第五百三十三話
憂鬱である。
「あーくそ。まさかこんなタイミングで神が出てくるとは思ってなかったなぁ」
秀星は髪をぐしゃぐしゃとかきむしった後、沖野宮高校の校門をくぐった。
正直、秀星としても予想の幅を超えていたのだ。
厳密にいうと『許容範囲』ではある。
だが、最高神の一人が持ってくる案件だ。確実に面倒に決まっている。
「ていうか、本当に何も考えてないんだな。まさか、『面倒なことになる』とか言っておきながら、何が起こるのかさっぱり言わないし……」
結局、ラターグは何が起こるのかを言わなかった。
「まあ、そのうちわかるか」
そういって教室に入った。
「あ、秀星君。おはよう!」
雫がこちらに気が付いたようで、手を振ってくる。
秀星も軽く手を振って応じた。
「おはよう雫。宿題ちゃんとやったか?」
「……フフフ」
「やってないんだな」
「そうだよ!」
「そんな大きな声で言うことじゃないだろ」
雫の『宿題やってない宣言』にあきれながらも、秀星は自分の席に座る。
「そういえば、椿ちゃんってあれからどうなったのかな」
「二十年後にわかることだ」
「まあ、それもそうだけどね」
雫は『ちょっとした時間』を待つのは苦手だが、長時間を待つことはできる。
だからこそ、秀星の言い分に対して反応が軽いのだろう。
「秀星。おはよう」
羽計が教室に入ってきた。
「ああ。おはよう」
「何の話をしていたんだ?」
「雫が宿題をやってないって話と、椿がこれからどうなったのかって話だ」
「なるほど、後半は今は分からないことだから置いておくとして……雫。どういうことだ?」
「ヒイイィィィ!」
羽計は『最低限のブランド』を気にするタイプなのか、『宿題という最低限のルールを守らないもの』に対しては容赦がない。
アイアンクローを受けて悶絶する雫。
(……俺の周りの女子、みんな握力が強すぎるんだけど)
雫と羽計の様子を見ていてそんなことを思った秀星。
確かに、いったい誰得だろうか。
「あ、秀星君。おはよう」
「ああ。おはよう」
風香が入ってきた。
秀星を目が合うと、少し頬が赤くなる。
それを見て、雫がキランと目を光らせる。
「グフフ。風香ちゃん。しっかり秀星君を意識するようになったねぇ」
「……」
「イダダダダギブギグギブギブ!」
アイアンクロー第二弾。
学習などしない。
それが剣の精鋭である。なぜこうなった。
「お……おおおおおお……」
解放されて再び悶絶する雫。
ちなみに、雫に対するアイアンクローというのは別に珍しい光景ではないのか、周りの生徒も『あーなんかやってるな』程度の認識である。
明らかに異常である。
「……あ、エイミー。ギリギリだね」
エイミーが入ってきたが、確かに時間はギリギリだった。
「夜更かししてしまいまして」
「そもそも帰ったの夜中の十一時だもんね」
遅い。
「そういえば、秀星君、ちょっとやつれてない?」
「……昨日、帰ってからちょっと面倒なことになっただけだ」
「え、秀星君の家ってセフィアさんいるよね。何かあったの?」
雫がそういったとき、窓からマスコット・セフィアがひょこっと顔を出した。
セフィア。という名前を聞いて、『呼んだ?』といった風に首をかしげながらの登場である。
ちなみに……『一番何もしてないやつがよく転ぶ』ことで有名である。
「あ、ごめんね。セフィアさんのことではあるけど、マスコットちゃんたちのことじゃないから」
雫が手を合わせながらそういうと、マスコット・セフィアたちは頷いて、そのまま窓から離れていった。
ちなみに、窓の近くにいた生徒が窓に近づいてマスコットたちを見ると、着地に失敗したのか、三体のマスコットが積み上げられており、『助けてくれえええ!』と手をジタバタと振っていた。
マスコットたちはしゃべらないのであくまでも雰囲気の話だが。
「それにしても、秀星君が面倒ってことは、なんかやばいことが起こるの?」
「俺がいるから問題はないさ」
さすがに『神が来た』といっても話が停滞するので、『問題のようなものはあるが、解決はできる』ことだけを先に伝えておくのだ。
……勘がいい人が多いので。
「それなら大丈夫だね!」
いろいろとかかわっているが、一度も結果的に敗北がない秀星。
すべてをどうにかしてきた功績は、無意識に働くのだ。
まあ、秀星も真面目に語っているわけではないので、どうでもいいことだと思われている可能性も否定はできないのだが。
(……まあでもあれだな。ラターグが隠そうとしている以上、俺がその問題にかかわるのはちょっとだけ先だろ。幅広く対策しておくだけはしておくか)
まだ、何が起こるのかわからない。
そのためにしておけることは、基盤の確保だけだ。
敵の戦力がわからない以上、勝利条件は分からない。
だが、敗北条件はいつも同じ。
それに備えるだけである。




