第五十話
マザーモンスターの特徴は、その理不尽なレベルの『モンスター生成力』である。
ただ、持ちうるほぼ全てのキャパシティを生成力につぎ込んでいるせいか、そこまで強いというわけではない。
マザーモンスターの討伐難易度と言うのは、本体の強さではなく、マザーモンスターが生み出せる衛兵の強さだ。
段階に分けられており、しっかりと統率の取れた部隊となっている。
無論、ほぼ全てのモンスターは生まれたばかりであり、知恵はなく知識のみで動いているのだが、それでも『歴戦』と言うものを感じさせるのだから、種族として才能がある。とも言えるだろう。
マザーモンスターの多くは、数々の衛兵と労働力を生み出し、『巣』を作り、万全の態勢を整えて『籠城戦』の状況にしてくるのだ。
「……思ったより大きいんだな」
秀星の索敵範囲内には、既に一万を超えるモンスターが存在する。
しっかりと巣を作り、バリケードを張って、ありあまる数を使って常に万全を期しているのだ。
「ま、無線機からきた命令では、待つ必要はなく、さっさと片づけるように、と言われているからな。すまないが、さっさと終わらせてしまおう」
『籠城戦』で、しっかりしたバリケードに勝つ場合、三倍の戦力が必要とされている。
一万を超えるモンスターがいるというのなら、三万人が必要と言うことだ。
ただし、これは他の言い方もできる。
「さて、行きますか」
簡単な話だ。
敵より三万倍強ければ、一人でも勝てるのである。
「水中でも、地上でも、俺の戦闘力は変わらんぞ」
ちなみに現在、最初から水中にいる。
海のそこの方にいろいろと作っているようなので、それらの対処をするには当然水中に潜る必要がある。
空気の膜を作って飛行魔法を使えば、別に普段と変わらずに行動できるのだ。
深く潜りすぎると空気の膜の魔法が自分の動きにおいつかない。というパターンもあり得るのだが、秀星の場合はそんなことはない。
「『ブリザード・マインド』」
タブレットが光り輝き、魔方陣が出現する。
そして、その魔方陣そのものが一瞬だけ光った。
すると、周りにいたモンスターたちが、突如、意識を失ったかのように沈んで行く。
凍ったのだ。
ただし、凍ったのは体ではなく、精神である。
「さっすがに精神干渉を防ぐ手段は持っていないか。まあ、最初からそうだと思っていたから使ったんだけどな……そろそろ突撃しますかね」
プレシャスを構えなおす。
次の瞬間、『巣』に対して、零距離まで接近する。
プレシャスを振りおろした。
「『ジェネシス・インパクト』」
プレシャスが光り輝く。
振り下ろされた剣は、様々なバリケードを全て、切り壊した。
プレシャスは剣であり、確かに『切断』だが、その本質は『破壊』である。
一度斬れば、何度でも斬ったことにできる。
手数と言う点においてプレシャスにかなうものはないし、あったとしても、威力まで自由自在になるプレシャスに対して、総合的な部分でかなうはずもない。
「ん?驚いてくれているみたいだな」
奥の方から水晶のようなものを纏ったドラゴンが何頭も出て来る。
マザーモンスターが生み出すモンスターは、『襲撃』と『防衛』の二種類の役割を必ずどちらか持っている。
その両方を持つモンスターもいるのだが、このモンスターもそうなのだろう。
「あまり、何かを考えているようには見えないな。まあ、知恵がないだろうし、『守る』と言う本能が働くだけで、『恐怖』がないのか?」
感情のないモンスターは存在しないが、感情が一部抜けているモンスターは存在する。
機械的にすべてをこなすだけでは、臨機応変に対応できないからだ。
知恵がなく知識だけだが、マザーモンスターと言うのはいろいろとコントロールできる。
生み出した護衛たちが恐怖で動けなかったら、自分が逃げることすらできない。
そうしてコントロールされたモンスターだけが生まれるのだが、これは『襲撃』に位置するモンスターも同じであり、縄張りだとか食物連鎖だとか、それらを一応意識するモンスターたちの事情など一切考慮されないのだ。
「まあ……関係ないけどな」
秀星はその場で何もない場所に剣を振りおろす。
無論、見た感じでは何も起こっていない。
だが……既に、『斬ったことになっていた』
「「「ギ、ギャアアアアアアア!」」」
全てのドラゴンが悲鳴を上げる。
突如、自分の体が真っ二つにされたかのような衝撃が発生したからだ。
「お、意外と頑丈だな。まあ、威力の増幅度は十倍未満だし、そんなものか。じゃあ、そろそろいなくなってもらおうか」
次の瞬間、彼らはあまりの斬撃の威力に原子分解した。
塵すら残らない。とは言ったものである。
「なんていうか……いろいろ面倒になってきたな」
その時、通信機が鳴った。
「ん?どうしたアトム」
『どうやら、アメリカの魔戦士たちが準備を終えたようだ。そろそろそっちも片づけておいてほしい』
「お、やっと来たのか。分かった。もうすぐ終わる」
『頼むよ。どんな顔をするのか楽しみで仕方がないからね』
いろいろな意味で、秀星は黒い笑みを浮かべる。
「さて……もう終わらせるか。マシニクル」
黄金の機械拳銃をとりだして、一回だけ引き金を引いた。
弾丸が銃口から出て、そして分裂を繰り返す。
威力と大きさを保ったまま、一秒間の間に何度も何度も。
増え続ける。
「あばよ」
弾丸は、ついに、『波』となった。
マザーモンスターも、その護衛たちも関係ない。
あまりにも暴力的で、圧倒的な力が降り注ぐ。
一発の威力も、魔戦士が持っている銃と比べても比較できないほどの威力だ。
普通に考えて、そのような弾丸の『波』が来たら、防ぐ手段はない。
「まあ……バリケードと認識される物体に対してはすごく弱いんだけどな。コイツ」
威力が高いが、弾丸のキャパシティが増殖能力に特化しているので、やや貫通力が落ちる。
それでも、関係ないほどの威力はあるのだが、一万と言える数のモンスターが作ったバリケードなので、そんじょそこらでは無理だ。
「とはいっても、マシニクルの別の弾丸を使えば、バリケードをまず壊すこともできるんだがな」
弾丸の波に飲まれて沈んで行くモンスターたちを見ながら、秀星はそうつぶやいた。
沈んで行くモンスターたちは、そこまで傷ついているようには見えない。
文字通り、ほとんど傷がないのだ。
この弾丸。威力は高いのだが、ゲーム的な表現をすると『HPを削るだけ』である。
「さて……」
引き金をもう一度引くと、魔方陣が出現して、一片三メートルほどの立方体が出現する。
そして、一つの面が開くと、すごい大きさの『網』が出現した。
「全部取って来い」
その命令を受けた網は、勢いよく進んで行く。
「さてと、これで処理は全部終わった。セフィア。ちゃんとシャッターチャンスを逃していないといいんだが……」
アホ面なのだ。
一度見るだけではつまらない。
どうせなら写真に保存して、見たいと思った時に見れるようにしてやる。
まあセフィアのことなので、撮るように言わなくても、一応写真には残している可能性はあるのだが、それはそれとして、秀星はしばらくの間、網がモンスターたちを捕らえるのを待っていた。
「本来なら、俺も地上に上がってアイツらのアホ面を笑いたいんだが……」
秀星は、海のそこの方にある『施設』を見る。
「……どうやら、まだすることがあるみたいだな」
どうやら、今回のこれは『偶然』というわけではないようである。