第四百九十一話
ユニハーズたちが活動するこの島だが、実は、新しい参加者が来ることはほぼない。
最も、一応楽観視出来る程度の話であり、高志がそれを気にしている様子はないものの、一部のものに取っては、『新しく剣の精鋭が来た』というだけで、ピリピリしている者もいる。
ただ、剣の精鋭はほとんど……というより、来夏以外はすべて学生である。
そのため、探索に来るとしても、大きく時間を使えるのは休日だということは分かる。
ただし、沙羅がいるということは、転移や転送に寄って、本州と島の往復に時間がかからないので(ぶっちゃけここが一番チート)、学校の終わりに来る可能性も十分にある。
言いかえれば、『ほとんどのメンバーが学生でありながらも、十分に競争相手になる可能性があり、なおかつ島で最高峰の組織力を持つユニハーズと通じている』という、どう考えても無視することができないレベルになっている。
「さて、剣の精鋭について、諸君はどう思う?」
定期市では多額の取引が行われている中、そこから離れた場所では、高齢の男性たちが集まって極秘の会議を行っていた。
「ふむ、まだ調査がそこまで進んでいないゆえに断定できないことはいろいろあるが、基本的に、朝森秀星がネックだな」
「基樹に関してはもとから注視していたが、あまり問題ではなかったからな」
秀星と基樹を比べるならば、基樹はたいしたことはないという男性たち。
「……私は基樹の驚異レベルの判定に関する会議が不参加だったのだが、どのような結論だったかな?」
「確かに圧倒的な出力と、それを完全に制御出来る才能に加えて、戦闘、政治経済を広範囲で観察し、判断する能力、そして、十七歳という年齢からは考えられない経験など、不可思議かつ高い資質を持っている。と言う点だ」
「そこだけを聞けば、とても楽観視出来る相手ではないがね」
「だが、彼が立っている立場がそれにそぐわない。あまりこういう極端な例を出すのは好みでははないが……『大国への侵略と、その侵略先での政治を受け持つ指揮官』というのがしっくりくる」
「ふむ……『戦争特化型』というわけか」
「その認識でかまわない」
おそらく、最高の平均レベルを持つもの達であろう島での会議での判定がこれである。
間違ってはいない。むしろ正解だろう。
そもそも基樹は異世界では元魔王であり、しかも、最初は魔王ではなく、反抗勢力の中でも大きな組織を侵略し、その場所を統治する指揮官だった。
そう考えれば、この会議での結論は、基樹の特徴を正確に把握しているといえる。
「そして、今回は朝森秀星か」
「うむ、手元の資料、その中の写真などをはじめとした画像データを見ただけでも、その異常性は分かる」
暗部が用意した資料をみるだけで、それはよくわかる。
「……こちらも、盗撮に関してもトップクラス、しかも、神器のカメラすらも抱えていたはずだ。そんな中で、全ての写真に写る朝森秀星がカメラ目線だからな」
全ての写真において、秀星はカメラの方を向いている。
誰かと話していて、こちらを向いていないタイミングでシャッターを切っても、写真に写る秀星はカメラ目線だ。
しかも、その話している相手に驚いた様子がない以上、幻惑か、何かしらの魔法を使ったと思われるが、一体どういう現象が発生したのかが不明。
ただ分かっているのは、監視しているのがばれているということだ。
「しかも、暗部の中でもっとも影が薄い人間を投入しても、無線機に朝森秀星の方から連絡を入れてきた。との話だ。それに加えて、忠誠心を利用して、逆にこちらの情報を抜かれかけたことすらあるらしい」
忠誠心がある。と言うことを言いかえるなら、『主人にとってメリットのある行動を取る』と言う部分が脳の中を占めている。ということだ。
暗部の人間の視野は関係ない。
そのような極端な価値観を持っているのならば、利用する方法はいくらでもある。
デメリットのない教育など存在せず、そして、教育された者はそのデメリットに陥るのだ。
「……こいつ、本州では世界樹から取れる商品を扱っているという話だったな」
「最高ランクは全て取り扱っています」
「となれば、財力は本物か。それに加えて戦闘も世界最強。そして、戦闘が強いというだけではクリアできないはずの暗部への対応も抜群……正直、隙がなさ過ぎて気味が悪いな」
「人体実験を行っている組織に対する躊躇がないことを除けば、ほとんど『受け』の姿勢をとることだけが救いでしょう。『剣の精鋭』に所属しているので、活動範囲がやや広いですが」
「広いのはいいが、ここまで来てほしくはなかったな」
「そうですね」
厄介である。
本当に厄介である。
「朝森秀星の扱いに関してはどうします?」
「基本的には放置で良いだろう。正直……この資料を見て、露骨に仲間にしようと朝森秀星に突っ込んで行くようなバカがいたら逆に見てみたいくらいだ」
「では、基本的には放置で、関わる場合は日常レベルにとどめる。と言うことでよろしいですね?」
「そうだな。正直、このレベルの相手だ。ついていくのはコストも精神も盛大に削られるぞ。将来的にハゲたくはあるまい」
秀星の扱いはそう言う感じである。
上には上がいる。
ならば、上の上にも上はいる。
自分たちが『上の上』であったとしても、それ以上に強いやつなどいくらでもいる。
朝森秀星と言う男を、自分たちよりも上に据えた。
判断力のある老人は、ここが違うのである。




