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第四十八話

「さすがに、犯罪組織が乗りこんでくることはないか」

「無理だろうね。あまりにも、呼ばれている戦力が大きすぎる」


 ダンジョンから出た秀星たちは、そのままリムジンごと客船に乗りこんだ。

 ダンジョンに挑んでいた人数は千人ほど。

 ダンジョン中にばらけているうえに、ベースキャンプは、大小様々なものがあちこちにあったようだ。

 秀星たちが使っていたのは、拠点本部と言うだけの話である。

 プラチナランクに匹敵するチームだけが宿をとっていた。


 一週間と言う時間ではあったが、九人しかいない剣の精鋭が稼いだ金額は、二億を超える。

 とはいえ、ドリーミィ・フロントはさらに多いのだが、それはいいとして。

 当然、そんじゃそこらのクルーズ船が用意されるということはなく、魔法社会最大の『魔法船』である『アメイジング・リアリゼーション』に乗ることになった。

 これにより、一度東京近くの隠蔽港まで行って、そこからはまた各種交通機関を使って帰る感じだ。


「魔法社会専門の航海会社があるとは思わなかったな……」

「裏の通路と言うものは必要だからね。当然、海にも空にもあるよ」


 アトムと話している秀星だが、お互いにドレスコードはばっちりである。

 リムジンから降りたと思ったら更衣室だったのだ。あれは驚いた。

 秀星は自分で着れるので、適当にサイズが近いものを選ぼうと思っていたのだが、何故かベストサイズのものがあった。何故。


 それはそれとして、様々な移動手段が必要になることは確かだ。

 秀星の場合は保存箱があるので、手に入れたものを全て入れておくことが出来るのだが、普通に考えればそうはならない。

 ただ、いろいろとサイズに違いがあるので、船で運ぶこともあれば、飛行機で運ぶこともある。


「それにしても、なんか、金の使い方がおかしいって言うか……こう言うものなのか?」

「プラチナランク。と言うこともあるだろうね。ただし、実質的にマスターランクに与えられるはずだったサービスが、私たちに行われているだけさ。別に悪いものではないだろう」

「悪いものでは……確かにないな」


 豪華客船と言うこともあるが、スタッフも優秀だし、使われているもののほとんどが高級品だ。

 試しにいろいろと出されたフルコースの料理を食べてみたが、普通においしい。セフィアには負けるけど。

 船が大きく、船内もかなり広いからだろう。かなりいろいろとそろっているし、科学的に解決できないことを魔法で補完することで、スピーディーな運用も可能だ。

 無論、サービス業がほとんどなので、結局、人と物ではなく人と人であり、積み上げてきた文明よりも、個人の経験が重視される。

 そう言った部分でも、数多くの経験を積んだものが多かった。

 やりすぎている。と秀星は思ったほどだが、アメイジングの言葉通りと言えば言葉通りなので否定はしない。


 ちなみに、スペースが広いといったが、船底に近いところには未成年進入禁止エリアがあった。

 カジノにしても、風俗にしても、そういう店はあるのだろう。

 さすがにそういったところに未成年を入れるのはいろいろな意味で問題が出て来る。


「それにしても、君はこれから大変だろうね」

「え?」

「『剣の精鋭』の切り札。それも、圧倒的な戦闘力を持つということは、既に魔法社会全体に広まっている。君を囲もうとしているのか、敵対しないために動くのか。それは組織によって異なるが、気を付けるべきだろう。君は賢いようだが、まだまだ詰めが甘そうだからね」

