第五百四十二話
「あ、お兄ちゃん。これ」
「手紙?」
喫茶店・サターナ。
雫の兄、茅宮道也が店長を務める喫茶店であり、沖野宮高校から徒歩で行ける範囲に存在する。
そこで、雫は一通の手紙を道也に渡した。
「誰から?」
そういいながら、道也はコーヒーを口に含んだ。
「えーとね、確か、創造神ゼツヤって言ってたかな」
「ブフッ!」
そしてそのコーヒーは口の中で爆発した。
「うわ、汚い!」
「……すまん」
ちなみに、コーヒーがかかった手紙は全然濡れていない。
変なところにプロテクトがかかっているようだ。
「お兄ちゃんって神様と知り合いなんだ」
「雫は神の存在を信じるのか?」
「別にいてもいいんじゃない?正直、私はどうでもいいことだと思うよ。一般人がビルをシャカシャカすることに比べれば」
「……まあ、そういうことにしておこうか」
道也としては懐かしい相手のようで、あまり見ない微笑んだような表情で封筒を見る。
「神様と知り合いって、なんかすごいね」
「たまに変なのもいるけどな。堕落神ラターグとか」
「あ、その神様にもあってきたよ」
「……」
道也は『ああ、こいつはこれから面倒なことに巻き込まれるんだな。ていうかすでに巻き込まれてるか』とでも言っているかのような視線を向ける。
「……まあいいか。アイツは一体何を書いてるんだか……」
道也は封を切って中身を見る。
……数秒後。
道也は手紙をビリビリに破き始めた。
「えぇ!?」
突然の兄の行動に驚く雫。
そのままビリビリに破いた手紙をゴミ箱に捨てる道也だが、その顔は完全なる無表情であった。
「……何が書いてあったの?お兄ちゃん」
「……一番書かれたくないことだ」
それはそれとしても破り捨てるほどだろうか。
「ただ、本当に久しぶりで――」
「おーい道也ー。入るぞー」
ちょっといい話に持っていこうと思っていたところで、店内にゼツヤが入ってきた。
まだ喫茶店として開店時間なので、普通に入ってくる。
道也の額に青筋が浮かんだ。
「……おい、何しに来たんだ」
「客だとは思わないのか……」
「神のご来店は遠慮している」
「幸福の神が来ないぞ。それ」
「邪神が入るよりマシだ」
というわけで、カウンター席に座るゼツヤ。
「……あの、私、ちょっと席を外しておいた方がいいかな」
「神がいることに比べればそこまで非常識な話をするわけじゃないし、別に構わない」
というわけで。
「嫌悪感バリバリだなぁ。久しぶりに相棒に会えてうれしいんじゃないのか?」
「別ルートのお前がいるから関係ないんだよ」
「なるほど、糸瀬竜一がいるわけか」
「そういうことだ」
道也はコーヒーを出した。
ゼツヤは出されたコーヒーを飲んだ。
「お兄ちゃんがいれたコーヒーっておいしいですよね」
「俺が教えたからな」
「え?そうなんですか?」
「ああ。俺が最後に呑んだ時より質は上がってるよ。というわけで道也。泊めてくれないか」
「……秀星のところにでも行けばいいだろう」
「一回行ったんだよ」
「ふむ」
「すでにラターグが泊まっていてな……『神を二人も抱えてたまるか』って追い出された」
「え、そうなの?」
一人も二人も同じのような気がする雫。
「神にはいろいろ制限がある。だからこそ、制限を緩和するための『スポット』を用意する必要がある。秀星はそのスポットを作れるから、それを利用してラターグが住み着いているわけだが、わずかにスポットの規模が足りていないから、ラターグ自身が調節して住み着いている」
「あの、正直、堕落神っていいますけど、それなら創造神であるゼツヤさんの方がいいのでは?」
「いや……俺も秀星も勝てないような敵がいたとしても、ラターグは確実に勝てる。秀星はそれがわかってるから、いやいや言いながらもラターグを家に置いているんだろう。そして、最高神であるラターグが住んでいると、ほかの神はちょっと無理がある」
「あー。なるほど」
「そして、この喫茶店にもスポットは用意されている」
「え、お兄ちゃん。そうなの?」
道也は頷いた。
「というわけで、泊めてくれないか。手伝いは最低限するから」
「というかお前が表に出たら、全部客がお前に向かうからな。それだとお前がいなくなったら困ることになるから、最低限で本当に止めろとこっちが言うつもりだった……二階が一部屋空いてるからそこを使え」
「助かる」
「埃が溜まってるけど」
「おい!」
というわけで、ゼツヤの居候先も決定。
神々がとりあえず住むことになった。
だからこそ、秀星と道也は同じ悩みを抱えることになる。
そしてこう思うのだ。
いや、厳密には道也は『思ったことがある』というほうだが。
『誰でもいいから主人公変わってくれない?』とね




