第五百三十九話
ダンジョンの中をサクサク進むラターグと雫。
かなり早い段階で、雫が一人で来る階層を突破してしまっている。
「あ、あの、ラターグさん。どこまで進むの?」
「ん?ああ、一応、このダンジョンに潜る目的ができちゃったからなぁ。とりあえずそれを達成してから帰ることにした」
少しだけ不安そうな表情になる雫の質問に対して軽く答えるラターグ。
正直なところ、そんな軽く答えられても困るのだが、ラターグとしてはどうでもいいことのようで、サクサク進んでいく。
「あの、秀星君は転移とか使うんですけど、ラターグさんは……」
「僕はその手のショートカットは大好きだが、残念ながら使えないんだよね……」
かなりめんどくさそうな表情で言うラターグ。
使えない。というのが技術的ではなく、ルールとして使えない人間の表情である。
「でも、走ったりはしないんですね」
「そうだね。走るのはもっと面倒」
ラターグの中の面倒の基準がいまいちわからない雫。
とはいえ、ラターグのような奴の中の基準など、日によって変わるのが普通なので、気にしたところで無駄だ。
「……そういえば、もうこのあたりになると人を見かけないね」
「すでに難易度が高いところに来てますからね」
「あ、そうなんだ。全然気にしてなかったよ」
「なんなんだろうこの人……」
正直、ラターグは進んでいるだけで、モンスターの行動や罠に対して一見無防備で、ほぼ何もしていないに等しい。
歩くことに対して抵抗はないが、転移などは大好き。
ここに来るまでにいろいろ話したが、矛盾することが多すぎてどう評価すればいいのかわからない。というのが本音である。
とはいえ、ラターグが帰る様子がないので、一人で対応できる範囲を超えたところまで来てしまっている以上、雫としてはついていくしかないわけだが。
「もうそろそろかなぁ……ん?」
ラターグがダンジョンに入って初めて『ん?』といった。
何かを見つけたのだろうか。
「珍しいなぁ」
「?」
雫がその場所を見ると、アイボリーのシャツ、ズボンに、水色のロングコートを羽織って、黒い長剣を背負っている銀髪青目の青年という、なんだかとても特徴にあふれた人がいた。
ラターグが声をかける前に、向こうが気が付いたようである。
「ラターグか。こっちに来ていたのか」
「そーなんだよゼツヤ君。このダンジョンでいろいろ企んでいそうなやつがいたからさ。雫ちゃんが誘ってくれたから、これを機に片づけておこうかなって」
「……」
ゼツヤ。と呼ばれた青年が雫を見る。
「あ、私は茅宮雫って言います」
「茅宮……ああ、なるほどな。俺はゼツヤだ。よろしくな」
「はい」
ゼツヤを見た雫の第一印象だが……。
(顔のパーツや体格だけ見ると、竜一さんにそっくり)
『ドリーミィ・フロント』における生産職を担当する魔戦士である糸瀬竜一にそっくりであった。
しかも、似たような黒い剣を背負っているので、雰囲気としてはなおさらである。
「茅宮……といったが、茅宮道也を知っているか?」
「あ、はい。私のお兄ちゃんです」
「……血はつながっていなさそうだな」
「義理の兄なので……」
「そうか。まああいつなら問題はないだろう。昔から苦労人だからな」
「どういう意味?」
「苦労人になった原因は君にもあると僕は思うけどね……」
ラターグと雫の指摘に対しては明後日の方向を向いてスルーするゼツヤ。
ただ、小さく『こっちでは義理の兄弟なんだな。アイツ』と言っていたが、聞こえているのはラターグだけだった。
「さてと、君がここにいたのはうれしい誤算だ。ちょっと手伝ってくれない?具体的に、雫ちゃんの護衛だけどね」
「え、護衛?」
「ラターグがこれから戦おうとしている敵は、君ではまず勝てないからな」
「なぜ私を連れてきた!?」
「いやー……ダンジョンに一緒に行こうって言われちゃうとね。僕も内心ではノリノリなわけさ」
「そういう行動原理で動いてるからぐちぐち言われるんだろう」
主に慈愛神とかである。
「フフフ。クソババアの説教より美少女の誘いさ」
「「……」」
「なんで雫ちゃんまでそんな目になるのさ……」
「ラターグさんって結構俗物ですよね」
堕落神だからね!と内心突っ込んでいるラターグ。
そしてそんな突込みが聞こえた気がしたゼツヤ。
「で、ゼツヤ。大体ここからどれくらいの時間がかかるの?」
「数秒だ。転移で行ける」
「なるほど」
「え。ラターグさんはできなかったのに?」
「……得意分野の違いだ」
「そ、そうですか……」
ゼツヤの言い分に、『多分それ以外に表現のしようがないんだろうな』と思った雫。
ラターグとしては、『まあ、『創造神ゼツヤ』だから、『堕落神』よりも行動的なことができるのは当然だけどね』と思うだけだ。
ぶっちゃけ、転移や転送だけで言えば『転移神サラ』が一番優れている。
ただし、転移や転送にもバリエーションはある。
単純に転移するだけならほかの神にとっても造作もないのだ。
サラはそのバリエーションが意味不明だが。
「というわけで、早速行こうか。ゼツヤ。よろしく」
「ああ」
というわけで、転移することになった。
『私がいる意味は一体……』と考える雫を連れて。




