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第五十一話

「さてと、ここは何を目的とした施設なんだか……」


 海底に存在する施設に立った秀星。

 出入り口がそれなりに多くあったので、その中の一つを使って入った。

 警報機が鳴らなかったので、侵入者と言う考え方をしていない連中らしい。

 別にそれはいいのだが、秀星としては失望である。


「人の気配が全くないな。すべて自動化した施設ということになるか」


 別にそう言うものも悪くはないだろう。

 たまにメンテナンスに訪れるだけという可能性も十分にある。


「ん?」


 秀星は、とある部屋にあったアンテナのようなものを見つけた。

 形状としてはパラポナアンテナだが、本来ならば高い場所。それも外にあるようなもので、こんな部屋の中にあるようなものではない。

 少し調べてみると、アンテナの機能はすぐに分かった。


「……マザーモンスターの誘導装置か」


 秀星は一瞬でそれを判断した。

 マザーモンスターはキャパシティが繁殖力全振りのため、実は状態異常にも弱いし、物理的な戦いをするわけにはいかない。

 まず、偵察部隊をばらまいて、安定して安全を確保できる場所を発見して確保。

 その後、大繁殖を行ってバリケードを作る。

 誘導することが可能なら、マザーモンスターを任意の位置に呼びだすことが出来る。動きが遅いので時間が必要だが。


「マザーモンスターが好む結界でも出していたのか?」

「厳密には、魔法による結界のようなものでしょう。周波数のようなものである必要もありませんから」

「……それもそうだな」


 急に後ろにいたセフィアが補足してくるが、秀星は何も言わなかった。


「誘導されていた。と言うことを考えると、アメリカの魔戦士たちが何かをたくらんでいた。もしくは、犯罪組織と裏のつながりがあると考えるべきか」

「基本的に誘導装置は、抑止力として使われるものですが、逆にこのアンテナは弱いモンスターしか呼べないので、シナリオの構築にはもってこいなのでしょう」

「……だろうなぁ」


 いろいろ……と言っても二つだけだが、向こうはシナリオを考えていた。

 ただし、これは強いマザーモンスターであれば、本来ならばなりふりかまっていられるはずがない。

 だが、アメリカの魔戦士たちは、今回のようなシナリオを考えるだけの余裕があった。

 余裕があるだけならいいが、それらが決まるのが早すぎる。

 マザーモンスターの出現と言うのは、実は初期段階では分かりにくいものだ。

 誰かが何か企んでいることはある程度予測していたし、アトムもそのあたりは考えている可能性は十分にある。


「アメリカにも、そう言った組織はいるってことか」

「さらに言えば、このあたりの島は日本の本州からも離れています。監視が全くないとは言いませんが、それでも、他に比べて隠しやすいのは事実でしょう」


 施設まで作っているとなると、かなり早い段階からこれらのことを考えていたことになる。

 秘密の施設を作り、それらを管理するのは並のコストでは不可能なのだ。

 初期投資も維持コストも、双方がそれなりにかかるのである。


「悔しいだろうなぁ……さんざん準備してきたのに」

「そうですね」


 今の秀星からすればガラクタに等しい。

 だが、地球の方の技術を考えると、かなり質の高い技術が使われているのだろう。

 下手に強いものを読んではならないという事情を考えるとなおさらだ。


「今回の様な作戦の失敗って、裏とつながっていない表の方でもいろいろ言われるだろ」

「アメリカの魔戦士たちはマザーモンスターを倒すために魔装具を揃えたり、必要な物資を揃えていますが、それらに必要な資金が丸ごと意味が無くなったと言えます。当然でしょう」


 種族的に余裕があるとはいえ、マザーモンスターが相手ならば、魔戦士たちだって本気でやる必要がある。

 そうなると、様々な物資を調達し、必要な装備を揃えるものだ。

 貴重な素材を使わなければメンテナンスすらできないようなじゃじゃ馬だっているだろう。

 資金を大量に使って、本来なら他の手配に回っているはずの人間を動かし、装備を整える。


 マザーモンスターの討伐による素材の確保と、シナリオがうまくいけば、秀星たちがダンジョンで手に入れた素材を低コストで搾れるのだ。

 それらによって発生する利権を話しあって、あくどいことを考える商人たちに割引させていた可能性もある。

 だが、秀星のせいですべてがチャラになった。

 そりゃ怒るだろう。

 武器を素材にしなければ赤字なのだ。

 確かに、武器も大切と言えば大切だが、マザーモンスターを倒せない以上、本来想定していた利益にならないのだ。

 マザーモンスターそのものは出現頻度も当然少ない。

 圧倒的な生成量で大量のモンスターも出て来る。

 状況によってはすごく稼げるのだ。


「まあ、悪いことを考えていたのは向こうなんだし、失敗して周りから非難されようと知ったことではないけどな……ん?」


 視界の端にファイルを発見。

 表紙を見ると『呪術道具のデメリット蓄積過程における研究資料』と書かれている。

 秀星の表情が一瞬だけ曇った。

 すぐに戻ったのだが、それをセフィアは見逃さない。

 いや、秀星の状態に対して、そもそも見逃すということはほぼありえないのだが、それはいいとしよう。


「……」

「どうするのですか?」

「いや、なんでもない」


 秀星は手袋をとりだしてつけると、ファイルを一気読みした。

 そして胸糞悪くなった。

 いちいち細かく書いているので、どういう状況だったのかが推測できる。


「……雫に関する研究だったな。他にも被験者はいたようだが、ショック死してるようだが……全部、アメリカの犯罪組織が考えていたものだったのか……」

「とらわれていたのは評議会の地下ですが……」

「セフィアもわかってるだろ。評議会そのものが、色々な犯罪組織とかかわっていた可能性がある。そもそも、襲撃されてから力を落とすまでのテンポが早すぎたしな」


 あらかじめ計画されていた可能性もある。

 そして、雫に関してはもう用済みと考えたのだろうか。

 それとも、道也はそれらの犯罪組織が動く前に雫にあったのだろうか。

 おそらく後者だろう。

 何が目的なのかも、ファイルを見た感じでいろいろと推測できる。


「お灸をすえる必要がありそうだな」


 そう言う秀星の顔に、表情はなかった。

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