第四百八十一話
何をするにしても思ったより時間がかからない。
それが、剣の精鋭+ユニハーズという戦力の特徴である。
要するに、まだ一日目の午後三時なのだ。
ユニハーズのそれぞれのやることの手伝いをして、船の探索をして、脱線まみれのプレゼンをやった後でも、まだ午後三時なのである。
別に午後三時であることに大きな意味はないのだが、とにかく、することが早いということはお分かりだろう。
「もうちょっとのんびりやれないものなのかなぁ……」
「知るかよ……」
来夏と高志が『今日はどうしようかなー……』見たいな感じで、ネタ切れになっている様子。
そんな中、秀星と草太は拠点の外に出ていた。
特別な用事はない。
単純に、草太がフラーっと拠点を出ていこうとしていたので、秀星がホイッと付いていっただけである。
「草太って、基本的に薬草採取が仕事なんだよな」
「そうだね。基本的にはそれしかやってないなぁ」
「このあたりって、そんなすごい薬草が取れるのか?」
「一部、世界樹から入手できるものよりもすごいものはあるよ」
「だろうな。そうじゃなかったら、薬草採取だけやって、周りのメンバーに労力でおいつけるとは思えねえし」
剣の精鋭から話を聞いている限りでは、戦闘組は確かにいろいろやっているようだが、非戦闘組も労力そのものはすさまじい。
草太は戦闘組ではないが、それと同時に、非戦闘組の他のメンバーと比べてもやることが少ない印象があった。
別にそれが悪いと言いたいわけではない。
秀星は単純に、それで周りが納得している理由を探っているだけである。
「それで、僕のことでなにか気がついたの?」
「……ああ、そうだな。限定的であっても、『偶然』をあんな自然に使えるやつ、俺は見たことがない」
「……なるほど、君のことを過小評価していたかもしれないなぁ」
秀星の言い分に満足したのか、糸目のまま笑みを深くする草太。
「秀星は、僕がやっている偶然を使うことを、莫大なコストを払うことで出来るわけだ」
「ああ、そうだな」
「一秒保てるだけでもすごいことだと思うけどねぇ」
草太は微笑んだ。
「……ていうか、全くモンスターと遭遇しないな」
「当然でしょ。出会って戦闘になったら時間の無駄だ。出会わないように調節するに決まってる」
「……やっぱ理不尽だな」
秀星は自分が理不尽なことを把握しているが、それでも草太のそれは容赦がないと思う。
「偶然を自分にとって都合のいいものにする。口で言えば簡単なんだけどなぁ」
「そうだね」
「しかもそれが『薬草採取』に特化しているっていうのが父さんの仲間らしいよ」
「だろうねぇ。まあ、たとえ全ての偶然を操作できたとして、それでも高志さんに勝てる気はしないっていうのがなぁ。あの人って常識が通用しないし」
「まあ、普通や常識なんていうのは、基本的に偏見みたいなもんだけどな……ていうか、遠くの方でモンスターが暴れてる音がするってのに、このあたりは平和だな」
「そりゃそうさ。偶然が僕にとって都合のいいものになってるんだから」
偶然。
それは自分が知っていること以外のすべてだ。
運がいいとかそういうレベルの話をしているわけではない。
運というのは偶然に対して関わりやすいというだけであって、偶然そのものは誰にも味方しない。
だが、草太は薬草採取に対しては、一度起動すればその効果を発揮する。
だからこそ、どんな環境であろうと、どんなモンスターがいても、草太には全く関係のないことなのだ。
「ただ、一つだけ欠点がある。欠点と言えるかどうかは人によって別だけど、欠点がある。秀星は分かるかな?」
「……何が起こってるのかがさっぱりわからないってことだろ」
「そのとおり。偶然ってその性質上、自分が認知していないことだからさ。全然わかんないんだよこれが」
「まあ、それぐらいしかないだろうな」
秀星でも簡単には使えないほど発動コストは莫大だが、草太はそれを自然に使っている。
となれば、発動制限の話ではないだろう。
そうなれば、偶然という言葉が持っているデメリットの話になるはずだ。
運がいい。という話に置き換えるとわかりやすいかもしれない。
多くの場合は結果から過程を推測可能だが、それらのほとんどは、コイントスやサイコロとか、そのような施行することのレベルが低い場合の話だ。
戦闘能力でいうと、草太はユニハーズの中で極端に低い。
もちろん、偶然を使って手に入れた強力な薬草を使うことで、その戦闘力を上げることは可能だが、素の戦闘能力はメンバーの中で最下位だろう。
まあもちろん、偶然を使うなどという意味不明な力を使っているのだから関係があるはずがない。
「ついてきてもらって悪いけど、結構暇だよ」
「最初からわかっていたことだ。問題ない」
そう思った時だった。
突如、頭上の空間が割れたと思ったら、そこから近未来的なジェット機のようなものが出てきた。
「「!?」」
これには秀星と草太もびっくり。
ジェット機は出現したと思ったら、そのままフラフラと二人がいる森を右往左往して……。
「あー……なんかめっちゃでかい音響いたな」
「何をどう考えても事故ってるな。ちょっと行ってみようか……」
というわけで、二人で行ってみることに。
見事に不時着なわけだが、ジェット機そのものは頑丈だったようで、傷がついている様子はない。
その時点でいろいろ頭がおかしいのだが。
「誰が入ってるんだろう」
「さあ……」
すると、出入り口が開いて、中から誰かが出てきた。
少女だ。
思っていたよりも小柄。具体的にすればは百五十センチといったところ。
緑がかった長い黒髪には白いメッシュが入っている。
沖野宮高校の制服をアレンジしたような服装の上に、黒い外套を纏っていて、外套の胸の下の部分にベルトが存在するせいか、幼い顔立ちながらもしっかり育っている胸が強調されていた。
左の腰には刀を吊っており、主力装備が刀であることはよくわかる。
その少女は、あたりをきょろきょろと見渡した後、秀星と目があった。
「あっ!お父さん!」
「人違いです」
純粋に困った秀星であった。




