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第四十九話

「船から三百キロ前方の島の周辺に、巨大なモンスターの存在を確認した。調査した結果。『マザーモンスター』だと判断している。生態系を崩すほど大量のモンスターを生み出し続けるため、発見した場合、優先討伐対象となる。だが、評議会が機能していない以上、この船にいる戦力が実質的な最高戦力なのだ。今回は、少数精鋭を掲げるチームを呼ばせてもらった」


 アメイジング・リアリゼーション船長、舵牙零士(かじきばれいじ)

 四十代後半。と言った感じの黒髪の男性で、経験を思わせる威厳と風格がある。

 秀星とアトムが呼ばれた会議室には、三つのチーム。『剣の精鋭』『獣王の洞穴』『ドリーミィ・フロント』のリーダー+秀星が呼ばれた。

 少数精鋭を掲げるチームは他にもないわけではないが、それらはいずれもプラチナランクに匹敵しない。

 必然的に、呼ばれるのは彼らなのだ。


「話を聞いたところ、この船で一番強いのは君だ。朝森秀星君」

「……まあ、そうでしょうね」


 最高戦力が搭乗している船で一番強いことが既に確信になっている。と言うのもなかなか面倒な話だが、それそのものが悪いというわけではない。


「君ならば、そのマザーモンスターをどれくらいの時間で倒せるかな?」

「……そもそも、求められている時間制限ってありますか?」

「既に、魔法社会における貨物船がいくつが襲撃を受けている。これが続けば、評議会が今まで通りに行かず、他国に遅れをとっている日本はさらに遅れることになる。それだけは避けたい。時間的な制限としては……そうだな。一日以内には倒してもらいたい」

「……そうですか」

「可能かな?」

「三十分も要らないです」


 船長は変な意味で頭を抱えた。

 来夏と剛毅は大笑いして、アトムは苦笑する。

 剛毅は秀星の肩をポンッと叩いた。


「秀星。マザーモンスターはな。本来ならマスターランクチームが総出でかかる相手なんだぜ」

「じゃあなんで少数精鋭チーム呼んだの?」

「今回の討伐は秘密裏に行う必要があるってオレは聞いた」

「何故?」

「秀星君。今回出現したマザーモンスターの出現位置が悪いんだよ。魔法社会における国際関係を踏まえるとね」

「……」


 秀星は頭の中で地図を引っ張りだした。

 

「……いや、普通に日本の経済水域の中なんだけど」


 秀星の判断では日本の排他的経済水域の範囲内であり、別に問題があるようには見えない。


「今回出現したマザーモンスターが存在する場所だが、所有はアメリカなのだ」

「あ。もうアメリカの所有なのか。だが、すでに被害が出ているんだよな。それに、討伐が優先されるのは決まっているんだろ?」

「決まっているけど、意識的なものを踏まえると、重要度は法令の中でも小さなものだね」

「……法律で決まっているけど大して重要とされていない……黄色信号を渡るのと同じか」

「感覚的にはそれでいいとオレも思うぜ」


 来夏も呆れた顔をしている。

 剣の精鋭は少数精鋭で、動かすのに金がそこまでかからない。

 呼ばれた先でいろいろあったということなのだろう。


「で、重要だって決まってないってことは、そこからの裁量が現地の判断で決まるってことだ。確かにマザーモンスターは脅威だが、倒せないわけではない。アメリカだし、そういう人材もそろってるだろ」

「ただし、日本の魔戦士である我々(・・)が乗りこむのは非常にまずいのだ。ただでさえ、評議会の規模縮小により下手に見られている。為替レートを確認すればわかることだが、少し影響も出ているのだ」


 国際的な事情。

 難しい話をうまくまとめて簡潔に言えば、子供の正義感だけですべてがうまく収まるわけではないということだ。

 『考慮する必要はあるが抜け道がいくらでもある』という法律はいくらでもある。


 あと、この船長。『我々』と言っているが、要するに、この人も魔戦士なのだろう。

 体の重心から察するに銃撃戦が得意そうだ。


「……命令する立場の人間が、現場のことを知らないなんていうのはよくある話か」

「言いかえればそう言うものだ。そして、君が言うように珍しいわけではない」

「私もそういう場面には遭遇したね。ただそういうときは、向こうの無茶ぶりを実際に行うという意趣返しがとても楽しいんだよ。無茶ぶりと言う名の言質をとっている訳だから、達成しても向こうは何も言えないからね」


