第五百五十一話
「さて、どうしたものか……」
薬を渡して家に帰ると、再度スポットを増やすためにちまちま紙に万年筆のようなものでいろいろ書いている秀星。
書かれている文字は日本語ではないうえに、世界最強ゆえに圧倒的な速度を持っているはずの秀星にしては珍しく、万年筆のようなものが動く速度は速くないが、これは純粋に、単に書けばいいだけの物とは違うためそうなっているだけである。
神々が使っている力を使って書く場合、秀星でもそれは遅くなるのだ。
「秀星君って、スポット作るときに紙を使うんだね」
ソファではラターグがダラダラごろごろしている。
というより、基本的にソファから立ち上がった様子がない。
時々自前らしいスマホを持っているのだが、充電器につながれておらず(そもそも充電器がさせそうな穴がない)、おそらく充電不要になっているのだということがよくわかる。
基本的にはソファしか占領しておらず、本当に『何億年も、何の生産性もなく、ただごろごろできる』のだろう。
「……ああ、ほかにもいろいろ手段があるのは分かってるけど、敵がどんな方法で来るかわからないからな。とりあえず、俺が認識している神が制限なく動けるように作ってる」
「なるほど、いい判断だね」
「お前はダラダラしてていいよな……」
「神はスポットの作り方を教えることはできても、スポットを作ることはできないからね。で、僕はスポットの作り方を教えるのが面倒だから知っていそうな君のところに上がっているという理由もある」
「……」
「いやそうな顔をしないの。優秀な人から苦労するのは世界の鉄則でしょ?」
「まあそうだけどな……」
万年筆が動く速度は変わらない。
アルテマセンスの影響で、単に同じことを繰り返すのなら、ほぼ無意識でもこなせるからだ。
「……そういえば、秀星君のスポット作成シートって、だれに習ったの?」
「どうした急に」
「結構質がいいからね。ちょっと気になったのさ」
「天界で教科書を買った。その中のコラムに乗ってた」
「あー。なるほどね。秀星君って、天界に行ったことがあるんだ」
「ああ」
『神々』と『神の私兵とその候補』と『下界で生きるエネルギーが足りなくなった善良な魂の持ち主』が集まっているのが天界である。
言葉の数だけ神がいるといっても過言ではないのが天界の神々の事情なので、そこまで大きな規模になると、様々な生産と消費が産まれるのだ。
神々はぶっちゃけ自分一人でも生きていけるのだが、神々以外の者たちはそうではないため、『経世済民』としての『経済』が必要である。
そして、天界は秀星でも簡単には入れない場所であり(権利とか資格的ではなくコスト的に)、天界に少しの期間滞在し、その中で手に入れた天界での通貨を使って手に入れたのがその『教科書』である。
「なるほど。天界に実際に行ったのか、それなら、『神が人間の限界』って思うだろうね。全てが今あるものの延長線上でしかなかったでしょ」
「ああ、子供が考えるような何の論理的整合性のないことが可能だから、『不可能』は見当たらなかったけど、その代わり、あっと驚くような発見もなかった。まあ、俺がそこまで重要な施設に入れなかったって言うのもあるけど」
「……君が一体どこで全知神レルクスにあったのか非常に気になるけど、おいておこうか」
「ああ」
「にしても、スポットの作り方がコラムに乗ってるって……」
「メインストリートじゃなくて、裏の商店みたいなところで買ったからな。ほかの教科書がどうなのかは知らん」
「へぇ……その店の名前は?」
「確か……『オラシオン裏支部』だったような……」
「そうか」
「聞いたことあるのか?ていうかありそうな反応だが」
「そうだね。まあ、僕はいろいろ納得したといっておこうか」
要するに、ラターグとしては既知の名前で、彼の中で納得する情報があったということになるが、今はそれを秀星に教えるつもりはないということだ。
「……ラターグって秘密主義だな」
「僕以上にいろいろ隠したがる神は多いよ。まあ……まだいろいろと前提に縛られてる秀星君がえっちらおっちらスポットを作ってるのを見てると、どんな前提を持っているのかがわかってるこっちとしては見ていて楽しいからっていうのもあるけどね」
「この家から追い出すぞ」
「勘弁してください。この家においてください。僕はただダラダラしてるだけなのです」
「……」
エリクサーブラッドの影響で、怒りというものは基本的にすぐに鎮静化する。
怒りというものは視野を狭めることしかしないからだ。
全くストレスのない状態というものに耐えられないのが人間なので、確かにそれらの怒りを暫定的に受け入れることもある。
そしてラターグは、その暫定的な隙をついてくるのである。
だからイライラするのだ。
今の場合、追い出したら本当に困るのが秀星である。ということが双方にとって明確なので、秀星がどこまで怒ったとしても、癇癪を起こしたとしても、ラターグを追い出すことにはつながらないということである。
「……まあいいや、どうせ、言おうと思ったときに言うのがお前だ」
「フフフ、それで納得してくれる秀星君のことは大好きさ」
「俺はお前のことはあんまり好きじゃない」
「知ってる!」
「……そういうところだ」
イライラしているが、手は動いている秀星。
というか、途中でスポット作成シートの手を止めたくないので、どれだけイライラしていても書くしかないのだ。
ラターグもそれを知っているのでネチネチ挟んでくるのである。
「俺がまだ、前提にとらわれてる。か……」
「というより、自分と同じ属性を持つものが相手にいないって考えてるって感じかな」
「……俺と同じ?」
「そうだよ。ただ……そろそろ敵さんもちゃんと動くころだと思うけどね」
そういうと、ラターグは秀星の方に背を向けた。
どうやら、しゃべるのは終わりらしい。
(俺と同じ要素……か)
頭の中で自分のことを客観的なキーワードで並べていくが、神々が相手なら使えそうにないものばかりなのでだんだん萎えていく秀星であった。




