第五百一話
「多すぎるんじゃああああああ!」
基樹は吠えた。
そしてそれと同時に、魔力の塊でできた巨大弾丸を出す。
弾丸は、全長十メートルはある巨大モグラの心臓に風穴を開けた。
秀星の魔力量は明らかに異常だが、それは神器に寄るもので、基樹の場合は素である。
「あの壺、一度魔力が供給されたら後はモンスターが出続けるのかよ。魔力が送られている間だけ反応するのかと思ってたぜ」
基樹からすればそこまで強いというわけではない。
しかし、それが地中から地上に出て自由に行動し始めるとなれば、基樹は顔をしかめるだろう。
そう言う大きさをしている。
大きく手数が多いというのは面倒なのだ。
「あとは……モグラはいいにしても、あの壺、頑丈すぎるんだよなぁ」
そもそもの問題として、壺が頑丈すぎた。
一体何の素材でできているのか見当もつかない。
「はぁ、めちゃくちゃ面倒だなぁ……」
そうしてつぶやいている間にも、モグラたちはワラワラと壺から出てくる。
そして、巨体に似合わぬ速度でシャカシャカ動いて、十数秒前と同じくらいになった。
「……あの壺ウゼェ。どっかに蓋とかないのかね?岩盤でも置いとくか?」
指をパチンと鳴らしながら魔力弾丸の雨を振らせて、モグラたちを殲滅するついでにそんなことをいう基樹。
実際悪くないのではないかと考えた。
が……。
「いや、そもそもいま俺がいる場所が『岩盤の中』だし、普通にコイツラ掘ってるわ。鉄の蓋とかにしよっと」
というわけで。
基樹は魔法で、壺の穴をすべて覆い尽くせる大きさの鉄の板を作った。
普通の鉄ではない。
というか、鍛えられた鋼であり、さらに魔法で強化している。
「よっこいしょ!」
正直、高志や来夏がビルシャカシャカをやっていたことに対して文句は言えない大きさと重さをしているのだが、まあそんなことは関係ない。
壺を覆うように、板を叩きつけた。
外に出てきたモグラをすべて片付けてからやったので、ちょっと周辺が静かになる。
「さて、どうなることやら……?」
基樹がなにかに反応して首を傾げた瞬間だった。
極太のレーザーみたいなものが出てきて、鋼の板を貫通したのである。
「えぇ……俺、物理耐性以外にもいろいろ付与してたはずなんだけどなぁ……」
気分が乗らない基樹。
そもそも、圧倒的な武力で雑魚共をなぎ倒す無双ゲームは好みではない。
基樹は魔王だ。
前線にはほとんど出ることはなく、RPGのように、主人公とその仲間、みたいなやつを待ち構えるタイプの『魔王プレイ』が本業である。
言い換えれば、『逃げも隠れもせず、城の最上階で少数精鋭のチームを待ち受ける。ラスボスらしい演出が好き』ということだ。
エフェクトは無駄にあったほうがいいので、幻惑系統の魔法も多種多様に取得しており、魔力の制御も完璧で、狭い空間に人が密集していても個人を狙うことも十分に可能だ。
素質がアレなので無双ゲームみたいなこともできるというだけで、基本的には魔王プレイが好きなのである。
とはいえ、最近は自分よりも強いやつがポンポン出てくるので若干萎え気味だが。
「あーあー……レーザーで開けた穴からまたワラワラ出てきやがる」
ちなみに板の厚さは百メートルだ。
壺の直径がバカでかいのでそこまで大きく見えないかもしれないが、本当に大きいのである。
「……そういえば、モグラしか出てきてこねえな。海に沈めたらいいのかね?」
基樹がそうつぶやくと、モグラたちは『え?』という表情を基樹に向けた。
モグラたちと基樹の視線があう。
基樹はニヤリと笑った。
「よっしゃああああああああ!覚悟しろやゴルアアアアアアアアア!」
解決方法を見つけて歓喜の咆哮を出す基樹。
で。
「おい基樹!なんでモグラの壺をこっちに持ってきたんだ!」
クジラたちを相手にしている秀星が叫んだ。
「え、だってモグラしか出て来ねえんだったら、海に沈めればいいだろ?」
「おお、出てくるモンスターが生きていけない環境にツボそのものを放り込むんだな。いい案じゃねえか」
高志は納得。
「基樹おじさんは賢いんですね!」
「まあ、環境に適さない場所に持っていくっていう案はいいと思うけど……」
椿は感激するが、風香は微妙な表情。
なお、沙羅はあらあらうふふと微笑むのみ。
「……なあ、モグラってたしかに泳げた気がするんだが……」
来夏がそういった。
空気が凍った。
基樹はモグラを見る。
元気そうにバシャバシャと泳いでいた。
「うわあああああああ!やべえええええええ!」
「何してんだ馬鹿野郎!」
クジラとモグラの共演。
混沌というより……なかなか残酷である。




