第五百三十四話
「ただいまー……あいつどこ行った」
秀星が帰ってくると、ラターグがどこにいるのかわからなかった。
「ラターグ様なら、冷蔵庫の中で就寝しています」
「……」
セフィアに説明されたのだが、何故に?
「なんで冷蔵庫?」
「若干暑かったそうで、使われていなかったので冷蔵庫の中で涼んでいるそうです」
「……そもそも神って気温の変化とか関係あるっけ?」
「関係がある神も一応います」
「さいですか……ていうかそもそも冷蔵庫って使ってなかったっけ?」
「保存箱があれば冷蔵庫は不要ですからね。我々にはその子機が与えられていますから、冷蔵庫も冷凍庫も不要になります。というより……多種多様な神器を持っていると、家電は不要になっていきますので」
「それもそうだな」
というわけで、冷蔵庫を開けてみる。
そこでは、ちょっと無理な体勢でおさまっているラターグがいた。
「zzz……」
「こいつ、結構体が柔らかいんだな」
「ん……暖かい空気が……あ、秀星、お帰り」
「一応聞いておこうか。ここで何をしていたんだ?」
「寝ていました」
「なんでここで?」
「神様くらいになるとね。冷蔵庫でも普通に寝られるんだ」
「いや、全然体格があってないからヨガっぽくなってるぞ」
「大丈夫大丈夫。住めば都っていうでしょ?」
「まだ三日もたってないのによく言ったもんだ」
「大丈夫、自宅警備員としての役目を果たしながらだからね……ていうか、本当に君の家って襲撃されまくってるんだけど、君、どんだけ恨み買ってるの?」
「まあ、世界中から金をかき集めてるからな。一応寄付とかしてばらまいてるけど」
「え、その寄付って、現地まで行ってやってるの?」
「現地まで行ってるに決まってるだろ。団体に送ったら、その団体のポケットに入るだけだし」
「……君、ボランティアとか信じないタイプ?」
「ボランティアに限らず、『運営側』は結構疑うタイプだ。まあ、セフィアに調べさせたら裏金なんて全部わかるんだけど」
「なるほど、人の欲望というものを正しく見ているね。というか、後半部分は嫌がる人、けっこう多いだろうなぁ」
その時、秀星の肩をセフィアがちょんちょんと叩いた。
「なんだ?」
「そろそろ、冷蔵庫の中の粗大ゴミと会話するというシュールな状況をやめるべきだと思いますが」
「そうだな」
「君たち、無表情で神を粗大ゴミ扱いするのはやめてほしいんだけど……」
ラターグが何か言っているが、正直、シュールすぎるのは変わらないのでノーコメントである。
「とりあえず、お前は冷蔵庫から出ろ」
「イデデ、ちょっと、出るときにもいろいろコツがあるから無理矢理引っ張らないでください」
というわけで、スポン!と自分で出てきたラターグ。
それにしても……。
「冷蔵庫の中に入れるのに、体格は俺とほぼ変わらないってどういうことだ?」
「ヨガのほかにもいろいろやってたからさ。ていうか、自分の体の体積くらい、神ならいじれる」
「なるほど、覚えておこう」
というわけで、今度はソファにゴロっと寝転がるラターグ。
「なあ、何かして働こうとは思わないのか?」
「それは働かないことに対して罪悪感がある人じゃないと意味のない説教だよ」
「一体何でこうなったんだろうな」
「いやあの、僕が後天的にこんな感じになったような言い方だけど、僕は最初からこんな感じだからね?」
ゴミである。
「で、まだこれから何が起こるのか聞いてないんだけど」
「『全知神レルクス』から、まだその時期じゃないって言われてるんだよ。とりあえず僕がここに送られただけで、とりあえずそれを基準にして君にいろいろ準備させようとしているだけだし」
「……まあ、あんたには尋問も拷問も効かないからな」
「そうだね。というわけでお休み」
再びすやすやと寝始めるラターグ。
ちなみに、朝森家にあるすべてのものに対して、セフィアは完璧なセッティングを行うため、ソファもふかふかでとても寝心地がいいのだ。
そこはみとめよう。
ただ、それを使っているのがこの堕落神だと、秀星もどこか嫌なものを感じるのだ。
「いったい何が起こるんだか……ていうか、そろそろゆっくりしたいんだけどなぁ。父さんとかかわりすぎて体力結構使ってるんだけど……」
そんなことを言いながらも、とりあえず結界の再構築くらいはやっておこうと家の中をうろうろする秀星であった。




