第四百七十八話
「……機関部の方は秀星たちくらいじゃないと意味わかんないし、その辺に使われてる魔法具のほとんどはなんだかあまりスペックが高くないし……なんだかちぐはぐね」
千春はそんなことを呟いた。
ただ、一緒に廊下を歩いているジークとエイミーから反論がないところを見ると、全員の意見は一致しているようだ。
「製造された船の方は魔法技術がほとんどで作られているのは分かったが、魔法具の方の技術がおいついていない。よほどすごい魔術師集団がいた。と考えればまだ何とかなるが……あまりにも極端だな」
「少しだけ残っていた魔法具も、深海に放置された後で無理矢理引っ張り上げたためか、かなりボロボロですし、サンプルにはなりませんね」
豪華客船を二人でサルベージするという行為そのものは、現実的かどうかと言う点を除けばまだいい。
しかし、あまりにもバラバラ過ぎてどうにも言えない。
「ただ、しっかり残っている部分もあるのね」
「この船の製造目的と沈んだ理由は分からないが、昔の要人が乗っていた可能性は十分高い。一部、小さくてかさばらず、そして価値があるものは基本的に深海に対する耐性が付与されている」
船の素材と要人が持っていたであろう指輪型の魔法具に同じような耐性付与がかけられている。
その付与を行ったものはかなり高位の付与術師で、しかも階級が高いものと関係があったことは明白だ。
……もちろん、昔の文明力で、この船を一般市民が作れるわけがないので、高位のものが関係があるのは最初から分かっていたことだが。
「……それにしても、この船、一体何年前に沈んだのかしら」
「それは私にもさっぱりわからなかった。付与による耐性がかけられていて、正常に腐食していないな」
「……秀星さんに電話してみます」
エイミーが電話をかける。
『もしもし、どうした?』
「あ、秀星さん。今ちょっと話していたことなんですけど、この船って、一体何年前に沈んだと思いますか?」
『思ったより緊張感が感じられないところを見ると、本当に雑談なんだな。まあそれは置いておくとして……俺とアステルが見た限り、沈んだのは二万年前だっていう判断だ』
「え?」
思っていたよりも昔すぎる。
『もちろんこれにも理由はあるんだが、思っていたよりも重要なことだからまた後でな』
というわけで、通話終了。
「……この船、沈んだのは二万年前だそうです」
「「二万年前!?」」
流石の二人も驚いた。
正直意味不明である。
もう少し近いと考えていたのだが、大幅に時間がずれていた。
「……どういうこと?」
「かなり重要なことらしいので、後で全員が集まった時に話すそうです」
「ふむ、一体どんな秘密が……」
ジークがそう言った時、三人の視界に、大型のホールへの入り口が目に入った。
「……ちょっと見てみますか?」
「そうだな」
大型の施設はやはり気になる。
というわけで、ちょっと扉を開けた。
するとそこには……。
「おーい来夏。ゆっくりおろしてくれよ」
「わかってるって!」
ステージの天井付近にある梯子で待機している高志と、ステージの横で大型のハンドルの前で待機している来夏。
「ピアノ線ちゃんと繋いでるか!」
「おう!ちゃんと結んでるぜ!」
そういって、両肩につないでいるピアノ線を揺らす高志。
「よし、それじゃあ始めようぜ」
「よっしゃ!」
そう言うと、高志は梯子からゆっくり飛び降りる。
丁度、ピアノ線に吊られるように待機している。
そして、上からライトが光って、高志を照らした。
高志は腕を大きく広げて、顎を上げて、うっとりするような所作で空中にとどまっている。
来夏がゆっくりハンドルを回すと、上からライトに照らされた高志がゆっくり降りてくる。
出入り口から見守っている三人としても、なかなかいい演出である。
テーマは『降臨』だろう。降りてきているのが暴走族のような衣装の男というのがなんとも救いようのない話だ。
……が、一瞬、高志の上の方で何かがキラッと光った気がした。
三人が『ん?』と思った瞬間……キラッと光った場所。ピアノ線が切れた。
当然のように、ガクンと傾く高志の体。
「うわあああああああ!うおおおおおおおお!あ、あぶねえええええええ!」
もう一方のピアノ線を掴んで悲鳴を上げる高志。
(((ダサすぎる……)))
人が見ている場所ではギャグしかできないのかあの男。
急激に何かが冷めた三人は、そのままドアを閉めて、探索を再開するのだった。




