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第五十二話

「おい!どういうことだ!マザーモンスターを秘密裏に倒し、誰にも気づかれずに素材をすべて持っていくような化け物など、聞いたことがないぞ!」


 秀星の予測である『マザーモンスターの誘導によるシナリオ』というのは、実際のところ、すべて正解である。

 マザーモンスターが出現した海域のすぐ近くに存在する島にいたのは、普段はアメリカで活動する魔法犯罪組織『レガリア』である。

 そもそも、日本の犯罪組織もマザーモンスターを誘導する技術を持っているのだが、そこは下手にぶっ飛んだ思考を行えない日本人。やるとなればストッパーの効かないアメリカ人を相手に、そのあたりの奇抜さは遠く及ばない。

 秀星が簡単に片づけてしまったのであまり難易度が高くないように思えるが、実際はすごくコストがかかっており、それによって発生するリターンも相当なものだった。

 ついでに言えば、今回の秀星たちのダンジョン探索中に素材の横流しをしようとしていた連中は、このレガリアとつながっている。

 コストをできる限り抑えて、最大のリターンを得る。

 実力主義のアメリカらしいものであり、細部を検討する必要はあるだろうが、コンセプトとしては間違っていなかった。

 実際、秀星がいなければ話はかなり変わっていただろう。

 いろいろな意味で相手が悪かった。


「情報部には十分検討するように、と報告されていましたが……」


 島に存在するとある建物。

 プレジデントデスクがある部屋には、五人の男がいる。

 話しているのは三人で、二人は壁でじっとしていた。


「私は聞いていない!あんな化け物がいるとなれば、こんな国を選ぶことはなかった。しっかりと報告しなかった貴様らの責任だぞ!」


 デスクに座っている中年男性が若い二人に怒鳴り散らしているが、実際のところ、彼は本国ではあまり役に立てなかったことで日本支部に左遷されてきただけなのだ。

 若い男二人はそれなりに優秀なのだが、権限が少ない。

 簡単に言うのもどうかと思われるかもしれないが、簡単にまとめてしまうと『不憫』の二文字に尽きる。


 そして、そんな怒鳴り声が響くなか、部屋の隅にいる二人の男。

 片方はめんどくさがり屋の雰囲気を持ち、片方は陽気な雰囲気を持っている。

 それぞれ、武器は銃と斧。


(あきら)。お前はどう思う?」

「どう思うって……そもそも昇平(しょうへい)。お前何も考えてないだろ」

「脳みそ使うのはお前の役目だろ」

「そうだな。俺らが出会う前から決まっていたことだ」


 晶は溜息を吐きながら言った。


「ま、相手を間違えたんだろうな……俺らの(うえ)も、まだ静観しているみたいだし」

「ちょっかいを出すときじゃなかったってことか?」

「そもそも出すべきじゃないだろ」


 強いものというのは、常に対策するものだ。

 わざわざ敵に隙を見せるということは、自分に絶対の自信がある、ただの間抜け、その自分が見せた隙をうまく活かしてくるかのテストをしている。という感じに分かれる。

 ただ、本来ならわかれるはずなのだが、秀星の場合、『全部』という可能性もあるのだが。それは今は置いておこう。


「そろそろこの組織ともおさらばしたほうがいいか?」

「僕ぶっちゃけかえりたいし……」

「これからどうするか話すか?」

「僕はそれでいい」


 ……が、それはかなわなかった。

 それを上回るほどのことがあったからである。

 なんと、ドアが吹き飛んだ。


「別に若い連中のせいにすることが悪いことだとは言わないが、部下のミスは基本的に上司の責任だぞ。任命するっていうのはそういうことだからな」


 ドアを破壊したのは朝森秀星。

 手には長剣を持って、黒い外套を着て歩いてくる。


「な、なんだ貴様は!」

「別に顔を隠しているわけでもないのにわからないってことは、本当に知らないんだな……さっきから話題になってる連中の話だよ」


 あくまでも、秀星たちは秘密裏にマザーモンスターを倒しており、レガリアは討伐されたことしか認識しておらず、秀星一人でやったことは当然ながらわかっていない。

 そのため、こういう言い方になっているわけだが、別に差異があるわけではない。

 秀星の予測では、アトムも同じことが可能。

 秀星もアトムも、この地球で必要な難易度を超えた存在。

 二人が敵対してガチバトルをするというのならともかく、二人が協力関係にある以上、秀星がやったほうが楽だったからやっただけなのだ。


「朝森秀星か……」


 晶と昇平も、それぞれ武器を構える。

 秀星は二人のほうを向いて、戦力的に興味がなかったのか視線を外した。

 しかし、何かを思い出したのか、もう一度見る。


「……小野晶(おのあきら)黛昇平(まゆずみしょうへい)か?」

「へぇ、もうそこまでわかってんのか」

「昇平。もともと俺たちは評議会のプラチナエリアだ。知っていても別に不思議じゃない」


 だが、と晶はつぶやく。


「僕たちを知っているのは、戦力的な話ではないようだな……」

「……」


 秀星は何も言わないが、沈黙は肯定である。


「い、いったいここに何をしに来た。ここは重要な施設だ。それも、ここは社長室だぞ。ドアを爆破して入ってくるなど、言語道断だ!」

「……で?」

「今すぐ土下座し、許しを請うというのなら――」


 それ以上、彼はしゃべることはなかった。

 当然といえば当然。

 すでに、彼の首はつながっていない。


「「なっ――」」


 晶と昇平は驚く。

 若い二人の男性はすでに気絶した。ズボンの股間がぬれているが気にしないであげよう。


「一応言っておく。お前たちも、評議会を裏切って、FTRに入ったことはわかってるぞ」

「そっちまでばれてるのか……」

「レガリアにはスパイとして潜入していたのか?まあそれはいいさ。お前には会わせたい奴がいるからな」

「会わせたい奴?」

「次起きた時にわかる」


 そういうと、秀星は剣を振った。

 次の瞬間、二人は意識が吹き飛んだ。

 最初から最後まで、秀星はあわてることもなければ、緊張することもなく、人を一人殺しているにもかかわらず、頬を動かすことすらなかった。

 晶はそんな秀星を見て、感じ取る。

 この少年が殺してきた。人の数を。

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