

 それでも取られていると言い張る以上、ずっと昔から騙されているのである。


 まあ見ていて面白いのでどうでもいいのだが。


 秀星、業の深い男である。

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