 アトムって意外と性格悪い。

 そして、この段階でそう言うということは……。


「現段階ですでに、その島と通信があったってことですか?」

「よく気が付いたね」


 船長は溜息を吐いた。

 剛毅は思いだすように言う。


「いろいろと言っていたみたいだが、簡単にまとめると『最初に言っておくけど、邪魔はしないでね。勝手に入ってきてもいいけど、そっちの責任はそっちで持ってもらうよ』みたいな感じだな」

「ほうほう……」


 秀星は黒い笑みを浮かべる。

 アトムも、これから楽しいことが起こるだろうという表情をしていた。


「アトム。『俺達が割って入って失敗した時のシナリオ』と、『俺達が割って入らなかった時のシナリオ』の説明をよろしく」

「いいよ。一つ目だが、勝手に割って入って失敗した場合、彼らが言った『邪魔をするな』と言う言い分に引っかかる。だが、こちらだってある程度戦力を削っているであろうことは向こうもわかっているから、ある意味、『漁夫の利』でマザーモンスターを討伐したうえで、邪魔をして発生した分の損害賠償を請求してくるだろうね」

「ふむふむ」

「二つ目だが、邪魔をするな。とは言ったが、なぜ戦力があるのに助けに来なかったのか、と文句を言ってくるわけだ。彼らにもメンツはあるから自分たちで倒すだろうけど、当然被害は出るだろう。その分の請求をしてくるだろうね。しかも、本来ならぼったくりと言えるほどの金額だろう」

「なるほど」


 いずれにせよぼってくるわけか。


「かなりぼって来るんだよな」

「そりゃそうだろうぜ。この船には、それらを可能にするだけの『素材』で溢れている訳だからな」


 剛毅も、とても楽しそうに笑う。


「要するに、口ではオレたちに邪魔をするな。法律違反だとか言ってくるが、実際のところは、状況を利用して素材を確保しようって考えている訳だ。マザーモンスターにも色々種類はいるが、今回は弱い分類だからな。生態系への影響力はあるが、討伐の危険度は低い」


 来夏も混ざって来る。


「向こうにとって最大の想定外は?あ。俺、マザーモンスターくらいなら倒した後で隠蔽魔法で全部隠せるよ」

「被害は出ているが、まだ大きな声で叫べるほど大きいものではない。密輸船に影響が出ているだけで、まだ島に影響はないからね。その密輸船のほとんども日本のもので彼らのものじゃない」

「今、マザーモンスターが討伐された場合、アイツらは、俺達の素材を獲得する口実を失う」

「まず最初、オレたちはこの案件に対して、表向きはスルーで行く。向こうは、さっきのシナリオの二番目の準備をし始める。当然、素材が手に入るとワクワクし始めるだろう」


 次々と伸びる話。


「スルーを決め込んだ俺達。よって、自分で動かなければならなくなったアメリカの魔戦士たち。彼らは人材を集め、物資を整え、メンテナンスもしっかりと行い、そして戦場に向かうだろう」


 話の導入のためにあえて長くいう秀星。


「マザーモンスターを相手にする場合、被害はゼロにはならないだろうね」

「だが、大量のマザーモンスターの素材を集めることで、自分たちの株を上げようとまじめに取り組むやつもいるだろうぜ」

「そして、彼らが戦場にたどり着いた時、そこには、何もいない」

「そうなれば……クックック……」


 俺達のテンションは最高潮の高くなる。

 秀星は自分のスーツの背中に手を入れる。


(マシニクル。無線機カモン!)


 ウキウキした雰囲気で秀星の手に無線機を出現させるマシニクル。

 そして、それと三人に見せる。


「距離も確保できるし、通信傍受される可能性も限りなく低いものだ。預けておくよ」

「預かっておこう」


 アトムは無線機を笑顔で受けとる。


「それじゃあ。行ってきまーす!」

「「「いってらっしゃーい!」」」


 秀星は部屋を出た。

 楽しそうな四人に対して、船長はぽつりと言う。


「……一応確認しておくが、君たちは正義側なんだよね」

「船長、わかってねえな。世の中って言うのはな。『正義』って書いて『クズ』って読むんだぜ!」

「来夏。良いこと言うじゃねえか」

「フフフ。さあ、楽しいのはこれからだよ!」


 船長は、深い溜息を吐いていた。

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