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第五百二十二話

 椿の刀が秀星に迫るが、秀星は何も慌てない。

 そもそもの実力が違いすぎるということもあるが、そもそも、憧れゆえだろうか、ほとんど見えているのだ。

 太刀筋から、次にどこに攻撃してくるのか、という部分まで。


「む、むううう!」


 次々と切りかかる椿。

 ただし、その刀の動きは、風香ととても良く似ている。

 刀の師匠は風香なのだろう。

 まあ最も、自分にけいこができるとは到底思えないのも事実だ。

 秀星の戦闘は、基本的に『裏でばれないようにどれだけ魔法を使えるか』といった部分がある。

 要するに、いちいち裏でごちゃごちゃと何を仕込むかということを考え続けているのだ。

 もちろん、セフィアに任せれば普通の刀の振り方くらいは教えてくれるだろうが、それなら風香に教えてもらった方が椿としては良いのだろう。多分。


「ハッハッハ!まだまだ甘いぞ。椿」

「むぐぐ。未来のお父さんと同じ事言いますね」

「そりゃそうだ。未来でも俺は俺だろうしな」

「そうですね」


 椿は刀を体の後ろに持って行って、引き絞るように構える。


「『神風刃(しんぷうじん)竜巻砲(たつまきほう)』!」


 風が刀をまとうように出現し、椿はそれを薙ぎ払った。

 だが、秀星は剣を真横に一閃。

 それだけで、竜巻は消滅する。


「……むう、何がどうなってるのか意味不明ですね!」


 いろいろなことを極めていると、ただ純粋に、ただ強いだけの攻撃はほぼすべてさばける。

 秀星は、その極めている部分があまりにも多いのだ。


「どんどんかかってきな、気が済むまで遊んでやるよ」

「む、むううううううう!」


 刀を構えなおして突撃する椿。

 風香が使う『旋風刃』の強化版らしい『神風刃』をふるうものの、そもそも技のクオリティに本人が追い付いていないため、未熟な部分は目立つ。

 モンスターしかほとんど相手にしていないのか、振り方もかなり素直なものだ。

 技術は確かに優れているが、相手の次の動きの予測をしようだとか、そういう『知性あるものを相手にした実践』というものになれていない。


(まだ早いって思ってるのか……まあいいか)


 無邪気に刀を振るう椿を相手にしながらいろいろ考える秀星。

 ただ……やっぱりわかるのだ。


(俺の背中を見て育つっていうのがいまいちわかりにくかったが、剣を交えてみればなんとなくわかるな)


 風香は常に刀を両手で持ち、秀星は常に剣を片手で持つ。というかもう片方の手はポケットに突っ込んでいるときさえある。

 椿は、両手持ち片手持ちも、どちらも習得しているのだ。

 その片手持ちでの振り方は、秀星をまねようとしているのか、とても分かりやすい。


(ちゃんと父親やってるんだな。俺)


 椿の相手をしながら、そのことがとても、心の中に残る秀星であった。


 ★


「秀星様。私としかヤッていない素人なのにいろいろ考えてますね」

「こういう場面でそういうこと言っちゃだめよ」


 秀星と椿が戦っているところが見える高所で、セフィアと沙羅は話していた。


「……まあそれもそうですが、ただ、椿様はかなり純粋に育ったと思います」

「フフフ。私から見てもあの子はかわいいわ。秀ちゃんの背中を見て、風香ちゃんの腕の中で育ったのがよくわかるわね」

「加えて、みんなから見守られて生きてきた。正直、あの年齢にしては世の中のことを知らなさすぎますが……まあ、そこは未来の秀星様が、思ったよりも過干渉な性格だったということでしょうね」

「フフフ、秀ちゃんはたまに独占欲が強くなる時があるから、多分、子供が産まれていろいろ思うところがあったんじゃないかしら。子供はかわいいからね」


 秀星と椿の戦いを見ている。

 いや、実際のところ、戦いになっていないだろう。

 椿は確かに本気なのだが、秀星は遊んでいるように見えるのだ。

 おそらく、未来でもこんな感じなのだろうと思われる。


「……見ていて思うのですが……」

「何かしら」

「秀星様は、無条件に、椿様を愛しているようには見えませんね」

「そうね。秀ちゃんはそういうタイプじゃないもの。椿ちゃんの中にある何かが、秀ちゃんにとってすごく大切なものなのかもね」

「……秀星様でも、そういう価値観ですか。こんなところで言うべきことではないかもしれませんが……」

「何かしら」

「……『親は子を無条件に愛する』などという無責任なこと、いったい誰が言い始めたのでしょうね」

「フフフ。それにこたえはないと思うわよ。だって、秀ちゃんは、無条件に椿ちゃんを愛してるもの」

「……そうですね」


 全く違う意見だ。

 だがそれでも、間違っていないのだ。

 無条件の愛は実在する。

 だが、無意識の中に、愛に対して価値を求める。

 人という生き物は、いつもそういうものだ。

 だからこそ……。


「みんなに愛される。ということがどれほどすごいことなのか、椿様を見ていると分かりますね」

「そうね。いきなり過去に飛んできても、みんな椿ちゃんに対して嫌な感情を向けることはなかったわ」

「まあ、あんなふうに簡単にあしらわれていますが……秀星様はわざと負けるということをするタイプではありませんからね」

「多分ああやって遊び続けるわね。フフフ。今は椿ちゃんを応援しましょうか」

「そうですね」


 たまに『やってらんねえ!』とばかりに奇声を発しながらも秀星に斬りかかる椿。

 そしてそれを簡単に捌く秀星。


 これは、もう少し続きますね。とセフィアは思うのだった。

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