第五百三十八話
「秀星君!お邪魔しまーす!」
なーんの予定もなかったとしても、家に入ってくる人間というものは存在する。
それが雫である。
一応、もともと生きていた十六年に、五歳に戻って繰り返して生きた分の十二年が存在し、精神年齢……というか、『精神実年齢』は二十八歳のはず。
異世界で五年生きてそれを誤魔化して精神実年齢が二十二歳になった秀星よりもそこそこ上のはずなのだが、若々しいメンバーが多い剣の精鋭に影響されて精神年齢は低いようだ。
ガチャっとドアが開いた。
「……お、雫ちゃんだね。いらっしゃーい」
「誰!?」
ちなみに、雫は本人が家にいるかどうかを電話でまず確認しない。
いなかったらいなかったで立ち去るだけである。
ただそれでも、見知らぬジャージ姿のやつがいたら雫だって驚く。
「ああ、僕かい?僕は朝森家の居候だよ」
「は、はぁ……あ、茅宮雫っていいます」
ラターグは雫の名前を知っているようだが、それでも一応名乗る雫。
「僕はラターグ。よろしくね。で、秀星君に用があるの?」
「うん。一緒にダンジョンに潜ろうと思って、誘いに来たんだよ」
「今日は土曜日なのにみんな元気だねぇ。今は秀星はいないんだよ。用事というか準備というか、いろいろあるからね」
「そうなんだ」
「というわけで、今日はほかの人を誘いなさい」
「うーん……ラターグさんって強いんですか?」
「君が想定しているよりは強いよ」
最高神だからね!と内心で自慢するラターグだが、当然そんなボッチの典型のようなことをしたところで通じるわけがない。
「だったら、ラターグさん。一緒に行きましょうよ」
「面倒です」
「まあまあそんなこと言わずに行きましょう!」
「いや」
「まあまあそんなこと言わずに行きましょう!」
「えー……」
「まあまあそんなこと言わずに行きましょう!」
「いやあの……」
「まあまあそんなこと言わずに行きましょう!」
「……」
「まあまあそんなこと言わずに行きましょう!」
「いや何も言ってないって」
「まあまあそんなこと言わずに行きましょう!」
★
十分後。
雫とラターグはダンジョンに来ていた。
「なんで僕がこんなところに」
「ラターグさんが押し負けたからです」
「いやまあそうなんだけど……」
転移装置が設置されているので、それを使って深い階層まで一気に飛んだ雫とラターグ。
「あ、モンスターが来ますね」
「そうだね」
ラターグが目を向けると、そのモンスターは倒れた。
そのまま動かなくなる。
「……え?」
「さて。次行きましょー」
「ちょっと待って!さっきの何!?」
「……とても不思議な現象が発生したのさ」
「……即死魔法みたいな感じ?」
「さあ、どうだろうね」
ドロップした魔石を拾って、そのまま進むラターグ。
正直、最高神の一人であるラターグにとって、ただのダンジョンが用意できる邪魔などないに等しい。
最高神であるラターグの攻撃は、ほとんどが『最強の優先順位』を持つ。
その存在により行われる『命の堕落』は、基本的に、だれも覆すことはできないのだ。
「こ……こんなすごい人がいるんだ……」
神です。
とラターグは思ったのだが、秀星の理論で言うと、神というのは人間の限界なのだから、言い換えれば神は人間である。
とはいえ、たとえラターグたちが名乗る『神』が自称であったとしても、ラターグたちを倒し、そして神の称号を奪える存在は今のところいないので、神を名乗ることそのものに何の躊躇もないわけだが。
「さてと、雫ちゃん。どれくらい魔石を集めるんだい?」
「五キロくらい」
「なるほど」
「あ、そういえば、私とラターグさんって初対面ですよね。なんで私の名前を知っていたんですか?」
「ん?ああ、剣の精鋭のホームページがあって、全員が顔写真付きで紹介されてた」
「え!?」
「多分君たちのリーダーが書いてるんじゃないかな。そんな感じの文章だったよ」
話しているときにモンスターが出てきたのでまた堕落させる。
「ま、また……全く構造がわからない」
「まあ、見ただけじゃふつうは分からないよね」
秀星であっても、ラターグの称号が『堕落神』であるということを知らなければわからなかっただろう。
「さて、どんどん進もうか。ん?」
壁から矢が発射された。
だが、ラターグが来ているジャージにあたると、矢が砕け散った。
「ええ!?」
「そんなに珍しいかい?」
「金属鎧なら珍しくないですけど、ジャージだよジャージ!」
ラターグからすれば何も難しいことはしていない。
飛んできた矢を堕落させて、勢いと結合ができないようにさせただけである。
「そういやダンジョンって罠もあるんだった。まあ気にしないけど」
「強者の発言だなぁ……」
なんだか黄昏ている雰囲気の雫を放置して、サクサク進むラターグ。
(さてと、秀星がこのダンジョンでごそごそやってたんだよなぁ。敵側の幹部とかがいたらいいんだけどなぁ……)
テンプレは知っていても、基本は堕落であるラターグ。
技術はあるのだが、それは完全に目に見える範囲の話である。
目に見えない。イコール自分に関係がない。と考えがちなので、情報収集は雑なのだ。
(敵のボスは……まあいないだろうね。幹部がいることを期待しよう)
勝手に進路を変更されないために、雫よりも早く歩くラターグ。
ただし、そこに真剣さはなかった。




