第四百八十九話
定期市では、持ち寄った素材などを売却する場合、総合的な施設で売却するか、個人、組織間でやり取りするかのどちらかだ。
ユニハーズもエボルートも、基本的には総合的に取り扱っている場所に行く。
毎度、この総合施設内の店を確保するために交渉している者もいるらしい。
なお、高い建物がほとんどない定期市だが、逆に面積のある建物が多い。
外にも大量の店が存在するが、この総合施設内でも市場が形成されている。
ただ、個人として交渉に打ち勝つには少々骨が折れるレベルなのがこの総合施設市場。
基本的に、『個人』の場合は外で、『組織』の場合は総合施設で、と言う流れになっている。
高志曰く、『この島にも、仲間を必要としないソロプレイヤーもいたりするから、外にも掘り出し物はあるぜ。ただ、在庫処分係を押し付けられてる奴らがほとんどだから、見つけるのが大変だけどな』だそうだ。
ただし、沙羅が『ただ、この施設内部に個人で入って来たソロプレイヤーもいますからね。そういった人たちはなかなかすごい商品を持ってきますよ。数が少ないのですぐに撤退しますが』と言っている。
統合すれば、『ソロだと施設内で店を開くのは交渉的にしんどいけど、まあいる時はいて、いた時はすごいものを売ってる』といったところだ。
別に珍しい部分は感じない。当然のことだ。
(……そんな当然のことが口から出て来るくらい、ソロですごい奴がいたってことか)
秀星はそう結論付ける。
まあ、あながち間違っていないだろう。
人は『後から考えたら当然のこと』であったとしても、そのジャンルの中ですごいものがあれば、『すごいということを理解しやすい』ため、頭に残る。
「そういえば、この島で取れるものって、とりすぎたりしたら問題とかってあるのか?」
「絶滅させない限りは問題ねえだろ。この島にいるやつの繁殖力って、すごいっていうよりエグイってレベルだからな」
「なるほど……(じゃあ、セフィアにあとで回収させておくか、武装レベルを最大で許可して置けば問題内だろ)」
「お、あれだぜ」
「うわあ……でかいな」
高さに制限がある代わりに横に広い。
そして、円形で作られた定期市の中央に陣取っているところを考えれば当然のことなのだが、横にとんでもなく広いのだ。
しかもそれだけではない。
「あの、お父さん、高さに制限があるんですよね。この施設だけ、他の建物の倍近くあると思うんですけど……」
椿が聞いてくる。
「いや、難しいことじゃない。ていうか当然のことだが、高さに制限があっても、容量に余裕があるのなら、積み上げればいいだけの話だ。大きなものを取り扱う場合、収納型のアイテムを使う最大の利点は、『定めた場所に正確に配置できる』ところにある」
一度に入らないのであれば分割すればいいだけの話なのだ。
ただ、その広さが街一つと言っていいレベルなので見落としがちなだけである。
「た、建物を予め作っておいて、積み上げるんだ。なんだか、すごい話だね」
「まあ、火や水を出すとか、風を発生させるとか、そういった部分は人間はすぐに思いつくけど、文明的な話になると魔法とは違うものを使うと考えがちだしな。俺も初めてみたときは意味不明だったぜ」
「おじいちゃんのほうがもっと意味不明だと思います!」
「ハッハッハ!凄えだろ!」
「「自覚あるんだ……」」
秀星と風香は露骨に嫌そうな顔をした。
「まあとにかく入ろうぜ」
そこに対して否定はないので、施設の中に入っていくことに。
特定の人間が部屋に入って来ることで、その場の空気が変わる。というのはほぼ必然だ。
学校などで、怖い先生が教室に入って来ると生徒達は黙るだろう。それと同じである。
財力、戦闘能力、未知発見力、交渉力。
どれを取るにしても、一位はユニハーズである。
そのため、ユニハーズの中でも最大の交渉役である沙羅が入ってくると、空気が変わる。
「おお。なんだか空気が変わりましたね」
素直な子に育った椿でさえも分かる空気の変化。
拒否はされないが、歓迎もされていないようだ。
「フフフ。今日はどれくらい毟り取れるのか、楽しみですね」
過去最大にあくどい顔になっている沙羅。
どうやら、慈悲という感情はないらしい。
「さて、私一人で交渉してきますので」
「あ、なら。これ、俺の保存箱の子機な」
秀星は沙羅に小さな箱を渡した。
「あ、先に回っててね。今日は孫の顔を見ることができて気分がいいから、お母さん全力を出しちゃうかもしれませんから」
その言葉を聞いた受付嬢が、奥に走っていくのが視界の端に見えた秀星。
「私もお婆ちゃんの交渉シーンを見たいです!未来でも見たことがなかったので!」
「ウフフ、交渉中の私を見ないほうがいいですよ」
「えー……」
「見ないほうがいいですよ。分かりましたね?」
「え……あ、はい」
雑な表現を使うと、なんだか沙羅の背後に『ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!』と、なにか良くないものが飛び出してくるのではないかと錯覚するレベルである。
それを感じ取った椿。
流石に、この状態でついていきたいと思えるほど怖いもの知らずではなかった。