「うるさいなぁ……」


 正面から戦えば、目の前にいる同じ神器使いであるアトムであっても秀星は負けない。

 だが、秀星は、あえて頭を使う展開を避けてきた。

 使ってしまうと、それを止めようと神が来るのであえて普段からボーっとしているようなものだが、避けてきたといえば避けてきた。

 結果として、頭脳戦とかそう言う面倒な部分は経験が不足している。

 頭を使うのは神器ダンジョンだけで十分だ。


「ま、誰も来ないのなら、それはそれでのんびりできるからいいんだけどな」

「私はそうはならないと思うがね……」


 二人はパーティー会場に来た。

 スーツ姿のスタッフが扉を開ける。

 その奥には、祭りがあった。


 千人規模の魔戦士がいるにもかかわらず、パーティー会場にはゆとりがあるのではないかと思うほど広い。

 二階や三階など、いろいろと階層に分かれているので、開放的に見える。

 立食パーティー形式と言うこともあると思うが、丸テーブルや長テーブルには様々な料理が存在し、会場の端の方では、オーダーで頼んだであろう料理を食べている人もいる。


「あ。ステージでジャズが……雫がサックス吹いてる……」


 名も知らぬ楽団に混じって雫がサックスを吹いている。真っ黒のロングドレス姿で。

 時々楽譜を見ているが、ほとんど見ていないに等しい。

 聞こえてくる音楽を聞いていると、雫がどういう状況なのかがよく分かる。


「ふむ……彼女。呪いを除けば、いつもあの性格を演じているようだが、世界が自分を中心に回っているというより、他人の世界に土足で踏み込んでいるような感じだね」

「まあ、ああいうタイプなのは今更だ。で、呪いのことは分かるんだな」

「さすがに見れば分かる。というより……いや、それはいいか。あ、刹那がバイオリンを持ってきた」


 紫の衣装に包まれた刹那が歩いてきた。

 その美貌もあるが、衣装に包まれた刹那はとてもきれいで、会場にいる全員を魅了しているだろう。


「……あ。雫が割りこんでたのに、そこからまた刹那の色に染めちゃった……」

「あそこまでいくと、楽団の皆がかわいそうだね。後で謝っておく必要があるかもしれないよ」


 雫はどちらかと言うと、仲間に入れてもらいに行く感じだ。ただし許可は求めないが。

 刹那の場合、一方的な侵略である。

 考慮などしないのだ。

 ただし、侵略した先で自分一色に染めるが、その色が悪くないのである。

 結果的に、反対されない。

 秀星が知っている単語でまとめるなら『反則』である。


「なんていうか……お互いにすごく主張が激しいな」

「でも、一応作曲としてのルールは守ってるし、コツも掴んでるから嫌な感じはしないんだけど……」


 元からいる楽団の方たちがすごく不憫なのである。

 とはいえ、秀星だって、猛獣と一緒の檻に入りたいかと言われれば、進んではいろうとは思わない。


「……私もね。当然のことだが、刹那と比べて戦闘力と言う点で劣っている訳ではないよ。真正面から戦おうと、不意打ちされようと、私が勝つだろう」

「俺も、雫に負けるとは思えないなぁ……」

「だが、その、分かるだろう。なんとなくこの、敵にまわしたくない気持ち」

「すごくよく分かる」


 異世界でもそうだったが、あくまでも人でありたい故に、捨てることができないモノがあるのだ。

 そしてそれは、いつでも、自分たちはこういうバカの尻拭いをこれからもしていくことになるのだということを示し続けるのだ。

 アトムくらいの男ならば、暴走する程度の女なら手の上で転がせると思うのだが、それでも、刹那はそう言うレベルではないということなのだろう。


「そろそろ終わりか」

「みたいだな」


 パーティーもそろそろ終わりごろだろうか。

 すでに年少組は寝ているだろう。


 そう思った時だった。


「「!」」


 秀星とアトムの胸ポケットで、スマホが震える。

 秀星がとりだすと、来夏からの緊急メールだ。

 確認すると、今すぐに、船首付近の会議室に来てほしい。と言うことがかかれている。


「アトム」

「君の方にも来たようだね。私も向かうとしよう」

「まだ……夜は長いか」

「当然」


 音楽を聞いているうちにソフトドリンクを飲んでいたが、そのグラスを近くのスタッフに預けて、二人は走りだした。

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