第五百四十五話
「ギャアアアアアアア!いつまで引っ張るんだこのゴリラあああああ!」
ガッシリとした体格の女性に引きずられるヒョロガリの少年。
という構図を見て、周囲の人間は何を思うだろうか。
まあ誰も得しない絵面である。
「よし、ここでオーケー!」
「グエッ」
時速六十キロから制動距離ほぼゼロで急停止したため、襟首を掴まれていたラターグは溜まったものではないが、一応最高神。カエルを潰したような声が漏れるだけで済んだ。
「おーい、元気か?」
「これで元気に見えるのなら君は眼科に行ったほうがいいよ。ついでに神々が使ってる病院の紹介状を書いてあげるから頭の中直してもらいなさい」
「んなことはどーでもいいんだよ」
「そんなことはないと思うなぁ……」
話を聞かない来夏。
誠にいつも通りである。
「さあ、いろいろ話そうじゃねえか。酒はいっぱい持ってるぜ」
「……」
ラターグはキョロキョロと見渡す。
視覚的情報から判断するに、『廃ビルの三階』といったところだろう。
何故か開けられた酒瓶が並び、ゴミ袋には砂鉄になったビール缶がギチギチに入っていた。
(あのゴミ袋は運びたくないなぁ……)
余裕の表情でどうでもいいことを考え始めたラターグ。
「ここって使われてない廃ビルだよね。勝手に使ったら怒られるんじゃないの?」
「いや、このビルはオレの所有物だぜ。剣の精鋭は金持ちだからな。この程度のビルくらい買えるんだ」
「へぇ……」
誰のものなのかは書類を見えれば一撃だが、逆に調べなければ誰のものなのかが一切分からない。
名前をつけるなら『秘密基地』というよりは『秘密になりそうな基地』と言えるだろう。
「なるほど、まあ、それでもなんだか問題がありそうだけど、僕が質問して答えを聞いても解決はしないだろうから置いておこうか。なにか聞きたいことでも?」
「クックック。転移神に続いて堕落神だろ?……なんかマイナーな神がいっぱい来てるって話だからな。事情が気になったわけさ」
「お、秀星君のお母さんが神だって知ってるんだ」
「高志ゲロったからな」
「プライバシーという言葉を知らないかい?」
「言葉の意味なら知ってるぜ」
グッドサインを出しながら缶ビールを開けて一気飲みする来夏。
世界最強である秀星を抱える世界最強のチームのリーダーの行動だろうか。
まあ、来夏に自覚を求めるなどという無駄なことをしたいとラターグは微塵も考えないが。
「オレは重大なことに一つ気がついてるんだ」
「何かな?」
「オレのパーティーに、神がひとりいるってことさ」
「あ、よく知ってるね。まあ、そういう話題なら、君とは話せそうだ」
そう言いながら日本酒の瓶を開けるラターグ。
いい匂いが少し発生し……。
「ヒック」
「神のくせに酒に弱すぎだろ!」
ラターグは何故か酔うのだった。




