第四百七十五話
船の探索というのはなかなか楽しいものだ。
拡張することが困難な『乗り物』という概念のため、設計の段階から『どこに何を置くか』という部分が決まっている。
高志と来夏がサルベージした船は、機関部は雑な部分が見えるものの、大きさだけを見るなら近年に作られていても不思議ではないレベルである。
内部はかなり広く、とにかく素材を魔法を使って頑丈にしようとしたのか、船の基礎の部分も、そこからつけられた外装部分もかなり残っている。
秀星は船に関する知識が薄いのでアステルが見る限りでは、『基礎はしっかりしているがそれ以外は大雑把だから、文明に関わる神器を使って修復すれば、まだ使うことはできる』とのこと。
……まあ仮にいろいろ直したとしても、高志と来夏が何をやり始めるかわからないので、機関部は爆破しておいたほうがいいかもしれないが。
それはともかく、巨大なだけあっていろいろある。
そして……。
『倉庫にいけば、当時使われていた魔法具があると思うです』
という美咲の言葉により、美咲と標は倉庫に向かっている。
基本的に美咲くらいの子供は、見たものや知っていることしか考えることはできず、抽象的なことを考えられるようになるのは中学生から、という印象があるのだが、美咲の家の倉庫には一体何が眠っていたのだろうか。
船の下の方に倉庫はあった。
当然のように出入り口には鍵がついていたが。
『こんなガラクタはどうでもいいのじゃ』
といって標が文字通り叩き壊したのだが、これに関しては深く追求するのはやめておく。
中を見ると……もうとんでもないレベルで床に散らばっていた。
それを見た二人は『まあそりゃそうですよね』みたいな顔になって、ドアを閉める。
「想定外なのじゃ!」
「そうですか?美咲はなんとなく予想してたです」
「ふにゃあ……」
三者三様。ポチは魔道具など使わないし縁がないので興味がないのが丸わかりである。
「どうしたものかのう……」
「標さんはゴミだけを捨てることはできないですか?」
「ワシの場合、広範囲じゃと無差別に分解するからのう……」
「意味があるものでもゴミとして分解するです?」
「当然じゃ。というより、人は意味があっても捨てるときは捨てるじゃろ」
「それもそうだったです」
標はどうしたものかと考える。
が、考えてもわからなかったので、アステルに電話した。
「もしもし。ワシじゃ」
『標さん。何か見つけたんですか?』
「魔法具目当てに倉庫に行ったのじゃ。ただ、足のふみ場もないくらい散らばっておる」
『まあ、一度沈没して、それを無理やり引き上げたらそうなりますよね』
「なにかいい方法はあるかの?」
『なにかいい方法……ん?秀星。どうした?……ああ、なるほど』
「お、何かあるのかの」
『秀星から『ゴミを無差別に分別することができれば、結果的には整理されるはず』だそうです』
「おお!たしかにそのとおりなのじゃ、ありがとうと言っておいてくれ。それじゃまたの」
通話終了。
「とりあえず、思いっきり無差別に分別することになったのじゃ」
「標さんが普段は分別をしていないことがわかったです」
「普段はまとめて全部魔力に分解するんじゃからいいじゃろ別に!」
というわけで……。
「分別開始じゃ!」
広範囲に渡って、自分が支配する魔力をばらまく標。
すると、その魔力が触れたところから徐々にモノが動き出す。
「おおっ!凄いです!」
ものが自動的に、床に固定されて設置されている棚の中に戻っていく。
なかなか凄まじい光景だ。
嵐のようにただ雑にかき回しているのではなく、あくまでも分別しているので、しっかりと分けられているのが目に見えてわかる。
「ハッハッハッハ!どうじゃ。すごいじゃろ!」
一分とかからず分別完了。
「ところで標さん」
「なんじゃ?」
「魔道具はどこですか?」
「……一番奥じゃな」
当初の目的をすっかり忘れている標。
そんな標を見ながら、美咲は『歳ですね』と思うのだった。
正直、小六に言われるともう受け入れるしかない。
標は、お婆ちゃんなのだ!




